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レフィーの夢

 発情しているマールさんという犬が、レフィーさんを地下へ追い込んでいく。

 ギルドのトップからお触りの命令をいただいたことで、ヘタレなのに全力で実行しているみたいだ。


「マール、次のまがり角を右へ行けば地下の階段がありますわ。

 決して逃がしてはなりませんわよ」


「は、はい! イリス様!」


 忠実なる下僕を手にいれたイリスさんは、マールさんに指示を送って誘導する。


「わかったから追いかけないでくれ。

 地下へ行くからそいつを止めてくれ。

 完全に目が危ないんだ、うちを襲う気満々だぞ」


 必死で逃げるレフィーさんはマールさんを恐れている。

 姉御肌だから、女の子からのお誘いも多いんだろう。


 そんな光景を僕は微笑ましく見ながら、3人を追いかけているよ。


 角を曲がって地下への階段を降りていく。

 関係者以外立ち入り禁止って書いてあるけど、問題ないだろう。


 地下はたくさん部屋が別れていたけど、レフィーさんは迷わずに1番奥の部屋に入った。

 一緒に中へ入ったマールさんは、イリスさんの「マテ」でピタリと静止する。


 完全に犬扱いじゃん。

 いいなー、ちょっと羨ましい。

 妹にペットプレイされてみたい。


 頭を軽く撫でられたマールさんがだらしない笑顔で喜ぶ中、レフィーさんは息を切らすほど疲れていた。


「はぁ、はぁ、そ、そんなに急がなくてもいいだろう。

 いったい、何があったっていうんだよ」


 入った地下の格納庫はただ広いだけの倉庫。

 本当に何もない空間で、予備に残された部屋って感じだ。

 光の魔石で明かりが付いているから、作業にも支障はないはず。


 イリスさんがそっと扉を閉めると、ガチャッと鍵をかける。

 来る時にガッと掴んで持ってきた氷の魔石を辺りにばら撒くと、ひんやりした空気が流れていく。


「レフィーに蓄積した4,356個の借りのうち、3,000個分は返せるほどの大きさですわ。

 いいこと? マールもレフィーも他言無用ですのよ。

 まだ情報規制がかかっている内容ですの。

 いずれ公開する予定ですけど、公開時期は未定のトップシークレット案件ですわ」


 借りを作りすぎだろう。

 そりゃ本人も覚えていないし、返せるような量じゃないよ。


「情報規制がかかってる内容を、うちらみたいな人間が知ってもいいのか?

