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ブーメランパンツの男

 冒険者ギルドに急いで入ると、そこには2度と会いたくない男がいた。


 信じることができるだろうか。

 冒険者ギルドのフロア内で、ブーメランパンツの男が2人で社交ダンスを踊っていることを。

 顔の系統が似ていることから、兄弟だと推測できる。


 トラブルが起こった時は、素早く上司に連絡することが必須。

 でも、時にはマニュアルから外れて対応する柔軟性も必要である。


 僕の意思が伝わったのか、マールさんと忍び足で出口へ向かう。


「ヘイヘーイ、タッきゅんにマッきゅんじゃないかー。

 オジサンに会いたくて戻って来ちゃったのか~い?」


 見つかってしまった。

 ギルド中の視線を集めてしまうほど、注目を浴びても困る。


 みんなの言いたいことはわかるよ。

 こんな恐ろしい変態と仲が良いなんておかしいもんね。

 いや、仲良くはないけど。


「ホイホーイ、あれは誰だい、トーマス。

 随分親しそうなボーイとガールじゃないか」


「ヘイヘーイ、アンドルフ兄さん。

 タッきゅんとマッきゅんは心の友さ。

 なんといっても、彼は巨大ワームを倒した張本人だからね」


 周りの冒険者とギルド職員がザワザワと騒めき始める。

 変態フレンズを見るような目から、格上の冒険者を見るような尊敬の眼差しへと変わっていく。


「巨大ワームって、1度討伐ミスしたやつだろ」


「トーマスさんが借りだされるレベルだったのに、あの子が倒したの?」


「あの若さでSランク冒険者と同等の強さを持っているのか」


 通行規制がされていたこともあり、この地域では早くも噂が広がっているのかもしれない。

 Sランク冒険者のトーマスさんが言ったこともあって、評価が加速して伸びていく。


 でも、そんなことはどうでもいい。

 お兄さんの名前が『アンドルフ』と、無駄にカッコいいことに驚いている。


 全世界のアンドルフさんに今すぐ謝ってほしい。

 全世界のトーマスさんにも今すぐ謝ってほしい。

 ブーメランパンツの男が、2人揃って仁王立ちしないでほしい。


「ホイホーイ、イリス様からトーマスでも倒せなかったと聞いているぞ。

 あんな子供が倒しちゃうなんて、脇腹がキュンキュンしちゃうな~」


 未だかつてないほどの悪寒が全身を走り抜ける。

 悪い意味で心臓が鷲掴みにされた気分だ。


 こんな注目を浴びたままでは、ギルド職員さんを通じて指示を仰ぐことができない。

 ギルドマスターに直接会って、別室で話した方がいいだろう。

 幸か不幸か巨大ワーム討伐の話が広がったし、拒否されることはないはず。


 ブーメランパンツの男2人を無視して、ギルド職員さんの方を見る。


「すいません、ギルドマスターと別室で話すことはできませんか?

