帰還
ここから3人称になります。
帰還
とある学校の人気のない場所で突如空間が裂け、中から人が出てくる。
「あー、やっと戻ってこれた…」
そう疲れた声を出しながら蒼介は嘆息する。そして歩きながら今回の厄介ごとについて思い返す。
「こっちも散々召喚されてるとはいえ、アイツもとんだ貧乏くじを引いたな」
ぼやきながら目的地に到着してドアを開け、中に入ると何人かが蒼介に声をかけてくる。
「遅えぞ蒼介、さっさと座って終わらせろ」
「他のことにかまけてサボりはいかんよ、会長~」
「お帰りー、早く終わらせて帰ろう」
「あいよ刃、即終わらせるから待ってくれ。それと悠、疲れてるからあんまし突かないでくれ、二回も呼び出し受けたんだからな。あと兄貴、今日はもうホントに帰りたいわ。」
そう蒼介は3人に対してそれぞれ答える。
「え、二回も呼ばれたのか…!? 一回だけじゃなく!?」
刃と呼ばれた少年は驚愕の声を上げる。しかし、その後にすぐ哀れみの視線を向けてくる。彼の名前は烏丸 刃。粗暴そうな見た目の通り頭に血がすぐ登るため不良と周りからかわれているが、実際は相手から手を出してこない限り暴れたりはしないある意味で人畜無害な人物である。
「うっわ、いいなぁ。僕が行きたかったよ、思う存分戦えそうだし。」
悠と呼ばれた少年は羨ましそうな目で蒼介のことを見つめてくる。彼の名前は松原 悠。刃とは正反対に人畜無害そうな外見に反して、その本性はバトルジャンキーである。ある時は喧嘩を買い、またある時は自ら喧嘩を売る困った人物である。
「相変わらず何なんだろうね、蒼介の運というか体質というか…」
最後に兄貴と呼ばれる人物が複雑な表情で考えている。名前は紅 緋燕と言い、蒼介の従兄弟にあたる人物だ。頼りない優男のような外見の通り優柔不断な面も見られるが観察力や洞察力はかなりのものであり、人の心の機微に敏感でもあるため、この問題児たちの歯止めにもなっている。
そして、このように呑気なことを言っているが、この3人は蒼介が目の前でいなくなる場面を直に見ている。既にセリフから察している方もいるだろうが、ここにいる面々は全員が異世界転移経験者である。
「今回は何だったんだ、蒼介?」
「あー、最初は異世界の侵略者をどうにかしてくれって言われたんだが、その後に呼び出しを受けてな。約束だから行かにゃならんかったのよ」
「呼び出しって誰に?」
「お前らも会ってるぞ? 副業で魔王やってるあいつだ」
「あぁ、彼か。いい人だったな。何で魔王が副業なのかは謎だが…」
そして、その中心人物であるのが青鬼蒼介である。何度も異世界転移を繰り返し、現在の戦友や悪友との出会い、裏切りや暗殺されかけたことで色々な意味で心身ともに成長し、異世界で悪名高い評価を獲得した男でありこの高校の生徒会長を勤めている。
会話をしながらも着々と書類や業務を片付けていき、下校することになった。
「どっか寄るか?」
「そうは言っても蒼介が…」
「あぁ、うん、そんな目で見ないでくれ、怖いから…」
蒼介は無表情の上、無言で3人を見つめていた。しかし、見る人が見れば呪い殺しそうな視線だと思うだろう。
「帰るか」
「うん、帰ろう」
「まっすぐ帰ろう」
そう言いながら、4人は学校を後にした。