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憎まれっ子世に憚るというけれど、ものには限度があると思う

「…あんた、誰?」

「おや、白々しい。私が誰かなんて、ご存知でしょう?」

「知らないな。あんたまさか世界中の誰もが自分のこと知ってると思ってるのか?思い上がりも甚だしい。」

 俺がそう吐き捨てると男のこめかみに少し筋が浮いた。たぶん怒っているのだろう。何というか、この世界の人間の煽りに対する耐性ってちょっと低いような気がする。悪役がこんなので大丈夫なのか?

「副支部長様になんて口を…!?」

「おい!こ、こいつはさっきの男!」

「まさか我々の話を聞いていたのか?」

「どうする!?」

 突然の俺の登場に権力者たちがわめきだした。そのうちの一つの発言によりこいつが副支部長だということが判明した。どうでもいいが。それよりも随分面倒な、じゃなかった、大変な展開になってしまった。さて、どうしたものか…。

「皆さん、落ち着いて下さい。こうしましょう。」

 パチンと一つ手を叩きワカメ頭…じゃなかった、副支部長は権力者たちに語り掛ける。


「いいですか、彼は我々のことについて何も『知らない』のです。彼はこの町に偶然やってきて、襲われた人々を守るために勇敢に戦い、そして『命を落とした』。…まさに英雄ではありませんか!」


 …それって。

「つまりあんたは、『俺はここでモンスターと戦って死んでしまった哀れな英雄』ってことにしたいわけだな?」

「その通り。まあ君ごときの話など誰も信じはしないと思いますが、万が一ということもあり得るので念には念を入れて行こうと思います。そこで、残念ですが君には、」

 副支部長はそこで言葉を切り、性格の悪さがにじみ出る笑顔で俺を見て一言。


「死んでいただきましょう。」


 だろうな。

 うん、まあ、そんな気はしていた。ここまで堂々とテンプレをされると反応に困るのだが…。大体強そうな悪役って権力者が多いよな。やっぱり悪人の方が出世するのだろうか?

 俺の呆れきった反応をどう解釈したのか、副支部長は笑いながら俺に言った。

「安心してください。私も鬼ではありません。抵抗しなければ一撃で楽にしてあげますよ…。」

 副支部長はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてこちらに近づいて来る。正直気持ち悪いんで近づいてほしくない。

「まあ、なんと慈悲深い…。」

「流石王立魔法学校の出身者は違いますなぁ。」

 権力者たちは自分たちに有利な流れになってほっとしているのだろう。軽口なんか叩ている。ていうかセティアも言っていたが、王立魔法学校ってそんなに凄いのだろうか…。こっちで言うところの一期校という奴なのか?わけがわからん。

 しかしさっきまでおとなしくしていたおかげか、俺の疲れもだいぶ取れている。これなら超能力も問題なく使えそうだ。

 こういうのは先手必勝ってやつだ。相手が仕掛ける前に一撃で終わらせる。

「雷よ!大地に穿つ天の裁きよ!その力もって」


「そりゃ!」


「ガフッ!?」

 空に向けて手を突き上げ何かしら言っていた副支部長の顔面に向けて、『念動力』で適当にこぶし大のがれきをぶつけた。そのまま彼は仰向けに倒れる。

「ふ、副支部長様!?」

「なんてことを…!」

「この人でなし!」

 権力者たちは顔にがれきをぶち当てた俺に非難の声を上げる。こっちとしては命がかかっているときに手段がどうとか言ってはいられないのだが、そういったまっとうな理屈が彼らに通るとは思わない。さらにこちらから言わせてもらうとするのならば、

(お前たちにだけは言われたくない!)

 の一言に尽きるのだが。

「ク、ククク…。詠唱破棄で魔法を使うとは中々やるではありませんか…。」

 そんなことを言いながら副支部長は幽鬼のごとく起き上がり俺を睨みつけてきた…のだが、


「プッ、クッ、ククク、アッハハハハハッ!!ちょっ、顔、顔、アッハハハハッ、ヒー、ハハハッ!!」


「な、なにがおかしいのですか!?」

 だって顔、大変なことになっていたから。俺がやったとはいえ、鼻血が出てるわがれきの跡がそのまんま赤く残ってるわ、さらに顔全体がはれ始めている。そんな顔でかっこつけられても笑うしかない。副支部長は何が起こったのか理解していないようだったが、俺の『顔』という発言からだろう。懐から手鏡(コンパクトってやつか?)を取り出し、顔を見て絶叫。

