死からの蘇生
ブックマークが増えてて驚いてしまった。
読んでくれてありがとうございます。
寒い。ぼんやりとした意識の中で守が最初に感じたのはそれだった。
暗い。だんだんはっきりとしてきた意識の中で守は視界が真っ暗なのを感じ取る。
ここから出たい。ほとんど意識が覚醒し、寝ぼけた頭で守が考えたのはそれだった。
そして意識が完全に覚醒して。
守の目の前に入ってきたのは自分の部屋の天井でもなく、ましてや図書館の天井でもない、ただ単に暗いだけの物だった。
守は自分がどこにいるかを確認するために起き上がろうとして、頭を思いっきり鉄でできた板のような物にぶつけた。
手足を動かして横に動こうとしても、横には鉄の壁らしきものがあって横に動けない。
ようやく自分が鉄でできた箱に閉じ込められたということに気づいた守は、箱の蓋を何度もたたいて箱の中から出ようとしたが、箱から出ることができない。
「うわああああ!開けてくれえええ!俺はまだ生きてるんだ!殺さないでくれええ!」
これだけ大声を出しても周りからは助けようとする物音ひとつ聞こえないので自分が誘拐されたのではないかと考え、守は一生懸命箱の蓋を叩く。
箱から自力で出れないことを悟った守はさらに必死に大声を出したり箱の蓋を叩いたりひっかいたりするが、それでも箱は開けられない。
もうだめか、と思って守が目を閉じようとした瞬間、急に目の前が少しだけ明るくなった。
岩の天井と薄暗い光を見て箱の蓋が開けられたことを確認して箱の中に寝っ転がっていた守の視界に人の顔が入ってきた。
もしや自分を誘拐した者かと警戒して、起きていることがばれないように守は目をつぶってやり過ごそうとしたが、つい先ほどまで自分が蓋を叩きまくっていたことを思い出し、だんだん顔を青くする。
そんな守の上から守を覗き込んでいた人が何かを喋り始めたので、守はばれないように警戒しながらその言葉に耳をそらす。
「おーい、起きているんでしょう?だったらとっとと目を開けてくれませんかねー。」
聞こえてきた声が少女の物のように繊細そうな物だったことと、声に若干の柔らかさがにじみ出ていたので、守は少し脱力しながらも少女の物らしき声に耳を澄ませた。
「おーい。おっかしーなー。死体を探し出してくるのは得意なはずだったから、今回選んだ死体もいい質の物なはずだったんだけどなー。」
声が何やら物騒なことを言い始めたので、守が選んだ死体という言葉に疑問を感じるよりも先に体が恐怖で少しづつ震えてきた。
それを見てニヤリとしながら少女の声は更なる脅迫を続ける。
「しょうがないかー。ここまでやったのに起きないんだったら、腕か足の一本くらいもぎ取ったら起きてくれるかなー」
(あれ?これってヤバいパターンじゃね?)
本気で守が恐怖を感じていると、そんな空気を読み取ったのか、声はますます楽しそうにトドメの脅迫を守に突き付けた。
「腕か足がもげると痛いと感じるよりも先に熱いって感じると小説で見たことがあるんだけど、どうしよっかなー。もしもこれ以上調子に乗って寝続けるなら、腕をもいで、後で感想を聞こっかなー。」
「すいませんでしたあああああ!マジ調子乗ってすいませんでしたああああ!」
とうとう本格的にバイオレンスな事を言い出した声には耐えられずに守は跳ね起きて箱の外に飛び出して万国共通の土下座をかました。
そんな守を見て、声の持ち主は満足気に頷いてから喋り始めた。
「おお、その地面に頭を打ち付ける謝罪はなかなかに素晴らしいものだね!」
(ええ…コイツ、土下座を素晴らしいって…。本格的にヤバい人種なんじゃね?コイツ。)
「さあ、それでは顔を上げることを許してやろうではないか!」
いきなり土下座をした自分を見て引くどころか喜んで見せた声の持ち主に守がドン引きしていると、声の持ち主が顔を上げるように命令してきたので守が顔を上げると、守の視界の中に入ってきたのはロリッ娘と言っても過言ではないほどの見た目をした、14、15歳位の青髪赤目の美少女だった。
「…。」
