はじめての異世界召喚 32 反撃準備2
王宮城内の会議室にて、作戦会議は行われていた。女王は蛇の毒こそ取り除かれたものの、体力が回復しきっていないので代理の最高権力者としてカエラがその場にいた。反発する者もいたが、カエラ自身が眼力と肝っ玉母ちゃんの如き暴言によって黙らせた。
「帝国の軍隊が見えてくるまであと五日くらいかい?」
「ハッ! 偵察からの報告ではそう聞いております!」
「あと三日で用意させな、それと同時に足止めもしておきな。いいかい、あくまでも足止めだ。無理に戦って死んだら許さないからね!」
「ハッ! 了解しました!」
「部隊の編成と戦術の考案は済んでるかい?」
「ヴェロニカ王女殿下がすでに終わらせています。その資料がこちらになります」
「…ふむ、相変わらずだね。王族としてはダメだが、こういう戦いの才能だけは天性のモノだよ」
余談ではあるが、ヴェロニカの総合評価は散々なものである。本来王族として受ける礼儀作法や貴族とのパイプ作りなどをせずに、ほぼ毎日を騎士団の訓練に混じるか正体を隠して城下町を散策している。そのうえ態度までが横暴なので並みの人物では止めることはできない。
しかしながら、戦いという一点においては群を抜いて高い。蒼介にいつも突っかかり返り討ちにされているために想像するのは難しいが、その実力は誇張ではなく王国の中でも五本の指に入っており、周囲の者から最強の一角であると言われるほどである。事実、王国で年に一度開催されるルール無しの戦いの大会「戦祭り」で現役の騎士も参加する中で一五歳で参加し、優勝した経験もある。そこから皮切りに戦術や様々な武器について色々と学ぶようになり、今日までに至る。
「編成と戦術はヴェロニカが考えた通りでいくよ。それと、ここには書かれてないけどあの子もどうせ出るんだろう? ならこう伝えな。『生きて帰って来なかったら、アンタの恥を全部ばらすからね!』」
「了解しました!」
会議室から騎士が出ていき、入れ違いにソフィーが入ってくる。
「カエラ、大丈夫ですか? もう何日も休んでいませんが…」
「所々で仮眠をとってるから平気だよ。それよりもあの坊主たちは一体何を企んでるのかわかるかい?」
「いえ、分かりません」
「そうかい…。特に蒼介の坊主はあんな力を持ってるなら、頼み込んであと詰めに入ってもらおうと思ったんだがね」
カエラのその言葉に会議室内にいるソフィー以外の面々が、不快であるとばかりに顔を歪める。
「カエラ殿、あのような者に頭を下げるおつもりですか?」
「聞けば昼寝をして眠りこけている間に敵に捕まったとか」
「そのような間抜けな者を信用するわけにはいきませんな」
カエラはその言葉を聞いて、酷く冷めた目を向ける。そして、言ってやった。
「そう思うんだったら、アンタらが前線に出な。負傷者の回復も含めてね」
「そ、それは…」
「それに蒼介は竜将軍と言われるあの女の愛竜の火炎が直撃した上で生きている上に、他の奴らも守ったんだから弱いハズはないよ」
「ぐ…」
「そもそもアイツらはこの世界の住人じゃないんだよ。この世界の男を見下すのは構わないが、アイツらを同じように見るのはやめておきな」
「くッ…」
「つまらない嫉妬で無駄口叩いてる暇があるなら、手を動かしな!」
カエラに一喝されて、慌てて蒼介たちに否定的な女たちは作業に戻る。どう足掻いても自分たちではカエラは言いくるめられないとようやく理解した。その様子を見て、鼻を鳴らせながらカエラは自分の作業に戻る。
「アイツらは何を考えているのかね。この国に害がなければいいんだけど…」
「頼もしいんですけども、蒼介さまは自分のことを悪人と言ってましたよね。私としては不安なのですが…」
「せめて見えるところで何かをしてくれれば、安心できるんだが」
「カエラ婆ちゃん、ここにいる?」
カエラとソフィーが蒼介たち五人のことで悩んでいると、コゼットが入って来た。それも何か大きな包みを持って。
「コゼット、どうかしたんですか?」
「あ、姉さんもいたんだ。」
「それはいますよ、ここでしか私の能力は生かせませんから」
「イヤ、戦場でも生かせると思うよ。姉さんの魔法、強力だし」
「護身術程度ですよ。それよりも、その包みはどうしたんです?」
「あぁ、カエラ婆ちゃんに渡せって蒼介さんが」
「何、私にだって?」
「うん、『コレを貸しとくから好きにやらせろ』って」
カエラは胡散臭そうな目をしながらコゼットから包みを受け取る。その包みを開いて行くと、中には謁見の間で女王の命を救った杖――――――――――アスクレピオスの杖がそこにあった。
「クックック、中々気前がいいじゃないかい」
「蒼介さま、こんなものを軽々と貸して大丈夫なのでしょうか…」
「私としては何をするつもりなのかが気になるなー」
コゼットの言葉にその場にいる全員が目を丸くしながらコゼットの方を向く。
「どういう意味だい?」
「聞いただけだけど、あの竜将軍シーラと相対して生きてるどころか、周りを助けた上で余力を残してたんでしょ? そんなヒトがもし暴れまわったらどうなるのか…」
コゼットの言葉を聞いた全員が顔を青くする。どうにかして五人を大人しくさせようと色めき立つ。
「あの五人を探せ!」
「戦場を引っ掻き回されたらかなわん!」
「何としても捕まえろ!」
「狼狽えるんじゃないよ、そんなことで止まるなら苦労はしないさ。それに敵うと思ってるのかい? それに前払いでコレを貸してもらったんだから今更ガタガタ騒ぐんじゃないよ」
カエラの言葉に全員が諦めた表情を浮かべた。




