あなたに会えた場所 序章1
ネットでの初投稿です。
色々と読みにくい部分などがあると思います。
物語の展開が遅い部分やSF部分が見えてこないなどがありますが、後々に出てくるので
それまでお待ちください。
もし、よかったら最後までお読み下ください。
序章 あなたに会えた場所 1
2048年 6月
朝、窓の外には清々しいほどに澄んだ空が広がり、昇る太陽の日差しがカーテンの隙間を縫って、ベッドで眠る少年の身体を照らす。
心地よい安眠を妨害するその日差しに少年が眉を顰めながらも、ゆっくりと目を覚ました。
「うっ、うーん……」
時刻は午前5時30分を過ぎたところ、いつもよりも30分ほど早く目を覚ました少年、高乃・湊は身体に残った軽い疲労感を溜息と共に漏らす。
もう一度、寝ようとも思ったが、どうせ30分後には目覚ましのアラームに起こされるので、どうせならと思った湊は寝ぼけた思考を起こすべく、カーテンを一気に開くのであった。
「ッっ……」
寝ぼけた思考と身体には少々刺激が強かったものの、目蓋を細めながら次に窓を開けた。
その瞬間、外からは早朝らしい涼やかな風が湊の頬や髪を撫で、思わずその空気を肺に送り込むと湊は自然な空気が心地よいと再度、痛感するのであった。
このような体験をするのはこの町、小暮町に来るまで体験する事はなく、今まで都会暮らしをしてきた湊にとってはとても新鮮であった。
この小暮町に引っ越してきて2日目の朝、今いる家もここで暮らす為に作られた新居でもあり、引っ越し業者から引き取った私物が詰まった段ボールなどが部屋のそこらに積み重なっている状況であった。
その荷物の中からいち早く取り出し、飾っている物がある。それは1枚の写真が納まった写真立てであった。
その写真に写るのは幼き頃の湊と今は亡き母親の姿、そして産まれたばかり妹の姿が映し出されていた。
現在の家族構成は父親と湊、そして妹の3人家族であるが、父親は仕事の関係上、滅多に帰ってくることはなく、しかもこちらから自由に連絡もつかない僻地にいるらしい。
すでに顔を合わせての会話は記憶の狭間に消えそうなぐらいに薄いぐらいだ。
そして母親は元々身体の弱い人であった為、妹の美月を産んだ1週間後に静かに息を引き取った。
その時の湊はあまりにも幼すぎて、駆け付けて来た父親の前で母親を失ったのは産まれてきた妹の所為だと叫び、父親に生まれて初めて叩かれた。
そして、生まれて初めて父親が涙を流す姿を見た。
そして、その光景を見た瞬間、湊はふと思い出す。
まだ母親が生きている時に交わした大事な約束を―――
あれは母親の亡くなる5日前の事。
その日、幼い湊は毎日のように母親のいる病室に惜しみなく通い、今日あった出来事を母親に楽しそうに伝える事を行っていた。少しでも元気になってまた一緒に居られるようにと。
そうすれば自分の大好きな母親の笑みを見る事が出来るのだからと。
楽しげに伝える湊の様子を見て、母親がいつものように優しげな笑みを向けてくれる。だが、すでに母親は自分に残されている時間が限りなく少ない事を悟っていたのだろう。
お見舞いとして送られてきた林檎を果物ナイフで手ごろなサイズにカットし、湊はそれを美味しそうに頬張る。
「ねぇ、湊。林檎、美味しいかしら?」
「うん! すごくおいしいよ!」
殆どの装飾品が白色で統一されている病室の中で、母親の白く細い腕がそっと湊の頭の上に置かれてると優しげに撫でる。
ふと、太陽を隠していた雲が流れたのか、明るい日差しが病室に燈る。
白色で統一された装飾品が白く輝きを得て眩しい中、その中でも一番に輝いていたのは湊の瞳に映る母親の長い白髪であった。
光を浴びて、反射する白髪は銀色のように光沢を帯びて、とてもこの世の物とは思えないほどに幻想的な姿であった。
その綺麗な母親の事は湊にとっては自慢の母親であり、けして変と言う事は思ってもいない。
そして湊も遺伝的に若干であるが髪の色が薄いものの、父親に似てか、黒に近い灰色である。
一時の間、湊の頭を撫でていた母親がそっと口を開く。