 話すつもりはないが、簡単に聞いてもいい問題じゃないだろう」


「構いませんわ。

 レフィーは1番信用していますし、マールはわたくしの言うことに逆らわないタイプですの。

 わたくしの人を見る目は確かですのよ」


 実際に会った醤油戦士に危険な依頼をお願いした時点で、説得力0だ。

 あっさりとマールさんを下僕にしたことはすごいと思うし、マールさんに至ってはその通りだけど。


「細かい話を聞かなければ大丈夫だと思います。

 今から出すものを内緒にしてもらえれば、何も問題はありません。

 解体好きのレフィーさんにとっては、悪い話にならないと思いますし」


「そうですわ、むしろ喜ぶべき案件ですの。

 さぁ、早く出して差し上げて?」


 近くで見ると驚きすぎると思い、少し離れた場所まで歩いていく。

 マールさんは受付の仕事をしてるといっても、魔物の耐性は強くないはず。

 イリスさんも統括とはいえ、か弱い女の子だから。


 みんなから5mほど離れたところで立ち止まり、アイテムボックスからキマイラを取り出した。

 当然のように嬉々とした表情に変わるのは、レフィーさんが本当に解体好きだからだろう。

 普通はマールさんのように、言葉にならないような驚き方をするから。


 猛ダッシュでキマイラに近付くレフィーさんは、早速ベタベタと触っていく。


 蛇になっている尻尾を恐れることもなく、顔をグッと摘まんで歯や目を確認。

 脚の指も研究するようにチェックして、爪をウットリするような表情で眺める。

 傷口からまだ少し流れる血を指で取ると、ニオイまで嗅ぐ徹底ぶり。


 解体好きということもあるけど、きっと魔物の構造が気になるんだろう。


 無言で嬉しそうにじっくり見ていくレフィーさんの姿を、僕達はそっと見守っている。

 怖がるマールさんは、自然とイリスさんの腕をギュッと抱き締めていた。

 興奮するような様子はないから、本当に怖いんだろう。


 イリスさんが落ち着かせるように頭を撫でてあげると、目を細めて喜び始めたけど。


 抱きつくマールさんの姿をチラ見していると、レフィーさんの顔がいきなり曇り始めてしまう。

 いくつもある傷口のうち、一点だけ目を細めて見つめていた。


「なぁ、さっきヴォルガの兄貴達が解体不可能だったと言ったよな。

 ここに僅かだが、表皮剥ぎ取ろうとした痕跡が体内の肉に付いている。

 あの5人がチャレンジしても出来ないなんて信じがたいんだが、こいつはいったいなんなんだ?」


「災害級の魔物に分類されるキマイラという魔物です。

 フリージアのギルマスが言うには、死んでも表皮に魔力が流れているみたいで、死んだ今も物理攻撃が通りません。

 実際に戦った時も物理攻撃は受け付けませんでした。

 だから、解体用のナイフで皮を処理できないみたいで」


 災害級の魔物と聞いた瞬間、レフィーさんの目がキラキラと輝き始めた。

 ガッツポーズをして喜び、死んだはずのキマイラに抱きつくというクレイジーっぷり。


「レフィー、魔物に抱きつくものではありませんの。

 フェンネル王国の国王も認めた、正真正銘の災害級の魔物ですのよ。

 わたくしも初めて見ましたけど、このように禍々しい魔物は初めて見ますわ」


 傷口に頬ずりをして顔に血を付ける姿は、さすがの僕でも引いてしまう。

 可能ならば、今すぐキマイラと場所を変わりたい。


「ちょっとくらい許してくれよー。

 災害級の魔物を解体することが小さい頃からの夢だったんだ。

 しかも、あのヴォルガの兄貴達も解体できなかったなんて、燃えてくるなー」


 いったいヴォルガさんはどれだけすごい人なんだろうか。

 レフィーさんに名前を覚えられているなんて、羨ましい。


「ヴォルガさんってそんなに良い解体屋なんですか?

 たまに頭から蒸気を吹き出す変態なんですけど」


「蒸気を出す仕組みはわからないが、解体業界じゃ有名な人さ。

 うちも1年間フリージアでヴォルガの兄貴に弟子入りしたからな」


「え?! レフィーさんフリージアにいたんですか?」


 そのままフリージアで仕事しててくださいよ。


「あぁ、今でもヴォルガの兄貴に勝っているとは思わないよ。

 特にドラゴンの解体なんて、持ち込まれる数が少ないから手間取ることが多いんだ。

 それなのに、ヴォルガの兄貴は迷うことなくナイフを入れていく。

 どんな魔物でも最小限の劣化で済むような丁寧で素早い解体は、超一流の証だ」


 言われてみれば、ワイバーンだってブリリアントバッファローだって、頻繁に持ち込まれる魔物ではない。

 肉以外にも、皮、鱗、内臓、爪など、全ての部位が素材になる。

 のんびり解体すると腐敗が早まるけど、ヴォルガさんは何を持っていってもパパッと処理してくれる。


 出会った頃からお世話になってたけど、意外にすごい人だったんだな。


「何でもいいですから、早く解体してみなさいな。

 師事していた人が出来なかったのなら、うまくいっても時間はかかるはずですのよ。

 今からキマイラの解体が終わるまで、他の解体をせずに専念なさい。

 これはギルドからの命令ですのよ」


「当然だな、こんな大物を前にしたら他の解体なんてできるはずがない。

 うちの他にも解体屋はたくさんいるし、遠慮なく専念させてもらうよ。

 肉や内臓は危なそうだから処分するかもしれないが、骨・牙・爪・表皮はしっかり取りたいなー。

 まずはやっぱり、表皮からか」


「一応氷の魔石は使っておりますの。

 後で上着を持って来てあげますから、ちゃんと着るんですのよ」


 子供のような無邪気な表情で考え始めるレフィーさんは、早くもイリスさんの声が聞こえていない。

 はぁ~とため息を吐いたイリスさんと一緒に、僕達は部屋を後にした。


 手伝えることは何もないし、喜んでくれて何よりだよ。


 もしも解体に成功できたら、フィオナさんとサラちゃん用の装備が作れるかもしれない。

 フリージアへ帰る楽しみもできるし、解体できることを祈ろう。


 いつまでもイリスさんにベタつくマールさんを引きはがして、ティアさんの元へ向かう。

 早くブリリアントバッファローの解体も終わらせたいから。

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