表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

汚い虹

作者: 休憩寺

今日、私は母親という私を殺した。



わたしはお母さんと手を繋ぎながら、人の列の中を歩いてた。わたしとお母さんは今日からこの町に住む。

「お母さん、見てみて、虹だよ。」

わたしのことを見つめていたお母さんは顔を上げて、優しく微笑んだ。よかった、やっと笑顔になった。

「綺麗ね。」しかし、その声はどこか悲しげだった。

「もしかして、わたしたちをお出迎えしてくれたのかな。」笑いながら、言ってみる。

「そうかもね。」

一言そう言うと、また悲しそうな顔に戻ってしまった。


新しい家に向かう途中、ホースで水を撒いている人がいた。

「あっ、あそこにも虹がある!」とあなたは嬉しそうに言った。

「ほんと、小さな綺麗な虹ね。」とぎこちない笑顔しかできなかった。

無邪気なこの子は気づいているだろうか。

私の作り笑いに。これから残酷な未来が待っていることに。

ごめんね。あなたを幸せにできなくて。


虹を見ても、お母さんは元気にならない。どうしたら元気になってくれるかなと一生懸命考える。俯いて歩いていると、地面いっぱいに広がる虹を見つけた。

「お母さん、この町には地面にも虹があるよ!」精一杯の笑顔をした。

なのにお母さんの目からは涙がこぼれた。それからわたしの頭を撫でてくれた。

お母さんの手は冷たかったけど、うれしかった。

少ししてから「これは汚い虹なのよ。」と小さな声でお母さんは言った。


心配させちゃって、ごめんね。

無邪気な笑顔で私を励ましてくれて、ありがとう。

「ずっとそばにいるからね。」

私はそう嘘を言って、つないだ手に力を込めることしかできなかった。

何もわかっていないこの子は、また無邪気な笑顔を見せてくれた。


この町は機械の音でとても騒がしい。煙突からは雲がつくられている。

お母さん、わたし、全部わかっているよ。

わたしたちはこの町に売られたんだよね。

この汚い、汚い闇の町で働きゃなきゃいけないんだよね。

でも、わたしは気づかないふりをするよ。残酷な事実もお母さんの作り笑いも。

ずっとそばにいるからね。

わたしは、作り笑いをした。そしたら、お母さんも作り笑いをした。



今日、私は子供のわたしを殺した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