「ねぇ、湊。少しの間、お母さんのお話を聞いてくれるかしら?」
訊ねる母親の言葉に湊は迷いなく頷き、その素直な息子の表情を見て、思わず微笑んでから母親は大きくなった自分のお腹を撫でると告げる。
「あと少しで湊に妹が出来るでしょ」
「うんっ! はやくうまれてこないかな~。ぼくね、すごっくたのしみなんだよ」
そんな湊の期待と楽しみにしてくれている表情を見て、母親は一度だけ目蓋を閉じて頷く。
たった一瞬の出来事だったが、それは何かを決心された表情の表われだった。
そして、次の瞬間には元の笑みを浮かべて湊に言葉を告げる。
「そっか、うん……安心した。湊はきっといいお兄ちゃんになってくれそうね。そんな湊にね、お母さんから大事な『約束』があるんだけど、聞いてくれる?」
「だいじな、おやくそく?」
「うん、とっても、大事なお約束」
そう言う母親の表情が何時もよりも真剣になり、幼い湊にもそれが伝わったのか、しっかりと頷いた。
「もし、妹の美月が産まれたら、湊がしっかりと面倒を見てあげてね。それはとても大変な事かもしれないけど、それでも湊にとっては、とても……とても大切な事に繋がると思うから。あなたにとってこの世界でたった一人の妹になるこの子に優しくしてあげて、お母さんが湊にしたように、湊も美月に優しくしてあげてね。
それに、湊も知っているけど、お父さんはお仕事で帰ってこれない。でもお仕事だから、だからお父さんを責めないであげてね。あと家にはお手伝いさんもいるけど、湊も自分で出来る事は手伝って助けてあげてね」
「たすけるって、どんなふうに?」
いまいちピンッと来ない湊は頭を傾げるので、母親は不意に思い出した光景を思い浮かべて言った。
「えっと……あ、ほら、この前に一緒に遊んで友達になった子、覚えてる?」
少しだけ思案して思い出したかのように湊は元気よく頷いて言う。
「あ、うんっ! ○っちゃんのことだよね! おぼえてるよ。またあえればいいなぁ~」
楽しそうに思い出す湊のその表情と言葉に母親は本当に嬉しそうな笑みを浮かべると頷く。
「今の自分に出来る限りの事でもいいから、困っているなら手を差し伸べてあげてみて。そうすれば、きっと湊を支えてくれる人に出会えるから」
「えと、できるか、どうかはわかんないけど、がんばれば、ぼくにでもできるかな?」
自信なさげな表情を浮かべる湊に母親はしっかりと頷く。
「ええ、その頑張るって気持ちをしっかりと持っていけば、必ず出来るわ。この世の中に出来ない事はそうないわ。何事も努力して、考えて、行動する。そうすれば結果は自ずとついてくるものよ」
母親の真紅の瞳がしっかりと湊を捉える。しかし、力強い言葉とは裏腹にその瞳は愁いを帯びており、今にも泣きだしそうな儚さがあった。
子供ながらも、いや、子供だからだろうか、それを感じた湊は小さな手で母親の頬に触れるとまるで赤子をあやす様に摩った。
「おかあさん、ぼく。何とか、やってみる。がんばって、みつきをまもるから、だから……泣かないで」
その言葉に母親はいつの間にか自分が涙を流していた事に気付いたのだった。ポロポロと頬を伝わる涙に気づいてしまい、自分の感情では止められないほどに次々と涙が零れ落ちてゆく。
不安げな表情を浮かべつつ、分かってくれた湊に嬉しさと切なさを隠しきれない母親はそっと湊の身体を抱き寄せる。
突然の抱擁に湊も少し驚きつつもなすがままにされて、自分からもギュッと母親の背中に腕を回し、自分からもくっ付くように抱きしめたのだった。
母親は涙声でそっと湊に囁く。
「ごめん、ごめんね……でも、ありがとう……お母さんはずっと、あなたの事を大好きだって憶えていてね」
うる憶えな過去の記憶でも、今でもしっかりと覚えている母親の言葉、抱きしめられた時の感触、10年以上たった今でも覚えている大切な思い出を湊は今でもしっかりと覚えているのであった。
何だか昔の事を思い出している内に感傷に浸ってしまったらしい。
少しだけ目柱が熱くなってしまったのか、思わず苦笑を浮かべると湊は上着の袖で拭くとそっと一呼吸置いてから自分の気持ちを落ち着かせる。