「おやおや?私の美貌に絶句しているようだね?」
「いや、思ってたかなり幼い見た目だったもので。」
「おやおや、嬉しいことを言ってくれるではないか。私はこれでも君よりもずっと年を取っているのだがね?」
「それってつまりロリババアってこと…」
そこまで言いかけた守の頬を何かが掠めて地面に当たったようだったので恐る恐る守が地面の方を見下ろしてみると、そこには小さなクレーターがあった。
「マジ調子乗ってすいませんでした。」
「うん?何のことだね?もう一度言ってみたまえよ?そのときは君の体にたくさんのクレーターができることになるがね?」
「ほんっとうに申し訳ございませんでしたああああ!」
「はあ…。今までの私の成功体の中で私に対してそんな対応をしてきたのは君が初めてだよ…」
ため息を吐きながら吐かれた成功体という言葉に守は反応して目の前にいる少女らしき見た目をした人物に問いかけた。
「なあ、今アンタは俺のことを成功体って言ってたけど、何のことだ?何かの実験に関わった覚えなんて俺にはないんだが?」
「おや、まさか自分が死んだということすらもわかっていないのかい?」
「は?」
目の前の人物の口から放たれた言葉に理解が及ばず、守はまた問いかける。
「なあ、今アンタなんて言ったんだ?その…、俺が…」
「死んだってことかい?ああ、それは事実さ。君、この前王宮で召喚された勇者たちのうちの一人だろう?何があったのかは知らないけれども、君が死んだっていうのは事実だよ?なにせ君が入った棺桶がこの墓地に運ばれてきたんだからね。」
そこまで聞いてから守は自分の入っていた鉄の箱が棺桶であることを知ったが、今の守の意識はそんなことには向いていなかった。
守は目の前の人物の言葉が受け入れられず、震える声で問いかける。
「おい、俺が死んだなんて嘘だろ?ほら、今こうして俺は喋ってるんだぜ?死人は普通喋れないよな?」
うろたえた様子の守に目の前の人物は憐れむような目を向けながら言葉を続けた。
「いーや。君は間違いなく死んでいた。私が最初に確認した時には心臓が止まってたからね。」
「は?何言ってんだよ。言ってんだろ?死んだ人間は動けないってさぁ…」
「そこまで自分が死んだことを肯定したくないなら、自分の首に触れてごらんよ。冷たいし、脈も無いはずだから。」
「は?おう、いいぜ、確認してやるよ…。」
自分の首に触れた守の顔が真っ青になる。体は恐怖で震え、歯もガチガチと音を立て始めた。
「な、なんで…。なんで、俺の体がこんなになってんだよ!」
「ほうら、言っただろう?君は既に死んでいると。」
「それだったら、なんで俺は動いてんだよ!?」
自分の脈が完璧に無くなっていて、自分の体も冷たくなっていることを確認した守は必死に目の前の人物に問いかけるが、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの態度で目の前の人物が口にした言葉は、守にとって絶望的な物だった。
「はら、だから成功体って言ったろ?私は君の死体に魔術をかけてリッチーにして蘇らせたのさ!」
「つまり俺は…、化け物になっちまったってことか?」
守の言葉に眉をひそめながらも目の前の人物は話を続ける。
「化け物と一言に言われると不愉快だなあ。私は自分の今までの研究を永遠の命と人間の蘇生にだけ費やしてきたんだぞ?」
どこまでもマイペースに話を進める目の前の人物を見て少し心を落ち着かせてから守は問いかけた。
「じゃあ、アンタの名前を教えてくれないか…?」
「いいだろう。では、心して聞き給えよ?私の名前はフラン・バロン!魔王直属の研究者さ!そういう君は?」
「俺の名前は間守だ。まあ、好きに呼んでくれ。」
「おうとも!それではよろしく頼むよ、マモル!」
「へーい…」
(魔王直属の研究者にリッチーにされるとか…。笑えねえ…。これからどうなるんだろうか…。)
「ハァ…。」
自分の目の前で誇らしげに胸を張っているフランを見ながら、守は自分の不穏な未来にため息を吐くのだった。