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ロケットファイア・レッド

作者: inu

ヴァンパイアとヴァンパイアハンターの話

彼女のロケットファイア・レッドは決して色褪せない。

激情的に燃えるその真っ赤なロングヘアを僕はとても気に入っている。

好きだと言ってもいいし、愛していると言っても過言ではない。

でも結局、彼女はヴァンパイアで、そして僕はヴァンパイアハンターなのだ。

そこには越えられない一線があり、守るべき一理がある。


 彼女は時折、腹をすかして僕の前に現れる。

僕は銀の短剣を鞘に戻し、両手を広げ、とびきりの笑顔で彼女を歓迎する。

ハロー飢えた猛獣さん。人間の世界にもそろそろ馴染めたかい?

彼女はペコペコのお腹を抱え短く息を吐くだけで、何も答えてはくれない。

お決まりのやりとり。

僕はいつだって、少し悲しい気持ちになる。

この世知辛い世界に思いを馳せる。


 彼女が体制を低くすると戦いの合図だ。

僕は眉をあげてわざと大げさに困り顔を作る。

やれやれってな感じで。

しかし彼女は裏腹にとても真剣な表情で僕を見つめる。

そんな目で見つめないでくれよハニー。

彼女の靴と地面とが擦れてジリジリと音を立てる。

僕はこれから再生される『お気に入りのシーン』を見逃すまいと目を凝らす。


 ガンッと地面が割れる音がする。

地面を蹴った彼女が僕に向かって急接近をはかる。

ロケットファイア・レッドが揺れる。

彼女の右手の爪が僕の首元に伸びる。

僕は左手でその軌道をずらして彼女の無防備な頭を一度だけ軽くポンと叩く。

体制を崩した彼女がズザザザザと地面を転がる。

受け身を取って起き上がり、キッと悔しそうな顔を僕に向ける。

そのコンマ三秒後、やっと風が通り抜ける。


あぁ!なんてことだ!まさにロケットファイア!


 僕が色に名前を付けたのはこれが初めてのことだ。

人生でそんな衝動に駆られる機会はそうそうない。

ヴァンパイアの心臓を銀の短剣で一突きするのが僕の仕事だから、

赤色を見る機会は他の人よりも少し多い。

それでも、彼らの血の赤も、充血した目の赤も、

それはただの赤であり、それ以外の呼び方はなかった。

彼女と初めて対峙し、『お気に入りのシーン』を初めて括目した時、

僕は短剣で彼女の身体を貫くことを忘れてしまうぐらい、その赤に見惚れてしまっていた。

ロケットファイア・レッド。

僕の頭の中を駆け巡る。

その呼び方がまるで元々世の中に存在していたかのように。


 それ以来、僕は彼女との再開を楽しむため、

『お気に入りのシーン』を再生するため、

職務怠慢を続けている。

もしかしたら彼女も、大嫌いな銀をチラつかせないハンターとして、

僕のことを気に入っているのかもしれない。

だからと言って、僕の血を彼女に差し出そうとは思っていない。

さっきも言ったように、そこには大事な一線と一理があるのだ。


 地面に膝をついて僕を睨んでいる彼女のお腹がグゥと鳴った。

ヴァンパイアだってお腹が鳴る。

恥ずかしそうに取り乱した彼女が頬を少しだけ紅潮させる。

でもその可愛らしい赤に僕はまだ名前を付けていないし、今後付けることもないだろう。

踵を返して猛スピードで逃げていく彼女を見届けながら僕は一人つぶやく。


「またね、ロケットファイア・レッド」

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