はじめての異世界召喚 34 開戦前
王国側の迎撃準備が整い、プーランテ帝国軍が王都の城壁から目視できるようになる距離まで迫って来た。城壁の上に立つのは鎧を身に包んだヴェロニカと古びているが手入れを怠っていないと思われるローブを着たソフィー、軽装を身にまとったコゼットに護衛として数名の騎士である。
「来たね」
「来てしまいましたね」
「来ちゃったね」
三人の姫は目の前に展開している帝国軍を見下ろして、それぞれが独り言のように言葉を漏らした。
「何度も何度も好き勝手に私たちの国を荒らさせはしないよ」
ヴェロニカは普段の我が儘で自由奔放な態度が消え失せた、決然とした表情で正面を見据え――――――――――
「もう何一つも奪わせはしません」
ソフィーはいつも柔らかい笑顔を消し、覚悟を決め――――――――――
「今まで散々嫌がらせしてくれたからね、その分をまとめて返してあげるよ」
コゼットは目の光を消して笑いながら言った。
「正直、ソフィーが出るとは思わなかったよ。どういうつもり?」
「覚悟を決めただけです。と言いたいところですが、魔法部隊の手が足りないとのことで出ることにしたのです。その際に、カエラからコレをお借りしたので」
「それってカエラ婆さまが現役時代の時に着てたっていうローブと、蒼介さんが追加で置いて行った武器というか杖…?」
「えぇ、レーヴァティンという杖らしいのですが…」
「杖っていう割には先に刃物が付いてるから、槍に近いと思うんだけど…」
「何でも元々は剣だったらしいですよ?」
ヴェロニカはその言葉に不機嫌そうな顔になる。
「それなら私に寄こしなさいよ」
「駄目です。蒼介さまに『ヴェロニカに渡したらどうなるかな…?』と本気の目で言われましたし…」
「アイツ…!」
ソフィーの漏らした言葉にヴェロニカは不機嫌な顔から苦虫を噛み潰したような顔になる。しかし、ソフィーの次の言葉によって般若の相となる。
「あ、コゼットにはこの兜を渡すように言われました」
「やった! ありがとう、蒼介さん!」
「ちょっと、何でソフィーとコゼットだけなのよ! 私にはないのか、コンチクショウ!」
「いつも自分がワガママを言って返り討ちにされている人に何かを渡すと思っているのですか?」
「普段の行いを振り返ってみれば、当然だと思うけど…」
「妹たちがいじめるゥゥゥゥゥ!」
ヴェロニカはその場で地団駄を踏む。もはや見ていて哀れを通り越して滑稽である。それにしても一国の王女をコケにする蒼介は色々な意味で大物である。一国の王女に対してここまで嫌がらせをする張本人には怖いものはないのだろうか。
未だに地団駄を踏んでいるヴェロニカの心情を無視して、ソフィーとコゼットは城壁の内側へ目を向ける。そこには帝国軍が迫ってくるまでに集まり、国を守らんとする兵士や騎士の女たちが集まっていた。
「ほらほら姉さま、口上をお願いします」
「うー…」
「ソフィー姉さん、ヴェロニカ姉さんがすっかり拗ねちゃったよ?」
「普段ならいい気味だとほくそ笑んでるところですが、流石に状況が悪いので立ち直ってもらいましょう」
「いい顔で笑いながら言われても…。まぁ、ヴェロニカ姉さんがいつもやらかしてるせいで一番迷惑を被ってるソフィー姉さんなら仕方ないと思うけど」
「アンタらねぇ…!」
ヴェロニカが妹たちを涙目で睨む。ソフィーはその様子に少しは気が晴れたとばかりに溜息を吐き、手を叩いて控えていた騎士たちに合図する。しばらくすると長方形の木の箱が運ばれてきた。騎士たちはその箱の蓋を何か神聖なものでも扱う神官のように開ける。そこには一振りの刀があった。
「蒼介さまがお造りになった刀の中で、一番出来がよかった一振りだそうです」
「何で私にさっさと渡さないのよ…」
「これは蒼介様が日々の衣食住の保証と仕事の斡旋に対する王家への感謝のために造られたそうです。あくまで王家からの貸し出しですので終わったらしっかりご返却をお願いしますね、ヴェロニカ姉さま」
「………」
「ソフィー姉さん、また何かヴェロニカ姉さんがまた悪いコト考えてるよ…」
「仮に返さなかった場合には、母様は蒼介さまがヴェロニカ姉さまに何をしてもいいとおっしゃっていました」
難癖付けて自分のモノにしてしまおうと企んでいるヴェロニカ。それに対してソフィーはしっかりと釘どころか杭を刺しておく。そして、その効果はというと――――――――――
「わ、分かってるわよ…」
「また、関節技を極められたら敵わないからねー」
「コゼット、うるさい」
――――――――――抜群であった。
「とにかく、全軍に対しての号令をお願いしますね」
「分かったわよ…」
ヴェロニカは自国の兵士や騎士たちに向き直った。




