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深読み

 洞窟の朝は刺激的である。

 スズにユサユサと起こされると、寝ぼけたタマちゃんとクロちゃんがスライムでベトベトになっているからだ。


 水玉と、白と水色のストライプ。

 何の話かは言えないけど。


 スズがいたため、パッと一瞬だけ見て脳内保存した。

 何回もチラチラ見たいけど、嫌われる可能性を考慮して我慢する。


 見張りを担当していたスズの証言によれば、何回戻しても寝ぼけてスライムへ近付いていったため、このまま放っておいたらしい。


 しばらくして起きたにゃんにゃん達は、スライムに捕獲されている事実に朝から発狂した。

 嘆いてる内容は「ポテサラが食べれないにゃー」だったけど。


 仕方ないから、シロップさんがポテサラサンドを口へ突っ込んで、朝食を食べさせてたよ。

 スズとシロップさんはタマゴサンドを食べたけどね。


 2時間後にようやくスライム達の拘束から解放された。

 スライムの粘液で服が透ける最高のシチュエーションを眼福することができたけど、スズの火魔法であっさりと乾いてしまう。


 内心は舌打ちしてるけど、ありがたい太ももとお尻は健在なので問題はない。


 そのままリザードマンに襲われることなく歩き進めること、半日。

 広々とした空間で大勢の獣人達が集まっている場所が、遠目に見えてきた。


 ワイワイと賑わってる様子はなく、時の流れを待つようにじっとしている様子。


 近付いていくと、足音に気付いた馬の獣人が1人走ってくる。

 獣人にも色んな種類がいるんだろう。

 走ってきた男は、上半身裸のケンタウロスだ。


「思ったよりも早く帰って来てくれたヒーン。

 人族がいるということは、協力に応じてくれヒヒヒヒーン」


 ケンタウロスって、実際は吠え散らかすものなんだな。

 話の内容より、鳴き声が気になって仕方がないよ。


「にゃにゃ、色々あったにゃ。

 ややこしくなりそうだから、メイプルちゃんに直接話すにゃ」


「そうか、メイプル様とアルフレッド様は右の小部屋を使ってヒヒーン。

 すぐに報告へ行ヒーン」


「わかったにゃ」


 ケンタウロスにツッコミを入れることもできず、タマちゃんとクロちゃんの先導に従った。

 獣人達にじっと見つめられ、口々に「タマとクロが帰ってきヒーン」「シロップまで来てくれたドン」「ワンワンワンワン」と、喜びの声でざわついている。


 なお、オッサンばかりで女性はいない。


 ケンタウロスの言った通り、右側にある小部屋の前には姫騎士と思われる猫耳獣人がいた。

 タマちゃんとクロちゃんが話しかける前に、「し、シロップ姉さん?!」と声を上げて驚いていたけど。


 こっそりとシロップさんに知り合いか確認すると、


「若い頃に1年だけ団長やってたの~。

 フェンネル王国のニンジンの方がおいしかったから~、冒険者に転職したんだけどね~」


 シロップさんらしい理由だけど、獣人国が色々な意味で心配になってくるよ。


 部屋の中へ入れてもらうと、質素な椅子とテーブルに2人の獣人が座っていた。

 タマちゃんとクロちゃんが2人の前で、スッと膝をつく。


「ただいま戻りましたにゃ」


 スズもシロップさんも普通に立ったままなので、僕も膝をつかずに立つことにした。


「……そうか、ご苦労だった。

 俺が第1王子のアルフレッドだ。

 シロップは何度か顔を合わせているが、そこの2人は初めてだな」


 アルフレッドと名乗った王子は、虎獣人で細マッチョのイケメンだ。


「私は王女のメイプルです。

 シロップは懐かしいですワn、ごほんっ、ですね。

 こんな形で再会するのも何かの縁でしょうか」


 メイプルと名乗った可愛い柴犬のような王女様は、1回ワンと鳴きかけた。

 きっと話し方を治してる最中なんだろう。

 ワンワン言ってくれた方が親近感が沸くんだけど。


「私はスズ、こっちはタツヤ。

 冒険者ギルドの依頼で、連絡が取れなくなったために訪ねた。

 道中でタマとクロに会って、事情は聞いている」


「道中で会ったのか。

 じゃあ、お前達3人が協力してくれるのか?」


「にゃにゃ、でも彼女達はしっかりとした実力者だにゃ。

 シロップ姉さんもいるし、3人でも充分強いんだにゃ」


 タマちゃんは焦っているのか、言葉遣いが崩れている。

 もしかしたら、普段はため口で話しているのかもしれない。

 さっきも王女様のことをメイプルちゃんって言ってたからね。


「タマ、俺は現状を確認してるだけだ。

 3人が少ないと言ってるわけではないし、責めるつもりもない。

 むしろ、最適な人材が来てくれて嬉しい限りだ」


「そうですワn、ごほんっ。

 フェンネル王国も同じように、黒ローブの男による襲撃を受けています。

 ワンワン、活躍したショコラが2人だワン。

 ちゃんと報告を聞いてるワン」


 面倒くさくなったのか、王女様は途中で隠さなくなってしまった。

 息を荒げるようにハッハッハッと呼吸をする姿は、柴犬そのもの。

 ブンブンと尻尾を振っていて、可愛すぎて辛い。


 仲良くなったら、めっちゃ顔を舐めてくれそうだ。

 無駄に期待が高まり、押し倒されてペロペロされたくて仕方がない。


 ちなみに、王女も姫騎士も胸は大きくない。

 でも、可愛さは異常である。