 少しギルドの指示を仰ぎたいことがありまして」


「ホイホーイ、オジサンに言ってみなよ。

 弟が無事に帰って来たのは君のおかげなんだ。

 な~んでも答えちゃうぞっ」


 ウィンクしてくるブーメランパンツの男に用はない。

 アンドルフさんは黙っててくれ。

 僕はギルドマスターに用があるんだ。


「いえ、変態はけっこうです。

 ギルドマスターにお会いしたいんです」


「ハッハッハ、若いのに褒め上手だな~。

 それじゃあ、別室に案内してあげるよ。

 グアナコのギルドマスターはオジサンだからね」


 衝撃の真実を聞かされ、マールさんと一緒に膝から崩れ落ちてしまう。


 ブーメランパンツの呪縛に囚われてしまったに違いない。

 全身に寒気が走り続けると同時に、肺が圧迫されて息苦しくなった。


 まるで、肺がブーメランパンツで締め付けられているようなあり得ない感覚。


 絶望的な表情で苦しむ僕達を見たトーマスさんが「タッきゅんとマッきゅんは照れ屋だからね~」と、なぜか好意的に受け止める。

 その言葉と共に、2人のブーメランパンツを履いた男の笑い声だけが、ギルド内に響き渡っていた。




 - 冒険者ギルド内、別室 -




「そうかいそうかい、マッきゅんはギルド職員なんだね~」


 トーマスさんに席を外してほしいと必死になって頼み込み、アンドルフさんとマールさんの3人で別室に入ることに成功した。

 ブーメランパンツの変態を2人同時に相手をすることができないんだ。


 いや、1人でも無理だけどね。


「は、はい……。

 これからボクはどうしたらいいですか?」


 一通り事情を説明したマールさんは、色んな意味で不安そうだ。


「フェンネル王国とグアナコを結んでる橋は、特殊な土系統の儀式魔法を使っていてね。

 最低でも準備に1か月はかかっちゃうんだよ。

 安全の確保にも時間をかけたいから、橋の復興を待つなら2ヶ月はかかる予定だね」


 確か橋を壊したのは、ドラゴンとウルフによる影響だ。

 1か月も準備して行う儀式魔法で作り出した橋を、魔物2体が暴れただけで壊れるものだろうか。


 高ランク冒険者が巨大ワーム討伐に借り出されていたとはいえ、ギルドマスターのアンドルフさんは応戦したはず。

 Sランク冒険者の兄でギルドマスターをしていることを考えると、ドラゴンを追い払う力は持っているだろう。

 スタンピードでもないのに、なぜ橋を守れなかったんだ?


「あのー、1つ聞いてもいいですか?

 簡単に壊れないようにするため、わざわざ儀式魔法を使っているはずですよね。

 この街に多くの冒険者達もいたと思うんですけど、なぜ橋を防衛できなかったんですか?」


 芸能人張りに歯をキラーンッとさせたアンドルフさんは、無駄に全力の笑顔を見せてきた。


「ホイホーイ、良い質問だね。

 オジサンもすぐに現場へ向かったんだが、あれはそういう次元の問題じゃない。

 稀に神のような魔物を見るという情報が入るけど、実際に見たのは初めてだったよ。

 伝説の古代竜だと思うから、橋を守らずに避難を優先させたんだ」


 災害級やSランクモンスターを討伐した後は、古代竜か……。

 スズがいない時に限って、神獣に近付きそうな情報が手に入るなんて。

 無理に近付くのは危険な気がするし、スズと合流してからフリージア周辺を散策して接触を試みた方がいいだろう。


「これからの行動については、マッきゅんはうちのギルドに臨時勤務してもいいんだが……。

 オジサンのおすすめは、北にある『雪の都 アングレカム』を経由して、フリージアへ向かうルートだな。

 巨大ワーム討伐の療養と付き添いという形で処理してあげるから、ゆっくり楽しんで帰るのはどうだい?」


 夏のような砂漠から、今度は冬のような雪国か……。

 僕は装備があるから大丈夫だけど、気候が全然違う地域になる。

 砂漠生まれのマールさんは寒さに弱いと思うから、体調を崩さないか心配だよ。


 療養と付き添いなら、旅行みたいな感じで悪い気はしないけどさ。


「一応、ボクは出張という形になっています。

 緊急時だったとしても、それでいいんですか?

 遊んで帰るみたいで、同じギルドの仲間に悪い気がして……」


「優秀な冒険者をサポートすることも、ギルド職員の大切な仕事だよ。

 ここに入る前に依頼の履歴を確認させてもらったけど、タッきゅんは療養するべきだからね。

 随分とハードな依頼しかやっていないから、オジサンは心配なのさ。

 フリージアにはこっちで連絡しておくし、この機会に羽を伸ばして来たらどうかな?」


 見た目と話し方が変態なだけで、中身はちゃんとしたオジサンかもしれない。

 Sランクモンスターを討伐した僕に気を使ってくれているんだろう。

 ギルドとしても良好な関係を築きたいから、長期滞在より旅行して帰ることを提案してくれたんだ。


 ブーメランパンツの時点で良好な関係は結べないけど。


「は、はぁ。わかりました。

 じゃあ、お言葉に甘えようと思います。

 ボクも1度は行ってみたかったので」


「ホイホーイ、そうしたまえ。

 でも、さすがに予算出さないぞっ。

 巨大ワーム討伐の報酬金をばら撒いてきてくれ」


 ちゃっかりしてるな。

 まぁ莫大な資金を持っている僕からすれば、全然余裕だけどね。


 マールさんも雪国に行く予定はなかったから、冬用の服を持っていないだろう。

 醤油戦士が高い洋服をバンバン買ってプレゼントしちゃうよ。

 この旅行でマールさんのポイントを急上昇させ、恋人以上に昇格する作戦だ。


「わかりました。

 ちなみに、雪の都は何があるんですか?」


 何気なく聞いたこの質問で、僕はブーメランパンツの男に盛大に感謝することになった。

 超絶変態で関わりたくなかった男なのに、恋のキューピッドのように思えたんだ。


「ホイホーイ、そんなことも知らないのかい?

 雪の都は温泉が有名だよ。

 2人でゆっくり温泉に入って、巨大ワーム討伐の疲れを癒してくるといいさ」


【あとがき】


次回から新章【忍び寄る影】に入ります。

物語も佳境に近付いていくため、お楽しみいただけたらと思います。


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