希望
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フランと守が魚を食べ終わって迷宮の中の道をさらに奥へと歩いていると、フランが守に話しかけた。
「なあ、マモル。さっきの戦闘で私は考えたんだがなぁ…。」
「何だよいきなり?」
怪訝な顔をする守にフランは言う。
「今の私たちには、圧倒的に戦闘力が足りないと思うんだ。」
「そりゃあそうだけどよ…。かと言ってどうしようもなくないか?幸いさっきみたいなスケルトンの群れ程度だったら何とか切り抜けられる気がするんだがなぁ…。」
「確かにさっきみたいなスケルトンの群れ程度なら切りぬけられるかもしれないが、忘れてはいないか?迷宮の中にいるのはスケルトンだけではないんだぞ?」
フランの言葉に少し考えた後、守は答える。
「でもよ、迷宮の中には密閉された空間がある訳でもないだろ?それだったらどんな魔物が出てきても全力で逃げれば何とかなる気がするんだが?」
「そのことなんでが、一つだけ君に伝え忘れていたことがあってね…。その…、非常に言いにくいんだが…」
「何だよ?」
自分の言葉に不思議そうな顔をする守を見て申し訳なさそうな顔をしながら、フランは説明を始める。
「この迷宮には密閉された部屋が一層につき一つずつあってね…。
しかも、その密閉された部屋には他の魔物よりも圧倒的に強い魔物が設置されていて、みんなそれをボスモンスターと呼んでいるんだが…
迷宮の奥に入りたければ、ボスモンスターを倒していかなきゃならないんだ…。」
「そんじゃあ、フランはどうやって俺が埋葬されていた墓地まで出てこれたんだよ?」
「魔王様に魔術で墓地まで一気に転送してもらってたからねぇ…。」
「じゃあ、今回もその魔王に魔術で転送してもらったら良いじゃないか?」
当然と言えば当然の守の質問にフランは申し訳なさそうに体を縮こまらせながら答える。
「えーっと…、その…、帰るときのこと、考えてなかったんだ…」
「何か申し開きはあるか?」
無表情になった守の姿に恐怖を覚えて体を震わせながらも、フランは答えた。
「…、テヘッ!」
「こんの…、アホ研究者があああああ!」
「申し訳ありませんでしたああああああ!」
フランに本気で怒ってトラウマを植え付けかけた辺りでようやく守の怒りは収まり、フランとこれからどうするかの相談を行っていた。
「つまりマモル、君が強くなればいいのだよ!リッチーなのだから、それくらいできるだろう?」
「つまりフラン、お前は戦う気は無いと、そういうことか?」
「その通りさ!私は頭脳担当だからね!戦いなど、できるわけがないじゃないか!」
悪びれもなく答えたフランに守は頭痛を覚えてこめかみを抑えながらもフランに問いかけた。
「ハァ…。ところでフラン、リッチーってのはそんなに強いのか?」
リッチーの強さに疑問を投げかけられたフランはどことなく不機嫌そうなオーラを出しながら守に問いかけた。
「ほう…?つまりマモル。君は私の作り上げたリッチーが弱いと…。そう言いたいのかね?」
腰からナイフを取り出したフランを見て慌てながら守はフランに自分の考えを説明する。
「だってよ…。密閉された部屋の中にいる魔物ってのは、ものすごく強いんだろ?だったら、いかに無限の命を持ってても一瞬で殺され続けて体は死ななくても心が死んじまうんじゃねえのか?」
守の言葉にそう考えるのはもっともだと思って頷きながらナイフを腰にしまってからフランは守に問いかける。
「なあ、マモル。君はさっきスケルトンから逃げ切ったときに、何か元々の自分と比べて変わっていると感じたことはないか?」
その質問に少しの間考えてから、守は答えを口にした。
「そういえば…。元々の自分よりも運動神経が上がったような気が…。」
その答えをフランは嬉しそうに笑いながら肯定する。
「そう!その通りさ!リッチーは常人よりも運動神経が上がるのと同時に、身体能力の成長が常人の何倍も上なのさ!」
「つまり…?」
結論を促す守に笑いかけながら、フランは結論を口にした。
「今の君はずっと走り込みを続けるだけで音と同じくらい速く走れるようになるし、剣を振り続けていれば斬撃を打ち出せるようになる。君の気の100%は剣気だから魔術が使えるようになったりはしないが、それでも十分迷宮を通り抜けられる程の力を手に入れることはできるだろう。」
「おお!それじゃあ!」
「ああ!君のように剣気のみしか持っていない者でも迷宮を通り抜けられるということさ!」
守の顔に希望が出てくる。それを見て、フランは満足そうに宣言した。
「それでは、今日から特訓を始めようではないか!」
「おー!」
自分の前に出てきた希望を見据えて、守は気合を入れる。
特訓の日々が始まった。