朝から塞ぎ込んだ気持ちになるのは1日を駄目にしてしまいそうで―――何よりも、怖い気持ちに陥ってしまいそうになってしまいそうだったから。
過去に湊は小学校低学年の時に大怪我を負い、その際に過去の記憶が曖昧になってしまった。
ちゃんと覚えているのは家族の事ぐらいで、他の人たちの事は断片的にしか覚えていない。その傷跡は左上腕部に残っており、野良犬に噛まれた事による大量出血が記憶障害の原因と聴かされている。
退院後の人間関係の構築などは小学生ながら色々と苦労したのは覚えている。
「さて、そろそろ朝の支度でもしようとするかな」
気持ちを切り替えようと湊は窓際から離れ、寝癖のついた髪を摩りながら部屋を出ると一階へ向かった。
洗面所で顔を洗い、完全に目を覚ますとリビングなどのカーテンを次々と開けていき、最後に冷蔵庫の中身をチェックする。
引っ越しを行ったばかりであり、食材は全く入っていないが、昨日の夜に買ってきた僅かな食材で朝食の準備を始める事にした。
材料は二人分、慣れた手つきでトースターに食パンを入れて、タイマーを回す。
その間にお椀に入れた生卵に塩と胡椒をまぶして、既に熱したフライパンにバターを引いて溶かしていたので混ぜた卵を入れていく。慣れた手つきで焦がさないように形を整えていくとあっという間にオムレツが完成したのだった。
出来立てのオムレツを皿に盛ると丁度、ダイニングのドアが開き、もう一人の住人が姿を現した。
起きたばかりなのだが、今にも眠りそうな表情をしている。腰まで伸びた綺麗な髪が窓から入る日差しでキラリと銀色に光り、記憶の中の母親と被る容姿をした彼女だが、起きてすぐに来た所為か髪の先端が跳ねてしまっていていた。
だが、当の本人はまったく気にしていないようにゆっくりとテーブルに備え付けられた椅子に座る。
いつも通りな光景と言えば、そうなのだが、心機一転したのに、と気持ちが溜息として湊の口から洩れるも、まずは朝の挨拶を一つ。
「おはよう、美月。ってか、寝癖ぐらい直してからこいよ。女の子だろ」
パジャマの袖で目元を擦りながら、もう一人の住人である妹の美月はどこかぼんやりとしている。
「……うん、わかった~」
返事はするも絶対に分かっていないと感じた湊は美月の格好を見て、湊は付け加えるように一つ。
「あと、まだ朝は冷えるんだし、せめてもう一枚ぐらい上着きてこいよ。すぐに風邪とか引くだろ」
人によってはぶっきらぼうにも聞こえる湊の言葉だが、美月は自分の身体の事を心配してくれている事を分かっていた。本当は嬉しくて、笑みを浮かべてしまいそうだが内心だけで抑えると、わざとらしく生意気な表情を浮かべて兄である湊に告げる。
「はぁ~い、そのくらい解かっていますよぉーだ。本当にお兄ちゃんたら心配性なんだから、少しぐらい大丈夫だよ」
美月は呑気そうな声で答え、思わず湊は呆れた視線を向けてると美月は口元に笑みを作り、身支度の為に部屋に戻っていった。
その間にも湊はテキパキと調理をこなしており、すでに朝食の準備は殆ど終わって、料理を持った皿をテーブルに運び始めていた。
高乃家では家事全般を湊が熟しており、洗濯や掃除なども昔からやってきた結果、身につけるようになっていた。
都会に住んでいたころは家に家事手伝いのお手伝いさんがいたが、湊が中学に上がった頃には自分たちの身の回りの事は熟せる様になり、辞めてもらったのだ。
実際はお手伝いさんから家事などの事について様々にレクチャーを受けて、湊はとても感謝していたが、そのお手伝いさんはそれなりに歳を重ねており、これ以上自分たちに時間を割く事に引け目を感じていたという事もあった。
今でも連絡があったりするぐらいの交流はあるし、昔話が出来る数少ない人でもあった。
朝食の準備を終えた所で美月が身支度を終えて、再び姿を現した所で二人きりのいつも通りの朝食の時間が始まる。
「いただきます」
「いただきまーす」
とりあえず湊はコップに注いだ牛乳に口をつけて、美月はメインのオムレツを口に運んでいた。一口サイズでフォークに乗せて頬張った美月の表情が面白いぐらいに蕩ける様子に湊は思わず口元が緩んだ。