「そ、そんな!わ、私の美しい顔になんてことをしてくれたんだ!?」

「うわっ、自分で美しいとか普通言うか?痛いなーあんた。」

 俺が心の底からの本音を言うと、副支部長は本気で怒ったように俺に向かって言い放った。


「おとなしくしていればいいものを…。私を本気で怒らせたこと、後悔させてあげましょう!!」


 次の瞬間、副支部長はまるで呪詛を吐き出すかの如くブツブツと何かを呟きだした。本能的にやばいと思い、超能力で攻撃しようとしたその時、


「遅い!!」


 突風が吹き荒れた。


「うわぁあっ!?」

 僅かに感じた浮遊感、そして背中に感じた鈍い痛み。どうやらあまりの風の強さに、俺はその場から後ろに数メートルほど吹っ飛ばされたようだ。俺以外の悲鳴も聞こえたような気がしたが、もしかして権力者たちも巻き込まれたのだろうか。

「いっててて。なんなんだ一体、…っ!?」

 俺は顔を上げた瞬間、思わず声を失った。


 ひたすらにでかい図体、口から生えるとげとげしい牙、トカゲみたいな鱗、ぶっとい尻尾、そしてバカでかい翼。この空想上の生き物を知らない人間はいないだろうというほど有名なそいつの名前は、


「ドラゴン…!?」


 俺がそうつぶやいた瞬間、奴は天に向かって大きく吠えた。




「そう、長年の研究の結果、私はドラゴンを従えることが出来るようになったのだ。モンスターの中でも最強と名高いドラゴンをね!」

 副支部長は声高に説明し始めた。

「とはいっても、年老いて自我を失いかけたものしか従えはしないが…まあ十分でしょう。」

 支部長は少し冷静さを取り戻したようで、一息つくと俺の方を睨みながらドラゴンに命令を下す。

「ドラゴンよ!あの愚か者を始末しなさい!」


《グオォォオォォオォォ!》


 何とも言えない声でドラゴンが吠えた瞬間、俺はその場から全力で走り出した。






「全く、あんなのとまっとうに戦えるか!」

 とっさに走り出した俺にドラゴンは対応できずに見失ったようだ。取り敢えず今俺は近くの物陰に潜んでいる。

「どうすっかなぁ…。」

 取り敢えず自分が出来ることを頭に描きだしていく。俺が持っていると自分で確認できている超能力は九個ある。『透視』『念動力』『瞬間移動』『接触感応』『精神感応』『発火能力』『念写』『催眠能力』『予知』と俺が便宜上呼んでいる力だ。

 ざっとまとめよう。『透視』は透過しないものを透過してみることが出来たり、半径五キロまでの辺りを見渡すことのできる力。『念動力』は物体を触らずに持ち上げたり投げたりできる力で、少しコントロールは難しいが空中を浮くこともできる。『瞬間移動』は名前の通り自分が視認できる範囲か、行きたい場所をはっきりとイメージして思い浮かべられる場所ならどこにでも移動できたりさせたりできる力だ。移動先に物体があった場合は移動させた物体を優先する…つまり移動先の物体を押し出すようにして現れる。『接触感応』は俺が触れたものにつながったものの情報を客観的に読み取る力で、触った場所で何があったのかが分かったり触れたものに込められた残留思念みたいなものを読み取ったりすることもできる(直接理解が出来るので、どんな風にわかるのかと言われると説明しにくい)。『精神感応』は自分が直接触れた人間の心の内が読める力。『発火能力』は火種のないところから火を熾す力で、元ある火元を増幅することもできる。『念写』は頭に浮かべたものを紙のような媒体に映し出すことが出来る力。『催眠能力』は対象者に幻覚を見せたり単純な思い込みをさせる力。そして最後の『予知』は寝ているときに夢を通して最も起こり得る未来を見ることが出来る(コントロール不可)力だ。


 これだけ聞くとなんかすごそうに思えるけど、意外と使い勝手が難しい力も多く、超能力っていっても大したことない。それに同時に複数の超能力を使うことと超能力を複合させて使うことはできない。『透視』で視認した場所に『瞬間移動』で飛ぶのだって『透視』で見る・頭に『透視』した場所をしっかり思い浮かべる・『瞬間移動』を使うなんて面倒な手順を使っているのだから。超能力だって万能ではないのだ。


(大体、実験以外で超能力ってあんまり使わなかったしなぁ…。)


 ぶっちゃけ日本で暮らすだけなら超能力なんて必要ない。周りの目もあったし面倒ごとはごめんだしな。こんなに超能力をバンバン使いだしたのは異世界ハルモニアに来てからだ。正直な話、効率のいい超能力の使い方など知らない。

(自分の中にある中二病とゲーム脳でどこまでやれるか…。)

 このままドラゴンに殺されるのはごめんだ。少なくとも俺はここで死ぬ気はない。そんなことを考えながら俺は徐々に近づいて来るドラゴンの声を聴きつつ、この状況をどう打開するか頭を振り絞り始めた。

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