最弱の発露
一日のうちに連続投稿。
仕方ないじゃないか。暇だったんだ。
「はぁーぁ。これからどうすっかなぁ…」
いかにも高級といったような感じの部屋の中のベッドの上で守は大きなため息を吐いた。
「あーあ。あのイケメン、俺らをまるで虫けらでも見るかのような目で見てやがったよ。もしかして俺、相当ヤバい世界に召喚されたわけ?」
自分たちが召喚されたすぐ後に自分たちの前に出てきた美青年のことを思い出し、守はブルっと体を振るわせた。
「アイツ、一体何者なのかねぇ…」
異世界から召喚した勇者をまるで虫でも見るかのような視線で見てくるような人間の正体など想像もできないが、唯一自分にわかるのはあの男がおそらく自分の敵であるということだけ。
(とりあえず、あの男だけは信用しないことにしておこう)
あの男を絶対に信用しないことを心に誓ってから、守はベッドから起き上がり、部屋のドアを開けて廊下に出て、階段を下って広場の方に向かった。
昨日守たちが召喚された後、守たちは各個人の部屋の鍵を渡され、翌日王宮の真ん中にある広場に来るように言われたのだ。
普段から自分をいじめているクラスメイトたちに会うのは嫌になるし、何より自分たちを虫でも見るかのような目で見てきたあの男には会いたくなかったが、かと言って広場に向かわないのもそれはそれで気が引けたので守は重い足取りで広場へと向かったのだった。
広場にはすでに自分以外の全ての生徒が気合満たんといった感じで待機しており、来ていないのは守だけであったため、守は肩を小さくしながら広場へと入っていった。
最後の一人の生徒である守が到着したのを見てから、広場の真ん中にいたエリアナが声を上げた。
「みなさん、本日はこうして集まっていただきありがとうございます。」
勇者の自分たちに対して礼儀正しい言葉を使うエリアナに生徒たちは満足そうに頷き、話の続きを待つ。
「今日みなさんにやっていただくのは、自分の気の確認です。」
気の確認、という言葉に生徒たちは怪訝な顔をしたので、一人の女子生徒が手を上げた。
「申し訳ありませんが、質問よろしいでしょうか。」
「はい。どんな質問でもどうぞ。」
質問の許可をもらった眼鏡をかけた女子生徒は、大きな声で自己紹介をした後、質問した。
「ありがとうございます。私は学級委員長、まあこのクラスのリーダー役を務めている新垣綾と言います。それで質問なのですが、先ほど王女様がおっしゃっていた「気」とは何のことなのでしょうか?」
「はい。そういえば異世界には気という概念はないのでしょうね。では説明させていただきます。「気」とは全ての生命が持つエネルギーみたいな物で、剣気、覇気、妖気、魔気の四種類あります。最も強いといわれている気が魔気で、その下に妖気、覇気、そして最弱の剣気となります。人間は基本これらの気をいくつか持っていて、気の種類と割合によってその人の潜在能力がわかります。また、魔気を使うと魔術が使え、妖気を使えると妖術が、覇気を使うと威圧が使えるのですが、剣気の能力はほとんどなく、ただ単に剣を使うのが少し上手くなったり、殺気を少し鋭くしたりする程度のことしかできません。」
「ありがとうございました。」
自分の説明で生徒たちが納得してくれたのを確認してから、エリアナは再び喋り始めた。
「今日はその「気」の測定をします。それではみなさん。あちらを見てください。」
エリアナがそう言って指さした方向には、大の大人二人分はあろうかというほど大きな水晶が石の台座の上に鎮座していた。生徒たちの視線がそちらに向いたのを確認して、エリアナは話を続ける。
「皆さんにはあの大きな水晶に触れてもらいます。あの水晶に触れると個人の気の種類と割合がわかります。今日みなさんにしてもらうのはそれだけなので、安心して触ってください。」
「「「はい!」」」
生徒たちが元気よく返事したのを見てから、エリアナは広場の端っこに座っている女教師の方に近寄っていった。
「あの…、あなたが彼らの先生なのですよね?」
いきなり王女に話しかけられたので少しビクッと体を震わせてから、彼女は返事をした。
「ああ。私が彼らの担任の平田由井という。よろしく頼む、王女様。ああ、すまない。小さいころから敬語を使うのは苦手でね。そこは見逃してくれ。」
しっかりとした自己紹介をした由井に微笑nでから、エリアナは問いかけた。
「先ほどから随分と心配そうなお顔をなさっていますが、何か心配事でもあるのですか?」
その質問に由井は目を軽く見開きながら答えた。
「おや、そんなに顔に出ていたかね。そんな簡単には言いたくなかったのだが、私はあの子たちが心配なのだよ。いつか自分の身に過ぎた力を手にしてしまってそれによって自分を傷つけてしまうのではないか、とね。」
生徒たちを心配そうに見ている由井を見てエリアナは少し笑ったが、すぐに由井に聞かれて問われた。
「おや、今の話に面白い部分など存在したかね?」
「いや、仏頂面をしていても、心はとってもお優しいお方なのだなあ、と思いまして。」
「なっ、何を言うのだ!私は別に優しくなど!」
自分の言葉を聞いて顔を赤くしながら反論する由井を微笑ましそうに見ながらエリアナは生徒たちの方に目を向ける。それにつられて由井も生徒の方を見たが、その瞳はとても優し気な物だった。
一方その頃水晶の前では、多くの歓声が上がっていた。
「おお!俺の魔気は40%だ!」
「ふん!俺の魔気なんて45%だよ!」
「おお!さすがは異世界の勇者様だ!我々とは格が違う!」
歓声を上げて自分の魔気を自慢している生徒たちの周りには多くの騎士たちが集まって彼らを褒め称えていたが、一瞬その声は静まった。
「みんな!俺の魔気は100%だったぞ!」
大きな声が歴史に残るであろう数値を言い放ったからだ。
「「「「おおおおおおおおー!」」」」
100%を叩き出した生徒、小林正義の周りに多くの生徒と騎士たちが集まり、口々に彼を褒め称える。
「おおー!スゲエな、小林!」
「さすがですな、セイギ様!」
「希代の大勇者の誕生だ!」
正義の叩き出した数値に場が大きく沸いたが、再びその場は別の意味で静まることになる。
『魔気0%、剣気100%』
歴史に残るであろう最弱の数値を叩き出した者がいたからだ。
一人がこらえきれずに笑い出し、つられて他の生徒も笑い出す。
「クッ、アハハハハハハハハハハハハ!」
「ひゃーっはっはっはっはっはっはっはは!」
「はははは!さすがは落ちこぼれだ!」
その数値を出したのは守だったのだ。
100%の魔気を出した生徒がいた後だったのでなおさらその数値は笑いを誘い、生徒たちは爆笑の渦に飲まれた。
(まーた落ちこぼれですか。異世界の中でくらい落ちこぼれから脱却したかったんだがねぇ…)
守は落ち込み、他の生徒たちは侮蔑の視線を守に向ける。
そうして広場での時は過ぎていく。
「落ちこぼれの勇者、ですか。対応に困りますねぇ…」
裏で蠢く思惑に気づかずに。