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OKのサイン

「ほーほー、こんなウマイものがあったとはのー。

 フェンネル王国なんて対したことないと思っておったが、圧倒的なウマさじゃのー」


 マールさんのおじいちゃんは、白髪で優しそうな人だ。

 夫婦ともに腰を曲げて歩いていたけど、まだまだ元気そうだよ。

 親子丼をガツガツかきこんで食べているからね。


「おやおや、なんだいこの卵の味は。

 複雑な味がする割に随分優しい味だねぇ。

 孫も良い男を探してきたもんだ」


「ち、違うってば!

 さっきから彼氏じゃないって言ってるでしょ!

 ボクはベル先輩と結婚して一緒に過ごすんだから」


 おじいちゃんとおばあちゃんは、僕が結婚の挨拶に来たと勘違いしている。

 何度もマールさんが否定してるけど、聞く耳を持っていない。


 彼氏じゃない、好きじゃない、付き合っていないと、拒否され続けるこっちの身にもなってほしい。


 告白してないのに何回もフラれるのは初めての経験だ。

 家に連れ込んだんだから、ちゃんと責任取ってよね!


 あっ、ちなみにおじいちゃんもおばあちゃんも水着じゃないよ。

 耐熱効果のある普通の服を着てるみたい。


「ばーさんや、孫娘が女好きとわかった時はどうしようかと思ったが、一人暮らしをさせてよかったのー」


「そうだね、じーさん。

 年下でまだまだ小さいが、耐熱装備を装着しておる。

 金銭面も問題ないだろうし、困った時は定食屋を開いたら儲かるだろう。

 いやー、あのマールが結婚相手を連れてくるとはねぇ。

 胸が育たないと泣いてた夜が懐かしいよ」


 おばあちゃん、その話を詳しく聞かせてください。

 マールさんの育乳生活に興味があります。


「昔のことは言わないでよ!

 それに、結婚じゃなくて、ボクは仕事で来たんだからね。

 まだタツヤは小さいんだし、1人で宿に泊めるわけにもいかないでしょ。

 知らない女にホイホイくっついていくに決まってるもん」


 そのセリフが付き合ってる感を出してますけどね。

 完全に彼氏ポジションじゃないですか。

 マールさんって、照れ屋さんなんですね。


「孫娘や、そんなことを言っても彼は冒険者じゃろー。

 冒険者に大人も子供も関係ない。

 恋は……惚れたもんが負けじゃぞ」


「惚れてないってば!

 ボクが好きなのはベル先輩なの!

 同じギルドの受付してる女の人なの!」


 おじいちゃんもおばあちゃんも、マールさんが照れ隠しをしてると思っているんだろう。

 嬉しそうな顔でマールさんを見て、ニコニコと微笑んでいる。


 もう僕が婚約者でいいと思うんだよね。

 家族公認だし、女好きという共通の趣味も持っている。

 ティアさんのことでも意見が一致したんだし、良い関係になれると思うんだ。


「ところでマールや、新婚生活はデザートローズとフェンネル王国のどちらにするつもりだい?

 最初の子を産むのは大変だから、実家に帰っておいで。

 ま、まさか、もうお腹にいるから帰ってきたのかい?」


「まだいないし、作ろうとしたこともないから!

 ボクは結婚する予定もないし、お仕事で戻ってきただけなの!