焼いたトーストを頬張っていると美月が不意に話しかけてきた。
「お兄ちゃん、今日って新しく行く学校に転入届を出しに行く日でしょ?」
「そうだけど、まさか……お前、まだ転入届の用紙に書くのを忘れたとか言うんじゃないよな?」
思わず呆れ顔を浮かべそうな湊に美月は持ってきていた鞄の蓋を開けるとクリアファイルに挟まれていた転入届の用紙を差し出す。
「へへぇ~ん、残念ながらもう書いてありますのでした~」
自信満々に答える美月、その用紙を上からなぞる様にチェックしていく湊は幾つかのミスを発見した。
「―――美月さん、3つほど間違えを発見してしまったんだが」
「えぇ……え、ええぇっ! ほ、本当にっ!?」
一瞬だけ冷静そうに返した美月だったが、次の瞬間には瞳を丸くして答えを求めてきたので、正直に湊は二か所の間違えを指摘する。
「まずは名前の部分、名前の漢字は綺麗に書けているけど、振り仮名はカタカナで指定されているから、平仮名じゃ駄目だぞ。まぁ用紙によっては平仮名の場合もあるから、よく確認な。あとは―――」
もう一つの指摘を行うと美月は納得したように食べ終わっていた食器を端に寄せると筆箱から消しゴムを取り出し、文字を消していく。
その光景に湊は苦笑して「もう一つは」と言って美月の頭に手を置くと揺らしながら告げる。
「重要な書類系は基本的に鉛筆やシャープペンとかの修正が容易い物は駄目なんだ」
「それじゃあ……ボールペンとかを使うの?」
「ああ、そうだよ。でも今回は俺の方も悪かったかな。美月ってこういう書類とか書くの初めてだしな」
「ううん、別にお兄ちゃんが悪い訳じゃないけどさ。ってか、その前にお兄ちゃんって……絶対に髪フェチだよね。なんかある度に髪の毛撫でる癖、あるよ」
そう言って美月が湊の手を振りほどくように避けると少し乱れた自分の髪の毛をポンポンと整える。しかし美月自身は当の湊に頭を撫でられるのは嫌いではないので、少し恥ずかしいという気持ちで思わず言葉にしてしまった。
不意に視線が合うとそんな事を言われたにも関わらず、湊はニコッと笑みを浮かべて「そうか?」と聞き返してくる。そんな笑顔に美月は頬を膨らませて。
「お、お兄ちゃんの変態っ」
と、プイッとそっぽを向く美月の頬は赤く染まっていたのだった。
そんな様子を見て、湊はそっと手を離すと場の雰囲気を変えるべく、テレビのリモコンに手を伸ばした。
テレビの電源が入ると画面にはニュース番組の特集が始まった所であった。上部のテロップには『今、日本における世界情勢の立場』というテーマで数人の政治家や各種分野の専門家などが討論を繰り広げている。
「現在、日本の自衛隊の半数の基地には旧国連、現在は連合軍が駐留し、基地周辺に住む住民とのいざこざが問題となっています。この件について皆さんはどのようなお考えでしょうか?」
司会のキャスターと思わる。中年男性が議題を持ちかける。
早朝から重苦しい話題が野次も含めて飛び交う。視界に映る美月もやや微妙そうな表情をしており、少しタイミングを誤ったかなと思いつつ、不意に聞こえてきた情報が気になって視線を画面に向ける。
テレビの画面にはグラフィックボードに映し出されている日本の領土を示す地図が映っていた。
「これが現在、我が日本国のにおける防衛線でありますが……南端に存在する硫黄島には連合空軍の軍事基地を建設し、最近に至っては関東近郊に連合軍の新型空母を派遣、配備したという事ですが、これほどの戦力を駐留させるという事は何かの前触れなんでしょうか? それに各地の連合軍の動きも活発化しているようですし、更に日本政府も連合軍に鉄などを要求されて地方にある古くなったレジャー施設などを解体して確保しているようですが―――」
そこまで聞いてから湊はテレビの電源を切ってから、先ほどから視線に映る美月に視線を向ける。
その視線に気づいたのか美月は不安そうな表情でそっと口を開く。
「ねぇ、お兄ちゃん……ここは、ここは大丈夫、だよね? 戦争なんかにならないよね?」
