はじめての異世界召喚 27 崩壊は唐突に4
「お前らが戦争を仕掛けて、呼び出された俺はこんな世界に来る羽目になった!」
「ヅアッ!」
「お前らみたいなのがいるせいで、こっちはいい迷惑なんだよ!」
「グホァッ!」
しかし、傍目から見ると酷い光景である。まだ十代の青少年とはいえ悪人面で身長が百八十を超える男が一人の女を怒りに任せてフルボッコにしているのである。しかし、そんなことは欠片も考えずに蒼介は暗殺者の腹部を蹴り抜く。散々蒼介に蹂躙されつつも、未だに暗殺者は生きていた。蒼介の攻撃に対して抵抗はできず、ガードもできなくともダメージは最小限になるように調整していた。しかし、もはやそれも限界である。
「これで終わりだ、くたばれ!!」
蒼介が止めとばかりに拳を振り下ろすが、その腕に鎖が巻き付いて拳が止まり蹂躙の末の殺害は回避された。
「そこまでだ蒼介」
「…(コクコク)」
「何の真似だフランツ、優志」
蒼介は暗殺者に向けていた目を、今度は自身を拘束した仲間に向ける。
「…(フルフル)」
「それ以上は危険だ、蒼介」
「知るかそんなコト、殺す邪魔すんな」
「イヤ、そっちはどうでもいい」
「あ?」
蒼介は意味が分からないとばかりに、自身を止めた二人を見る。そんな蒼介に二人は呆れた目をしながら溜息を吐く。二人は上を指差した。
「…(ピッ)」
「上というか、全体を見ろ」
「? あ…」
蒼介は辺りを見回して固まった。やっちまったとばかりに顔が引き攣る。
謁見の間は壁全体どころか部屋全体がひび割れ天井は崩落寸前な状態であり、まだ落ちてこないのが奇跡的というべきほどである。更に言えば毒に侵され、容易に動かせない女王の真上にある部分などは少し衝撃を与えれば落ちてくることは間違いないだろう。ましてや蒼介の拳なら尚更落ちてくる可能性は確実である。
「暴れるなとは言わんが、もう少し考えて暴れてくれ」
「…(コクリ)」
「悪かったよ。しかし、フランツに説教されるとはな…」
「うっせ、放っとけ!」
いつも問題を起こすフランツに説教され、蒼介は釈然としないとばかりに複雑な顔をする。そのことに腹を立てたフランツは噛みついた。
「いいからとりあえず洗いざらい知ってること吐かせるために拘束するぞ」
「と言っても、拘束する必要あるのか?」
「…(ジー)」
「やった本人が言うことじゃないな」
「~♪」
「口笛で誤魔化してんじゃねぇ!」
騒ぎながらも蒼介を拘束した鎖を使って暗殺者を縛り上げようとしたその瞬間、窓を塞いでいたスレイの魔法で作られた氷が爆散した。
「今度は何だ…!?」
「立て続けに今日は何かが起こるな…」
「…(ガシガシ)」
「フランツの氷を爆散させた…!?」
「即席とはいえ、割かし強めに作ったんだがな」
スレイの張った氷の壁があった方向を見ると、そこには背に人を乗せたドラゴンがいた。ドラゴンには体のあらゆる部分に豪華な装飾が施された装具が取り付けられていた。そして、そのドラゴンの背から豪奢な鎧を着た一人の女がボロボロの謁見の間の中に降り経った。
「何を遊んでいる、マーニ」
「し…、シーラ将軍…」
「毒に侵すことは成功したが、女王の首を落とすことはできなかったか」
「は…、はい。申し訳ございません」
「イヤ、目的は十分に果たせた。だが、何故にここまで遅れた? お前の技量ならとうに陣地へ帰還できたはずであろうに」
誰もが呆然とする中でいつの間にか暗殺者――――――――――マーニに将軍と呼ばれた女が側に歩み寄り、肩を貸して立ち上がらせた。周囲を一瞥すると冷笑した。
「女王をたった男五人で守るとは、王国も堕ちたものだな」
その言葉にその場にいた王国側の者たちは怒りを燃やす。しかし、そこに茶々を入れるように割り込んできたのは意外にも蒼介であった。
「まったくだな」
「ほう?」
蒼介の言葉に興味深げに将軍――――――――――シーラは視線を向ける。
「俺が捕まってた時もそうだがコイツ等、加勢もせずにただ見てただけだったぞ!」
蒼介は空気になっていた騎士団を指差す。騎士団は渋い顔をするが、事実だったのでぐうの音も出ない。
「ふむ、続けろ」
「それにその暗殺者が城に入って来られたのだって、ヴェロニカ――――――――――第一王女が隠し通路の戸締りをしてなかったせいだって話だ」
「ふふふ、災難だったな」
「挙句にまんまと俺と女王は毒蛇にやられてグロッキーな上に、女王は首を落とされかけた! 出し抜かれたなんてレベルの話じゃねぇし、それだって優志が寸前でソイツ蹴り飛ばしたから何とかなった!!」
「おぉ、マーニを蹴り飛ばしたのか。そうか、ソイツが報告に出ていたドラゴンを蹴り飛ばした男か」
シーラは感嘆の声をあげる。どうやら、実力を認めることのできる器を持った人物であるということがうかがえる。何を考えたのか、シーラは顎に手を当ててとんでもない提案をしてくる。
「お前ら」
「あ?」
「よければ、プーランテに来るか?」
「「「「は…?」」」」
その言葉にこの世界に呼ばれた五人は唖然とした。
「何、この国はもう終わりだ。それなら次の仕事先を紹介してやろうと思ってな」
「ふざけんな、こんなことまでされて何でお前らの国で仕事なんぞせにゃならん」
「ふむ、それならば――――――――――」
シーラはマーニを担ぎ上げ、一足飛びにドラゴンの背へと戻っていった。蒼介や優志といった面々はすぐさま逃がさんとばかりに追いかけて、手を伸ばすが――――――――――
「逃がすか、待ちやが――――――――――」
「我が愛竜の炎で焼かれて逝くがいい」
崩壊しかけた謁見の間と共に、竜の炎に包まれた。