 いい加減にわかってよー」


 マールさん、まだ未経験なんですね。

 特に意味はないんですけど、何か嬉しくなってしまいますよ。

 散々彼氏じゃないと否定されましたから、相手に選ばれることはなさそうですけど。


 おじいちゃんとおばあちゃんの誤解は解けることはなく、話は平行線のまま過ぎていった。

 孫が帰ってきて嬉しかったのか、マールさんの怒濤のようなツッコミを笑顔で返すだけ。

 挙げ句の果てには、存在するはずのない僕達のなれそめを聞いてくる始末だ。


 結局、婚約者だと思われた僕は、おじいちゃんとおばあちゃんに握手を求められてしまったよ。

 孫をよろしくとお願いしてくる2人の姿に、苦笑いを返すことしかできなかった。

 認めてしまったら、マールさんに怒られてしまうから。


 おじいちゃんとおばあちゃんが休むために寝室へ向かうと、僕は夜ごはんの後片付けをすることにした。

 マールさんは部屋を片付けて、寝る準備をしてくれる。


 後片付けが終えた頃に、ちょうどマールさんが呼びに来てくれたので、一緒に部屋へ向かう。

 メインはおじいちゃんとおばあちゃんの2人暮らしのため、最低限の部屋しか用意されていない。

 そのため、マールさんが使ってた部屋も3畳ほどの広さしかなく、ベッドが1つ置いてあるだけ。


 なお、マールさんの服装は水着に上着を羽織っているだけ。

 後ろから見ればビキニがパンツのように見え、本当に刺激的な女の子で困る。

 誘ってるのか誘っていないのかわからないんだ。


「2人だと狭いけど、寝るだけだからね。

 床は背中が痛くなるから、一緒にベッドで寝よ。

 ボクが壁側をもらうけどね」


 子供のようにベッドへダイブすると、壁にピッタリついて笑顔を向けてくる。


 確かマールさんは言っていた。

 ベッドで一緒に寝るのはOKのサインだと。

 間違いない、彼女は誘っている。


 おじいちゃんとおばあちゃんが同じ家にいるのに、そんなことができるわけないだろう。

 絶対に声とベッドの軋む音が聞こえちゃうよ。

 僕は興奮しすぎて叫ぶことだってあるから、やるなら大人の行為が認められる宿へ連れて行ってほしい。


「良い装備してますから、床で寝ても痛くなりませんよ。

 マールさんはそのままベッドで寝てください。

 僕は気にしませんから」


 キングオブヘタレの僕は床で寝ることを選択する。

 固い床は少し寝にくいけど、装備のおかげで体を痛めることはないだろう。

 何も問題はないよ。


 問題があるとすれば、悲しそうな顔でベッドから見下ろす少女がいることだ。


 どれだけ誘惑してくるんだよ。

 さっきは彼氏じゃないとか結婚相手じゃないと言いながら、2人きりになったら甘えん坊か。

 そういうのめちゃくちゃ弱いからやめてくれ。


 恋の駆け引きをしなくても、僕はすぐに恋に落ちるんだからね。


「きょ、今日だけでも一緒に寝ない?」


 欲求不満ですか?

 こっちはあなたの水着で充実感しかありませんが。


「どうしたんですか?

 おじいちゃんとおばあちゃんに触発されました?」


「ち、違うよ! そういう意味じゃないの!

 最近夜営ばかりで常に誰かいてくれたから寂しいの。

 人の顔見ながらじゃないと寝れなくて。

 お願い、一緒のベッドで寝て」


 そ、そんな甘え声を出さないでくださいよ!

 目をウルウルさせてお願いしてくるマールさんの破壊力は、天使リーンベルさんと同等の力を持っていますよ。


 しかも、一緒のベッドで寝てってパワーワード過ぎます。

 キングオブヘタレの僕でも、そこまでお願いされたら引き下がれないじゃないですか。


 床から起き上がると、マールさんが笑顔になって壁際にズレてくれたので、そのままベッドにノソノソと入り込む。


 ちょっと温かく感じるのは、マールさんがいたからだろう。

 当然、そんなことを考えてしまえば、早くも心臓が暴走するわけであって。


 ドドドドドドドドド


 実家を離れるまで使い続けてきたマールさんのベッド。

 マールさんに包まれるような感覚が生まれると共に、目の前には本人が寝ている。


 恋人以上じゃないと起こらないイベントの連続攻撃。


 本気でマールさんと結婚する気がしてきたよ。

 向かう合うように横になったら、すぐ手を包み込むようにつかんできたんだ。


「あっ! ボ、ボクはそんな気はないからね!

 ほ、本当に夜寝るのが寂しいだけで。

 あっ、寝るって言うのは睡眠の方の意味で、体と体が1つに重なり合うことじゃないよ」


 照れ隠し……ですか?

 ベッドに入るのはOKのサインでしたよね。

 女の子は待ってるんでしたよね。


「えーっ!? なんで鼓動が速くなってるのさ!

 いま断ったばかりだよね?

 ボ、ボクにここまで興奮するなんておかしいよ。

 お子ちゃま体型だし、可愛くないし、人気もないし」


「マールさんは可愛いですし、人気もあると思いますよ。

 僕はいつもリーンベルさんに受付してもらいますけど、だいたいマールさんは他の冒険者の受付してますから。

 気付いてないだけで、ファンは多いと思いますよ」


「ふあっ?! ふぁ、ファン?!

 き、君は寝る前に何を言うんだよー。

 も、もういい。早く寝るよ!

 ほら、早く目をつぶって!」


 目を……つぶれ?

 ちゅ、ちゅーがくるぞっ!!


「なんで興奮度が高まるんだよー!

 ちゅーなんかしないからね!

 もう~、調子が狂うんだから……。

 ボクはもう寝るからね、変なことしないでよ」


 包み込むように手を握ってきてるのに、変なことをしないで、とは?

 マールさんが襲いたいと思ってるから、動かずに待てって意味かな。

 32年間待ち続けてきた男の唯一の得意分野だよ。


「心臓でベッドをドンドン揺らさないで!

 変なことしてると思われるじゃん。

 ボクは普通に眠りたいの。

 寂しいから一緒にいてほしいだけなの!」


 マールさんによる手繋ぎ言葉プレイは、なかなか終わることはなかった。

 抱かれないとわかっていても、1%でも可能性があれば期待してしまう。

 その僅かな可能性に心臓が過剰反応してしまい、ベッドを無駄に揺らすほど暴れまくっていた。


 おじいちゃんとおばあちゃんが同じ家で静かに眠る中、マールさんのツッコミが響き渡り、夜は更けていった。

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