はじめての異世界召喚 23 五人の評価
時間は五人が重なった休日を満喫している頃、場所は食堂でその会話は行われていた。
「ふいー、やっとお昼ご飯が食べられる」
「今日はいつもより書類の製作が多かったから疲れたね」
「確かに。それよりも今日の日替わりは何かな」
城で働いている文官たちがカウンターに着きながらメニューを見る。
「あの人たちが来てからメニューも大分増えたね」
「確かに。いつものメニューもいいはいいんだけど変わり種が欲しいってたまに思ってたからな」
「蒼介くんと優志くんには感謝だね」
話は食事のメニューの話から、五人の話になっていく。
「蒼介くんは最初は不愛想だったけど、日に日にどこか溶け込んできたよね。手が空いてる時は手伝ってくれることもあるし」
「私は優志くんが、あの見た目で私たちよりも年下っていまだに信じられないよ…」
「確かにねー」
「何だ何だ? あの五人の話か?」
「おー、私たちも混ぜてくれ」
注文をしてから食事が運ばれてくる間のその会話にその声は混ざって来た。
「あぁ、騎士団の方々ですか」
「書庫と庭園の管理者の方々もご一緒ですか?」
「あなた方もこれからお昼ですか?」
「そうだよ、もう腹が減ってな。私は…、カツ丼にしよう」
「私はメンチカツ定食で」
「まさか雑草だと思っていたあの草が食べられるとは思いませんでしたね」
この国での主食はパンとパスタのような麺であり、元々米は存在していなかった。いや、あるにはあったが食卓には上がらなかったというのが正しかった。蒼介と優志と京平が米を求めて暇を見て城の外へ護衛付きで出かけたが、どこの食料品を扱う店舗でもついぞ見つからなかったのである。
そして米を探して何日か経ったある日のこと、米がないという現実に公園でうなだれている蒼介がふと顔を上げて横をみると稲がそこにあった。付いている房は日本のものよりは二倍ほどの大きさではあったが、まごうごとなき日本米であったのだ。蒼介はそれを見た瞬間、護衛に食い入るように質問した。聞いたところによると、見つけた稲は雑草扱いでどれだけ引き抜いても除草剤を撒いても一ヶ月で元に戻るほどの強靭な生命力を持っているらしく普段は見向きもされないとのことであった。
そのことを聞いた蒼介は身を翻して公園中の稲を高速で引き抜いて行った。ちなみにその光景を見ていた孫を連れたお婆ちゃんが公園の掃除をしているものと勘違いをして、蒼介に飴を渡して来た。
大量に稲を持って帰って来た蒼介は優志と京平のもとへと直行して、自身の成果を見せてみた。その結果、三人は肩を組んで円陣を組んで結束を強めることとなる。三人は精米をどうしようかと悩んでいたが意外なことにこの米はすり鉢で脱穀を試してみたところ、簡単に外殻が剥がれ落ちてその中から純白の白米が出てきたのである。試しに炊いてみたところ味と食感は日本米そのものであったため、三人は雄たけびをあげながらガッツポーズをした。何とも昭和の週刊少年誌のような男臭い光景であった。
その後は三人のノリと勢いで定食メニューが作られていった。
「あの三人には感謝だね、こうして代わり映えがなかった食堂のメニューに新しい風が吹いてきたんだし」
「そうだな、それにこの米というものは腹持ちがいいから午後の訓練が長くなってもある程度は動けるようになったしな」
「蒼介さんと優志さんは既に決めた人がいるとのことですが、いなかったら是非ともお婿さんに欲しかったですね~」
「それなら京平が、…ってダメか。アレは姫様たちとイイ感じになって来たからな」
「もしも邪魔をしたら、どうなるものかわかったものではないですから…」
「フランツ君はどうだい? 彼は王族とのことだからもらってくれるかもしれないぞ」
フランツは王族――――――――――それも王太子である。それにもかかわらず、侍女や文官、門番の兵士に至るまで労いの言葉を言ってから立ち去っていく。そのことからフランツの評価は意外と高い。ただし――――――――――
