はじめての異世界召喚 9
蒼介の言葉に周囲の空気と女王の顔が凍りつく。
「…もう一度お聞かせ願いますか」
「お断りだ」
「…理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
蒼介は深いため息を吐きながら、女王を見据える。その目は相手が一国の主君であるというのに、ただ無感情であった。
「俺にはもう決めた女がいるんでな、そういう話はゴメンなんだよ」
『そういうことなら、自分もお断りです。この身は既に主人のものですので』
「じゃあ、俺も。もう婚約者が四人もいるんで!」
「では俺も、同じくお断りする。恋人がいるので」
蒼介、優志、フランツ、スレイの順にきっぱりと女王の頼みを断った。残るは京平のみである。この空間にいるすべての視線が京平に集中する。
「京平はどうするよ、受けるか受けないか」
「この空気で俺に振るな、蒼介! っていうかリア充爆発しろ、特にフランツ!!」
次々と女王の願いを断り、その重圧に耐えかねて四人に噛みつく京平。どうやらまだ年齢イコール彼女いない歴の持ち主のようである。そんな京平を獲物を見つけた獣の目になった女王が見つめる。
「で、どうすんだよ、かったるいから早く決めろよ」
「すんごい、投げやりだな、オイ。まぁ、彼女欲しいとは思ってたけど、いきなり婚約とかはないだろ。もっとこう、恋愛したいというか…」
「乙女か、お前は」
『日本人としては正しいと思うんだが』
「まぁ、いきなり知らない相手っていうのはな」
「そういうものなのか?」
「一般人はそういうものなんだよ、オウジサマ」
五人は蒼介の投げやりな言葉を皮切りに駄弁り出した。それも、女王と近衛のいる謁見の間で。
「貴様ら、いい加減にしろ!!」
突如、怒鳴り声が謁見の間に響き渡る。どうやら五人の態度を見かねたようである。
「揃いも揃って陛下の頼みを聞けないというのか!」
「ライラ、やめなさい」
「しかし、陛下! 素性の知れない者たちを殿下たちの伴侶にするなど――――――――――」
「――――――――――好き勝手言ってくれるな、オイ」
聞くものすべてが息苦しくなるような声音で蒼介が口を開く。その目は先ほどの無感情な目ではなく、まるですべてがどうでもいいとでもいうような目であった。
「素性が知れない? 勝手に呼び出しておいて、言ってくれるな」
「黙れ、下郎が! これ以上近寄るな!!」
一歩ずつゆっくりと蒼介は歩み寄る。
「悪いが、こっちにはお前らの要望を聞いてやる義務なんざないんだよ」
「黙れと言っている! 剣の錆にしてやるぞ!!」
「蒼介、とりあえず落ち着け!」
「ライラ、下がりなさい」
双方に制止の声がかかるが、止まる様子が欠片も見られない。
「というか、考えろよ。そっちが勝手に呼び出しておいて、素性が知れないとかとんだ莫迦かお前は」
「黙れェェェェェェェェェェ!!」
遂に我慢が限界を超えたのか、ライラと呼ばれた近衛は抜刀して蒼介に襲い掛かる。周囲にいた近衛も取り押さえようと動いたが、ライラはそれよりも早く動いていた。凶刃が蒼介へと迫るが、襲われている本人とその後ろにいる四人は冷静であった。
そして、それは一瞬で起こった。
「近衛失格だな、一兵卒からやり直してこい」
「ほざけ! 貴様など―――――っ、何故だ! 何故、立てない!?」
蒼介が自身に迫る剣を余裕を持って回避し、すれ違いざまにライラに向かって一瞬で腕を振るったのである。しかし、ライラは尻もちをついて喚き散らしているだけで外傷の類は見られない。
「今の見えたか?」
「…(コクリ)」
「辛うじて」
「俺は見えなかった。蒼介は何をしたんだ?」
蒼介を除く四人のうち、スレイだけが見えなかったようであり説明を求めている。それに対して、京平が応じた。
「蒼介はすれ違いざまに、攻撃したんだよ」
「攻撃にしては、外傷が見られないが…」
「攻撃と言っても、外部だけを傷つけるだけじゃないんだよ。アレは体の中を壊すような技だ」
「体の中?」
「あぁ、今回のアレはアゴに掠らせるようにした一撃を加えて、頭の中を揺らして立てないようにしたんだよ。それがあの結果だ」
「よく分からんな…」
「後で知る限りのことを教えてやる」
「助かる。それよりも蒼介が何かやらかしそうだぞ」
切りの良いところで説明が終わり、スレイたちの視線が蒼介に向かう。そこには失笑した蒼介が女王に対して人材雇用に難を出し、そのことを目の前で聞いてさらに怒りを募らせるライラがいた。
「もう少し人選を厳しくした方がいいんじゃないですかね、女王サマ」
「耳が痛いですがライラはそれでも愛国心が強く、実力もあるので近衛に選ばれたのです」
「それでも、もう少し精神的に落ち着いてもいいと思うんですが…」
「いつもならもっと落ち着いているのですが、今回と前回の襲撃でかなり荒れているようでして」
「あー、それは…」
「貴様! 陛下と馴れ馴れしく会話をするな! その首を出せ! 叩き切ってくれる!!」
未だに立てずに喚き散らしているライラに対して、蒼介もさすがに無感情ではなくイラッとしたような目に変わる。女王も頭が痛いとばかりに眉間に指を当てる。ほかの近衛隊の人間も嘆くよう頭を抱え、蒼介の方を見ている。どうやら、同僚でも今のライラには近づきたくないようだ。
蒼介はそんなライラに対して近づいて行く。何も知らない人間から見れば助け起こそうとしているかのように見えるが、この場にいる事情を知っている人間からすれば死神が罪人を冥府へと連れ去るようにしか見えない。
「寄るな! 無礼者が!!」
「寄れっつったり寄るなっつったり面倒極まりない女だな」
「申し訳ございません。普段はそんな態度ではないのですが…」
「陛下! そんな下郎に謝罪など…!」
「誰のせいだと思ってんのかね…」




