汚い虹
今日、私は母親という私を殺した。
わたしはお母さんと手を繋ぎながら、人の列の中を歩いてた。わたしとお母さんは今日からこの町に住む。
「お母さん、見てみて、虹だよ。」
わたしのことを見つめていたお母さんは顔を上げて、優しく微笑んだ。よかった、やっと笑顔になった。
「綺麗ね。」しかし、その声はどこか悲しげだった。
「もしかして、わたしたちをお出迎えしてくれたのかな。」笑いながら、言ってみる。
「そうかもね。」
一言そう言うと、また悲しそうな顔に戻ってしまった。
新しい家に向かう途中、ホースで水を撒いている人がいた。
「あっ、あそこにも虹がある!」とあなたは嬉しそうに言った。
「ほんと、小さな綺麗な虹ね。」とぎこちない笑顔しかできなかった。
無邪気なこの子は気づいているだろうか。
私の作り笑いに。これから残酷な未来が待っていることに。
ごめんね。あなたを幸せにできなくて。
虹を見ても、お母さんは元気にならない。どうしたら元気になってくれるかなと一生懸命考える。俯いて歩いていると、地面いっぱいに広がる虹を見つけた。
「お母さん、この町には地面にも虹があるよ!」精一杯の笑顔をした。
なのにお母さんの目からは涙がこぼれた。それからわたしの頭を撫でてくれた。
お母さんの手は冷たかったけど、うれしかった。
少ししてから「これは汚い虹なのよ。」と小さな声でお母さんは言った。
心配させちゃって、ごめんね。
無邪気な笑顔で私を励ましてくれて、ありがとう。
「ずっとそばにいるからね。」
私はそう嘘を言って、つないだ手に力を込めることしかできなかった。
何もわかっていないこの子は、また無邪気な笑顔を見せてくれた。
この町は機械の音でとても騒がしい。煙突からは雲がつくられている。
お母さん、わたし、全部わかっているよ。
わたしたちはこの町に売られたんだよね。
この汚い、汚い闇の町で働きゃなきゃいけないんだよね。
でも、わたしは気づかないふりをするよ。残酷な事実もお母さんの作り笑いも。
ずっとそばにいるからね。
わたしは、作り笑いをした。そしたら、お母さんも作り笑いをした。
今日、私は子供のわたしを殺した。