帰還 その3
「蒼介、ソレもう少しどうにかならない…?」
「反省はしている。後悔はない(キリッ」
「もう少し後悔しようよ…」
「あんな小悪党たちに手心でも加えろって言うのかね、兄貴は…」
蒼介が黒服たちを折檻―――――もとい撃退し、刃と悠と別れた蒼介は緋燕と今回の襲撃について話していた。
「今日が散々だってのは理解はしてるけど、アレはないでしょ…」
「全員を気絶させた後、パンツ一枚で放置しただけだろ…?」
「ある意味、病院送りにされた方がマシだと思うけど…」
「よし、今度は下半身丸出しにして拘束して放置に―――――」
「やめて!?」
そんな話をしているうちに二人は目的地へと到着した。目の前にはどこぞの武家屋敷のような結構な大きさの家が建っていた。そう、二人の自宅である。
「「ただいまー」」
「「お帰りなさい(おかえりー♪)」」
二人が帰ったことを告げると、静々としながらも花が咲き誇るような雰囲気のする声と鈴を転がすような声が響いてくる。
靴を脱いでいるとパタパタと足音が近づいてくる。
「お帰りなさい、蒼ちゃん」
「おかえりー、緋燕くん」
最初に口を開いたのは蒼介の幼馴染兼恋人である四季院 穂である。おっとりとした性格ではあるが、蒼介の傍に長年いるかなり芯の強い少女である。
次に口を開いたのが緋燕の妻であり、蒼介の従姉である青鬼藍華である。愉快犯でありイタズラが趣味の彼女は毎回何かをやらかし、その都度蒼介によって折檻されている残念な人物だ。
二人が靴を脱いで振り返ると、蒼介が不意に穂を抱き締める。その光景に緋燕どころか愉快犯の気がある藍華ですらも目を丸くする。そして抱き締められている当の本人は、うっとりとした表情でトリップしている状態である。
「珍しいね、恋人とは言え女嫌いの蒼介がいきなりこういうコトするなんて」
「あぁ、それなんだけど二回も呼ばれた上に、黒服の人たちにさっき襲撃されてね…」
「あ、ズルい! 私もまた行きたいのに!」
「あんな目にあったのに、また行きたいの…?」
「そうよ! 今度こそテンプレをやりたいんだもの!!」
「コレがオタクの業か…」
「そして緋燕くん勇者として活躍させてハーレムを作って、可愛い子たちと一緒にヌルヌルと…」
「まさかの全部俺任せ!?」
藍華の垂れ流す妄想に戦慄する緋燕。そして、体をくねらせながら荒い吐息を吐く藍華。このような女を婚約者にした緋燕はある意味ですでに勇者である。
「さぁ、私と一緒に再び異世界へ―――――」
「行かない、というかもう自分から行きたくないからね俺は…」
「何で!? ハーレムは男のロマンでしょ!? 目指そうよ! 諦めんなよ!! 試合終了に――――グヒェ!」
「やかましいわ、腐れアマ…」
緋燕に迫る藍華に対し、容赦のない蹴りを脇腹に見舞う蒼介。哀しきかな、これは青鬼家ではまだ序の口ですらない光景である。
「うぐぉ~…」
「さっきもそうだったけど相変わらず容赦ないね蒼介…」
「コレに容赦してたら付けあがる一方だからな。つか、普通は兄貴がどうにかしなきゃならないんだぞ…?」
「どうにかなるのかな?」
「そりゃ、どうにか…できないな、すまん無茶言った」
「ちょっと、脇腹に蹴り入れた上に色々と酷くない!?」
藍華に対して散々な評価をする緋燕と蒼介。そんなやり取りをしているうちに復活して抗議する藍華。穂はそんな藍華に対し苦笑いしながら厳しい現実を理解させる言葉をかける。
「うーん、腐ってるのも、もう色々と手遅れなのもホントのことだしねぇー…」
「ぐっは、ブルータスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「別に穂は裏切ってないでしょ…」
「みんながいじめるぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「黙らっしゃい!」
「あだッ!」
自分以外の全員に非常な現実を叩きつけられ、頭を抱えながら絶叫する藍華。そんな従姉に対し、先ほどよりもさらに力を込めた蹴りを今度は尻に見舞う。今度は緋燕すらも残念な者を見る目で藍華を見る。
「………!!」
「よし、行こうか」
「はい、解散ー」
「あ、蒼ちゃん、今回行ったのはどんなだったの?」
言葉を発することすらできないくらい悶絶する藍華を放置し、去っていく三人。もはやコレが当然とばかりに手慣れた様子である。
そして歩きながら、本日二度目の説明を穂にする蒼介。その説明に穂は懐かしいと言わんばかりの顔で表情を緩ませる。
「そっか、あの人たちも元気だったんだね」
「尻に敷かれて、相変わらずだったよ。実力は前よりも上がってたが」
「約束の為にも、これはうかうかしてられないね」
「ホントにな。あの天才め…」
そんなことを言いつつ、二人は最初に呼ばれた世界のことを思い出していた。