ハイエルフと精霊
「森のことに関しては、さっき話した通りだ。
余程のことがない限り、お前に任せるとしよう」
精霊獣、もとい、ギルドマスターのチョロチョロが許可をくれるなら、何かあっても守ってくれるだろう。
ギルドマスターが何者かわからないと言ってる時点で、少し危ない気がするけど。
でも、砂漠に続いてダークエルフの仕業ではないはず。
ダークエルフの強さを持っていたら、ニオイ袋なんて用意する必要はない。
Bランクモンスターに出会ったら生き残れないレベルの4人組が、森を荒らしまわっているだけ。
それなら、料理を食べたにゃんにゃんに敵うはずがない。
「わかりました。
領主様も関わっていないようですので、捕まえてギルドに引き渡しが1番いいですね。
4人組が下っ端で、他にも組織的に動いてる可能性もありますし」
「そうしてもらえると助かる。
今回は冒険者ギルドの依頼というより、個人的な我の依頼になる。
何か問題があるようならギルドの名を出してもらっても構わんが、報酬はスノーフラワーだけだからな」
「はい、それで構いません」
チョロチョロがホッとしたような表情を見せてくるから、きっとギルド運営がカツカツなんだろう。
精霊獣って大層な生き物だと思うんだけど、けっこう苦労しているんだな。
「スノーフラワーは咲いてませんでしたけど、手元に残ってるんですか?」
「いや、1、2本ならすぐに用意できるだろう。
高濃度にした魔力を結晶化したものが、スノーフラワーだからな。
多くの魔力が必要なだけで、簡単に作ることができる」
余分に作れるなら、この時期に花を作って売れば儲かるのに。
「そうですか、僕としてはスノーフラワーがもらえれば問題ありません。
精霊に好かれる体質らしいですけど、目に見えないし話せないですからね」
僕が精霊の話に触れると、チョロチョロの顔付きが急に厳しくなった。
3,000年も生きて、古代竜とやり合うだけはある。
キマイラと対峙した時のように、空気がピリピリするような印象を受ける。
「やはりそうか、一目見た時から気になっておったんだ。
ハイエルフにしてはおかしいところだらけだからな。
魔力を持たない、強さを感じない、女ではない。
だが、お前は正真正銘のハイエルフで合っておるよな?」
詳しく知ってるのかよ。
聞きたいのはこっちだっていうのに、確認してこないでくれ。
悲しみの魔法使いになって、この世界に転移してきただけなんだから。
僕だって、魔力を持って転移して無双したかったよ。
ハイエルフになるんだったら、魔法をガンガン使ってカッコよく討伐する、賢者のような存在に憧れるもん。
実際は、ただの醤油戦士だというのに。
でも、女の子に生まれ変わらなくてよかったとは思うけどね。
恋愛ルートがマールさんオンリーになってしまうから。
「一応ステータス上ではそうですけど、僕も詳しくわからないんですよ。
女性のハイエルフであれば、精霊を見ることができるんですか?」
「見るも見えないも、元々精霊と同種族のようなものだからな。
ハイエルフは、精霊の魔力を4分の3以上保持している精霊に近い人族のことを表す。
1,000年に1度ハイエルフの女が生まれ、世界中の魔力を調和させてきたはずだ」
もしかして、僕という存在がいること自体がイレギュラーなのかな。
異世界人だから、当然だと思うけど。
「ハイエルフが人の子を宿せば、受け継ぐ魔力次第で人かエルフが生まれる。
エルフは精霊の魔力を4分の1以上保持している者であり、体が精霊の力に順応するために耳が尖ってくる。
精霊魔力が大きすぎると体が縮み、ハイエルフは大人になっても子供のままらしいが。
稀に精霊の魔力を目に宿した人間が生まれるが、人の間では精霊使いと呼ばれているな」
だいたい予想はしていたけど、大人になっても子供のまま……か。
それを聞いて安心しましたよ。
いつまで経っても、色んな人に甘えて過ごせそうで。
ずっと子供を武器にして、甘やかされて過ごしていこう。
「僕がハイエルフだとわかったのは、精霊の魔力を宿しているからってことですか?」
「半分正解だが、半分は不正解だ。
精霊の魔力を多く宿してるのは事実だが、胸元に封印されている。
僅かに漏れ出ているところを感知しない限りは、エルフでもハイエルフだと気付けないだろうな。
そんなことが理解できるのは、我や古代竜のようなハイエルフと面識がある者くらいだ」
待ってくれ、封印について思い当たる節が多々あるぞ。
恋愛イベントで必要以上に荒ぶる心臓。
独立するような動きを見せ、心停止をしても命に別状はない。
最近でいえば、爆発したのに再び稼働している。
まさか精霊の魔力による影響だったとは。
凶暴すぎる精霊の魔力に驚きを隠せないよ。
きっと【悲しみの魔法使い】の呪縛と【初心な心】が無駄にコラボしている影響もあるんだろう。
まったく、なんて恐ろしい称号なんだ。
「きっと精霊も気付いているんですね。
王都で精霊使いに会ったことがありますけど、鼻の中に入って遊んでいたらしいですから」
「確か……王都のギルドマスターに精霊使いがいたな。
顔を合わす度に精霊が話しかけてくるから、誤魔化すのに大変なんだ」
「精霊使いでもないのに精霊が見えると怪しまれる、ということですか。
人として溶け込むのも意外に大変なんですね」
「まぁな、人間のことは人間で処理してもらえると助かるんだが、精霊の森を守るためにはそうも言ってられん。
とりあえず、森の4人組のことはお前に任せる。
精霊達も穏やかに過ごせんからな」
「ま、待ってください。
もう少しハイエルフのことを聞かせてください。
聞くにも聞けないし、誰も詳しいことを知らなくて困っていたんです」
「すまんな、我らは基本的に関与しないと決めておる。
森の手助けをしてもらうため、サービスして話したつもりだ。
さぁ、もう日が暮れてきた。
仲間が心配せんうちに帰った方がいい」
我ら……か。
古代竜と1,000年ぶりに出会って暴れたと言っていたし、続きを聞くなら古代竜とコンタクトを取るしかない。
関与しないと決めているなら、どこまで聞けるかわからないけど。
「わかりました。
では、明日の朝に再び森を散策しますから、スノーウルフに襲わないように言っておいてくださいね」
「任せておけ」
書類整理の仕事をチョロチョロが始めたため、部屋を後にした。