「フランツ君はな~、顔もいいし気さくなんだけど行動がね」
「あぁ、前に更衣室や風呂を覗いたって言ってたな」
「そうなんだよ、それで捕まえようとしたんだが足が速いのなんの」
フランツは筋金入りのスケベであるため、そっち方面の信頼がほとんどない。そのために評価が相殺されている。
「アレ? それって、蒼介くんも共犯だって聞いてたんですが」
「あー、それはただ近くに居合わせただけみたいでね。詰問したらスンゴイ目で睨まれたよ」
「睨み殺すってああいうのを言うんだね…」
「私にはそれよりももっと恐ろしいモノに見えたんだが…」
その時にその場に居合わせた騎士が蒼介から向けられた何の感情も宿していなかった視線を思い出して身震いした。どうやらトラウマになってしまっている様子である。
「それならスレイくんはどうなのかな、あの子おとなしいしクセもないし」
「それに魔法も使えることもあるしな。蒼介と手合わせした際に使ったときは驚いたぞ」
「文官みたいなタイプだと思ったんだけど、意外に武闘派だったんだよね」
「それに冷めた見た目と違ってかなり負けず嫌いでな、京平に手合わせを負けてからすぐに頼んだ姿は意外といいものだったな」
スレイの評価は良くも悪くも普通であったが、蒼介と一戦交えた後での感情の発露が意外と好評だったのか特に騎士団内での評価が急上昇している。
「何だ何だ、違う部署の連中が集まってオトコの話か?」
「あ、秘書官殿」
「まぁ、そんなところです」
「召喚された方々の中で誰が一番というよりも、それぞれの方の再確認でしょうか」
「まぁ、誰が一番かという話をしていたことも否定はしませんが」
「秘書官殿は誰が好みでしょうか」
「そうさねぇ…」
秘書官が少し考え込んでから、答えを出す。
「優志殿かね、時点で蒼介殿」
「意外ですね、強面の方が好みでしたか」
「イヤ、そうじゃない。優志殿は食堂での仕事とは別にアフタヌーンティーのケーキとかも作ってくれてね」
「あー、ズルい!」
「横暴です、職権濫用です!」
「ハッハッハ、何とでも言いな!」
秘書官は卑怯な手を使った悪役のように笑う。しかし、その場には嫉妬の感情はあっても険悪な空気はなかった。
「それはともかく、優志殿は私らが書類仕事をしてる最中に溜まったゴミとかを知らない間に片付けてくれていたりタイミングよく次の書類の束を出してくれたりするんだよ。しかもそれが違和感がないくらいに」
「すごいですねー、お仕事もかなりスムーズになっているんではないですかー?」
「そうさね、かなり捗っているよ。ただ、あの感じはすでに仕込まれた感じがするのさね。いずれいなくなるのが、非常に残念だ」
「蒼介殿のほうはどうなので?」
秘書官は渋い顔をする。その表情に秘書官以外の面々が首を傾げる。
「蒼介殿の場合は何と言えばいいのかね。頼もしくはあるんだがね…」
「どういうことですか?」
難しい顔をしたまま秘書官は口を開く。
「いやね、優志殿が来れなかった時の代わりにケーキを持ってきてくれるときがあってね。そのときに書類を見られたのさ。それで急に書類の一枚を取って「ここ怪しいからよく調べてみ?」って言われたのさ」
「調べたのですか?」
「最初は半信半疑だったけどね。それで少し探りを入れてみたら、不正があってね、個人的にも徹底的に色々調べたら出るわ出るわ横領した証拠が」
「何で蒼介くんには分かったのでしょうか…」
「私も聞いてみたんだがね、「悪党なんでそういうのには鋭いんですよ」とか言われたよ」
「蛇の道ってやつですかね…」
「分からんさね。ただ、絶対に敵に回したら駄目だと私らは感じたよ。さて、私も昼飯にするかね。唐揚げにしようかね」
こうしてこの日の昼の食堂は五人の話でもちきりであり、話題が尽きることはなかった。




