説明
ちょっとした説明会みたいな話。
迷宮の中の道を歩きながら、守はフランに話しかける。
「なあ、今までずっとスルーしてきたんだけどさ…」
「うん?」
「今俺たちが歩いている迷宮って、どういう場所なわけ?」
その言葉にフランは一瞬呆れたような目線を守に向けた後、話を始めた。
「まさかこれほどまでに無知だったとはなぁ…」
「なんだよ、その言い方?俺は異世界に召喚されてからすぐに迷宮の中に運ばれて、挙句の果てにはリッチーなんてものになっちまったんだぞ?知識がなくてもいいじゃないか。」
「確かにそういわれるとそういう気もしてきたなぁ。まぁいいだろう。この私が一から説明してあげるから、耳の穴をかっぽじってよく聞いているんだぞ?」
「耳の穴かっぽじってって…。女性の使う言葉じゃないだろ…」
守の呆れたような目線を無視してフランは説明を始める。
「まず最初に、この世界には魔王が率いる魔族と我々のような人間がいる。そこまでは知っているだろう?」
「ああ。そこまではな。」
守が頷いたのを見て、フランは説明を続ける。
「この世界には魔族の国であるモンデーと、人間の国であるマンヒューが存在している。」
「ちょっと待ってくれ。」
フランの説明に反応して、守がフランに問いかける。
「人間が国を持っているのはまだわかるんだが、魔族まで国を持っているのか?」
「?それはどういう意味だい?」
「ホラ、魔族ってのは大体薄暗い森の中に棲んでいて、森に入ってきた人間を襲ったり、王宮まで行ってお姫様を攫ったりするモノなんじゃないのか?」
守の質問に、フランは愉快そうに笑いながら答える。
「ああ、君たちは魔族に対してそんな印象を抱いているのか…。
まあ結論から言うと、そんな卑劣な行為をしているのは魔族の中でもクズの部類に入る奴等だけさ。そういうクズどもは魔族の中でも嫌われ者だからねぇ…。
もしもそんなクズどもと一緒にされてると知ったら、魔王様怒るよー?」
「マジで?なら魔族に対する嫌悪感みたいなものはできるだけ抑え込んでみるよ。」
神妙に頷く守を見て安心したように頷きながら、フランはさらに説明を続ける。
「うんうん。それでいいのだよ。それじゃあ次に行こう。
人間は魔族と魔物とを同じ様に見てるらしいけど、それは大きな間違いなんだ。
魔族と魔物の関係は…。そうだね。例えるならば家畜と人間のような関係だよ。魔物は理性を持ってないけれども、魔族はしっかりとした理性を持っているからね。魔物と魔族は一緒にしちゃいけないよ?」
「おう。一つ気になったんだけど、家畜ってことは、飼い主に何らかの恩恵をもたらすんだよな?」
「おお、そこに気づくとは察しがいいね。魔物は殺すと死体の中から貴重な金属が出てきたり、魔物の体には多くの妖気が含まれているから、武器づくりなどに使えるんだ。
まあ、そんなお得なものに人間が食いつかないはずがないからね。人間は頻繁に魔物を狩って自分たちの糧にしているんだ。そんな人間たちのことを冒険者と呼ぶんだ。」
魔族や魔物についての説明をあらかた終えたフランは、いよいよ本題の迷宮について話し始める。
「それではいよいよ迷宮について説明してあげよう。
まず、迷宮とは、モンデーとマンヒューの間をつないでいる、所謂国境だよ。
基本的に国境まではお互いに自由に入れるから、マンヒューの冒険者たちは迷宮の中で自由に魔物を狩れるんだ。
迷宮には層と言われるものがあってね。モンデーに近くなればなるほど出てくる魔物の強さは上がっていって、その強さによって層の区別がされているんだ。
ちなみに層は八つあって、第一層が最も弱い層、第八層が最も強い層だ。
まあでも安心したまえよ。確かに迷宮内はとても危険な場所だが、モンデーはそうでもないからね。
基本的にモンデーには人種差別みたいなものは存在しないんだが、マンヒューでは魔族差別が酷くてね。魔族がうっかりマンヒューに入っていかないように魔王様が迷宮に出てくる魔物を強くしたって言われているんだ。
そして今私たちがいるのは第一層。冒険者たちの墓は大体第一層にあるのさ。」
「さあ、ここまでの私の話を聞いた感想は?」
フランに感想を聞かれて守は少しの間黙っていたが、やがてその口を開いた。
「フランの話を聞くまでは魔族ってのは恐ろしいもんだと思っていたが、意外と魔族ってのもいいものなのかもしれないな…。
あ、ところで一つだけ質問なんだが、リッチーは魔族の中の一種なのか?」
守の質問にフランはしばらく頭を捻って考えていたが、結論を出して守に伝えた。
「リッチーっていうのは後天的に魔族の力を手に入れた人間だからね。基本は人間という扱いになると思うよ。」
「ふーん。」
「自分が一応まだ人間で安心したかい?」
「まあな…」
フランの問いかけに守は少しばかり力なく答えた。
「おや、元気がないようじゃないか。何か考え事でも?」
守がどことなく元気がないように見えたのでフランは守にその理由を問いかけたが、守の答えで彼女も憂鬱な気分になってため息を吐くことになる。
「ほら、フランはさっき、第一層は最も弱い魔物がいる層だって言っていただろ?」
「ああ、言ったね。それが?」
「ほら、俺たちは今第一層にいるじゃん?だったら、この先さっきのスケルトンの群れよりもヤバいのがどんどん出てくるってことだろ?」
「あぁ…。そういえばそうだったねぇ…。でも、おかしいなぁ。第一層であんな数のスケルトンが出てくるなんて、聞いたことがないんだけど…。」
「それだけ俺たちが不幸だったってことだろうさ…。これからどうやってモンデーに向かおうかねぇ…」
フランと守は、自分たちの旅が最悪なものになりそうなことにため息を吐くのだった。