不安な声、ここ最近では軍の戦闘機の爆音が度々聞こえており、テレビで言っていた軍の活発化における国民へ不安感を増している。それは大人だけではなく、目の前にいる中学生である美月ですら感じ取っているのだ。
そっと立ち上がると湊は美月の傍に向かい、その小さい身体を抱きしめる。
「大丈夫、お前が必要以上に心配になる事はないから。もし、そうなったとしても俺が絶対にお前を守ってやるから……だから美月は何も心配するなって」
暖かい温もりが身体を包み、そして抱きしめる腕には少しばかり力が入るのが判った美月、視界には湊の表情は見えないものの、自分の事を大切に思っていてくれている事が伝わり、美月もそっと湊の身体に腕を回すとギュッと少しの間だけ離れずに、僅かに聞こえてくる湊の鼓動に耳を澄ましたのだった。
いつもよりも少し長い朝食を終えて、お互いに忘れ物がないかを確認し、出かける準備を整えたのは8時半過ぎであった。
これから向かうのはこの町にある唯一の高校と中学で、珍しく同じ敷地内に校舎がある珍しい私立学校であった。転校が決まり、初めてパンフレットを眺めていただけでも結構な規模な学校だと湊も記憶している。
湊たちの住む家は小暮町の端に位置し、学校は町の中心部から少し北へ抜けた先の高台にあるらしい。とりあえず片手にはパンフレットにあった地図をメモした紙を手にして、とりあえず道筋通りに進んでいった。
住宅街に入り、徐々に人の気配が多くなってきた事に気づき、そして自分の服の裾を掴まれる感触に湊は視線を背後に向けた。
そこには周りを見回して湊の背中に隠れるように付いてくる美月の姿があった。
湊は視線を戻す。と、日曜日の朝などでまだ人通りが少ないものの、過ぎ去る人、会話をしている人、それら全ての人たちの視線が美月を捉えると様々な表情をするのであった。
体質的に特徴のある美月、母親の遺伝を濃く受け継いだ美月の白く長い髪、瞳も色素が薄く赤い瞳をして、アルビノのような白い肌は一般的に珍しいともいえる。
人によっては面妖な表情を浮かべる。
人によっては異様な表情を浮かべる。
人によっては怪奇な表情を浮かべる。
ただ普通の人とは違う。ただ、色が違うというだけで差別され、陰湿な事を受ける。
脳裏に過る記憶、過去に虐められて、いつも涙を流していた美月の姿が思い出される。
そこから様々な事があり、今では笑みも浮かべる事も出来た。でも、初めて会う人々の好奇的な視線は今の美月にもまだ辛い物があった。
辛い思いをする事があるというのに何故、美月が学校に行くという行為をするのは美月なりに思っている事があると、湊も聞かずとも感じ取っていた。
しかし、それを問う事はせずに美月の気持ちを尊重し、そして兄として、たった一人の妹を守るかのようにして口を開く。
「……美月、手を出して」
そう言った湊は返事を待たずに垂れ下がっている美月の右手をそっと握る。
「え? お、お兄ちゃん……」
不意に握られる手に美月は一瞬だけ驚く表情で湊を見つめる。その赤い瞳には優しい表情を浮かべる湊の姿が映った。
握られる手。いつも自分を守ってくれたこの手から伝わる暖かさで美月は震えていた自分の心が自然と落ち着いていくのが感じ取れた。
「これで、大丈夫か?」
「あっ……うん、ありがとう」
そっと握り返す美月の表情に笑みが戻り、湊もそっと笑みを浮かべる。自分が取った選択肢が正しかったのかは分からない。でも美月が笑顔を取り戻してくれたなら、それが湊にとっての最善の選択肢のであったのだろう。自分の瞳に映る妹の笑顔が何よりの証拠なのだから。
序章 2に続く。
序章1 最後までお読みくださり有難うございます。
私情などによって序章を分割して投稿することになりました。
その辺は申し訳ありません。自分の作る文はどうも長くなってしまう傾向があるので、あの辺で分割しないと読みにくいのかなぁ、と思ったのが理由です。
もし、続きが気になる方がいたら、また会える事を期待しています。
では、短文ですがこれにて。
ここまで読んでくださり有難うございました。