「獣人国はけっこう緩いから~、あんまり気にしない方がいいよ~。

 みんなで座って話そうか~」


 なぜかシロップさんが場の主導権を握り始めた。


 他国の王族に失礼があると困るから、緩い感じの方が助かるけどさ。

 緩すぎるのもどうかと思うよ。


 受け入れが早いスズは普通に座ってるし、シロップさんは膝の上に座るように呼んでいる。

 なんだったら、タマちゃんとクロちゃんも椅子に座り始めたよ。


 身内の姫騎士まで普通に座ってるなら、もう何でもありな気がしてきた。

 一応客人のはずだけど、普通に過ごしちゃおう。


 何かが吹っ切れたので、シロップさんの膝の上に座った。


「いきなりで悪いんだが、フェンネル王国での戦いについて詳しく聞かせてくれないか?」


 こういった大人の話は基本スズにお任せである。

 僕はいま忙しいからね。

 王女様の真横でクンカクンカの儀式を受けるという、羞恥プレイに大興奮なんだ。


 アルフレッド王子とスズで、どんどん話を進めてほしい。


「実際に黒ローブの男と戦ったのは私。

 魔法は一切使わず、剣で戦うスタイルだった。

 Aランク冒険者が束になっても敵わない。

 冒険者で言うならSランク、魔物で言うなら災害級」


「召喚された魔物ばかりに気を取られていたが、召喚者がそれほどの使い手だったか。

 スズといったな、お前の素直な意見を聞きたい。

 俺、タマ、クロの3人で黒ローブに戦いを挑んだら、勝てると思うか?」


「……長引いたとして、3分の時間稼ぎにしかならない。

 知能がある災害級の魔物を相手にすると思った方がいい」


 スズの言葉を聞いた王子は、獲物を逃がさないような鋭い目付きになった。

 タマちゃんとクロちゃんが双子らしくシンクロして、あわあわと焦る姿が可愛い。


 勝てないと言われるならまだしも、3分も持たないと言われたことに腹が立ったのかもしれない。

 見下されたと勘違いしているんだろう。


「なら、何故お前達は勝つことができた?

 フェンネル王国からの報告では、黒ローブの男をショコラの2人で倒したと記載されていた。

 当時、BランクとEランクの2人組。

 そっちの幼子は戦闘力を感じられないし、お前も俺と同じくらいの強さだろう。

 災害級の相手を敵に回しても、勝てる要素が感じられない」


 けっこう詳細な情報が出回ってるんだなー。

 フェンネル王国は獣人国と連携を取りたがっていたから、情報をできる限り開示してるのかもしれない。


「全て事実、嘘はついていない」


 羞恥プレイへ走ってる間に、スズとアルフレッド王子がバチバチと火花を散らすような雰囲気を巻き散らしていた。

 ユニークスキルを話したくないスズとしては、王子の腹を探っているんだろう。


「にゃにゃ、スズは嘘をついてないにゃ。

 スズが本気を出したら、ハンデをもらっても敵わないにゃ」


「そうニャ、親分もヤバいんだニャ。

 うちはこの戦いが終わったら、騎士を引退してカツ丼屋さんになるニャ」


 カツ丼屋さんになるのって、本気だったんだ。

 なぜか僕の呼び名が『親分』になってるし。


 真顔のスズに対して、話が呑み込めない王子は「は?」と、混乱してしまった。

 間違いなく2人の発言で、緊迫した空気が壊されただろう。


「親分って誰のことだ?

 まだ仲間がいるのか?」


「違うにゃ、親分にゃ」


「そうだニャ、親分ニャ」


 指を差されて紹介された僕は、アルフレッド王子と目線が合ったため、なんとなく軽く会釈をした。

 しかし、王子は首を傾けることしかできない。


「そのカツ丼って魔法がすごいのか?」


「恐ろしいにゃ、懺悔したくなったにゃ」


「なるほど、精神攻撃を引き起こして、心を削る魔法なんだな。

 強者の心を崩壊させ、戦闘力を下げたということか。

 このような幼子が災害級の人間を陥れるほどの精神攻撃を使うとはな」


 深読みし過ぎである。


「それだけじゃないニャ。

 カツ丼は全ての戦いに終止符を打つであろう革命的な存在ニャ」


「な、なんだと?! 黒ローブの男だけでなく、災害級の魔物が街にいるんだぞ。

 カツ丼という魔法は災害級の魔物すら滅ぼしてしまう、神の裁きだというのか?

 この幼子からはゴブリンよりも弱い力しか感じないというのに。

 まさか、力が強すぎて俺如きでは感じることすら出来ないのか?!」


 恐ろしい誤解が生まれている。


 ゴブリン以下の戦闘力で合ってますよ。

 最近強い魔物と戦う機会が多いけど、傷1つ付けることができませんから。

 なんで醤油戦士が化け物と戦い続けているのか、本人が1番疑問に思っているけど。


 ひとまず、ちゃんと訂正しておこう。


「あの~、大きく勘違いしてると思いますよ。

 カツ丼は魔法じゃないですから。

 2人は言葉足らずなんです、そうだよね? スズ」


 フォローを求める相手を間違えてしまったようだ。

 1番カツ丼をリスペクトする少女は、バンッと机を叩いて立ち上がる。


「カツ丼とは、未来を切り開く神である!

 白銀の大地(ご飯)に黄金のアーマーを纏いし帝王(とんかつ)が現れた時、聖なる純白の光による浄化(白身)と、全てを癒し尽くす幻の黄光(黄身)に包まれる。

 まさにこの世を統べる絶対神と言えるだろう」

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