最弱の暴露
意外と早めに書き上げられた。
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自己紹介を終え、守とフランが迷宮から出るために道を歩いていると、突然道の端から骸骨のような見た目をした魔物、スケルトンが飛び出してきた。
「あっちゃー。迷宮の中だから魔物が出てくるのは知ってたけど、こんなに早く出てくるとは思わなかったよぉ…。
仕方ない。戦闘もやむなしか。マモル、あんなの一撃で粉砕しちゃいな!」
「…。」
フランが自分の不運を呪いながらも守に命令するが、守は沈黙したままだ。
そんな守を不思議に思い、フランは守に声をかける。
「おーい、マモルー。どうしたんだい?君も晴れてリッチーになったんだから、あんな下等の魔物程度、消してしまいたまえよ。」
「…。」
「マモル?」
自分が何度も命令しても反応しない守を不審に思ってフランが守の方を見ると、守は顔を青くしてガタガタと震えていた。
自分の声が呆れたものに変わっていくことを自覚しながらフランは再び問いかけた。
「マモルー。もしかしてマモル、戦えないとか言わないよね?」
恐る恐る問いかけられたその質問に、守は無情な答えを告げる。
「イヤ、無理無理無理無理!あんなの勝てるわけないだろおお!?俺は生まれて初めて魔物なんて見たんだぞ?戦える訳がねえから!」
その答えを聞いて今度はフランの顔も青くなり、体が震えだす。
「そう言うフランこそ、魔物と戦えたりしないのかよ!?」
「イヤイヤ、それこそありえないだろう!私に戦闘なんて絶対に不可能だからあああ!」
「なんでだよおお!お前、魔王の部下の研究者なんじゃねえのかよおお!」
「イヤ、私自分は研究者だって言ったよね!?普通は戦える研究者なんてありえないからあああ!」
「嘘だろおおお!そんなんで魔王の研究者が務まるのかよおお!」
「しょうがないじゃないか!実際にこうして私は魔王様の部下の研究者なんだからああああ!」
「「「ググキカキキカカァァァ!!」」」
「「うわああああ!」」
すっかり口論に夢中になっていた二人の前にいつの間にか何体にも増えていたスケルトンたちが押し寄せてくる。
二人は一旦口論を忘れ、二人して叫びながらスケルトンから逃げていった。
「ハァ…。ハァ…。」
「ゼー。ゼー。ゼー。」
二人は思いっきり走ってきたので息が上がりまくっていたが、少し息を整えてからフランが質問する。
「ハァ…。ハァ…。君は…。本当に…。強いのかい…?」
息も絶え絶えといった感じのフランから放たれた質問に守は息を整えながら答える。
「ハァ…。誰も…。俺が強いなんて…。ハァ…。言ってないぞ…?」
その言葉にフランは完全に息を整えてから、何を言っているのだと言わんばかりに質問を続ける。
「君は何を言っているんだい?君は異世界から召喚された勇者たちの一員なんだろう?勇者たちは強いと聞いたよ?まさか勇者が本当は弱かったなんて言うんじゃないだろうね?」
その言葉にやれやれと首を振りながらも守は答える。
「あのなぁ…。それは言葉の綾ってもんだよ…。確かに勇者は強いけど、勇者の仲間まで強いなんてのはただの偏見だぜ?」
「しかし、勇者の一味は仲間一人一人が異様に強いと噂で聞いたよ?この世界での普通の人間の魔気は5%以下なんだが、勇者の一味は誰もが10%を超えているとか…。」
「ああ…。その情報は大体事実だけど、少しだけ違うんだよ。」
「?」
自分の言葉に可愛らしく首を傾げたフランに守は自嘲気味に説明する。
「今フランが言ったのは、俺以外の奴等についてのことだ。俺はその中でもとりわけ落ちこぼれでな…。俺の成績は最悪と言われてもしょうがないものだからなぁ…。」
悲し気に自分が他人よりも圧倒的に劣っていることを自白した守にフランは問いかける。
「それじゃあ君の気の質と割合はどんな感じなわけさ?」
その問いに大きくため息を吐きながらも守は答える。
「剣気だけだよ。」
「は?」
何を言っているんだ、と言わんばかりの視線を向けてくるフランに守はもう一度説明する。
「だから、俺が持ってるのは剣気だけ!純度100%の剣気だけですー!」
「…。」
「失望しただろ?俺なんて一生落ちこぼれのダメ人間なんだよ…。」
自分の説明を聞いて沈黙しながら震えているフランを見てフランが失望しているのかと思って自嘲を始めた守の耳に、意外な音が入ってきた。
「アハハハハハハハハハハ!」
フランが突然笑い出したことに驚いたが、自分の無能が笑われるのを何も思わずに見ていられる程守は大人ではない。フランの笑い声にイラっときた守がフランに突っかかるのは必然であった。
「おい、俺が無能なのがそんなに面白いのかよ?悪かったな。無能なだけの役立たずで。」
しかし、その守の言葉に対するフランの言葉は守にとって意外な物だった。
「ハハハハハ!…。オッホン。いや何失敬。別に悪意があって笑ったわけではなかったんだ。」
「はぁ?それなら何でまた笑い出したんだよ?」
守がフランの言葉に訝し気な顔をしながら問いかけた言葉に、フランは嬉しくてしょうがないといったような感じで答える。
「いやね。私は嬉しかったのさ。今までの人間の中にも魔気が100%の者はいても、剣気が100%の者なんていなかっただろうからね。私の研究に新たなレパートリーが増えたと思うと、嬉しくて嬉しくて…」
フランが目元の涙を拭いながら言ったその言葉を聞いた瞬間、守の心につっかえていた何かが外れた気がした。
(あ…れ…?なんで…?)
様子がおかしくなった守を不思議そうに覗き込むフランを見ながら、守は自分で自分自身のことを不思議に思う。
(なんで…、なんで俺は泣いてるんだ…?)
守が泣いてしまうのは何も知らない人から見れば奇怪なことこの上ないかもしれないが、守のこれまでの事情を考えると、しょうがない。
なにせ守は高校に入学してからは周りの人間に見下され続け、親など以外の誰にも必要としてはもらえなかったのだ。
しかしそんな事情を知らないフランにとっては、守の様子は不思議以外の何物でもない。
「おやおや?この世紀の天才研究者の実験のサンプルになることがそこまで嬉しかったのかい?」
「ったく、バーカ。そんな最悪のことで喜ぶような馬鹿がどこにいるんだよ?」
「ほら、今私の目の前にいるではないか。」
「喧嘩売ってんのかお前?」
いきなりくだらないことを言い始めたフランに反論しながらも涙を止めない守を見て、フランは満足そうに微笑んだ。