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厄介ごとは遅れて現れるものらしい

 俺たちが町に着いた時、そこはひどいありさまだった。

 モンスターが我が物顔で町を闊歩し、建物には所々返り血がこびりついている(誰のものかは考えたくもない)。当然町には人っ子一人見当たらない。人々を『透視』で探したところ、誰かの屋敷の地下の入口をバリケードで塞いで簡易シェルターのようにしている場所に閉じ籠っていた。そういうところが何ヵ所かあり、何処も戦士らしい人達が入口でモンスターに対して警戒を続けているようだ。その中には怪我人も多いようで必死になって手当をしている人もいる。

 それとは別に魔法使いのローブのようなものを着ている人たちが集まり、儀式っぽいものをしている人たちも見つけた。やはり彼らがいるのも頑丈そうな建物で入り口にはバリケードがしてあるようだ。


「何というか、想像以上にひどいな…。」

「本当…。」

 俺もセティアも何とも言えない状態だ。こんな状況を見ると物事を気にしないことに定評がある俺もいたたまれない気持ちになる。某TRPGならば正気度チェック待ったなしだ。

「さて、これからどうするかな?」

「そうね…。取り敢えずモンスターを片っ端から退治。まずはそこからね。」

「了解。」

 俺はセティアの提案に乗って今までいた建物の陰から飛び出し、近くを徘徊していたでっかいトカゲのモンスターを『念動力』で吹っ飛ばす。近くの建物の壁に叩きつけたモンスターが、宝石っぽいものに形を変えて壁から落ちた。

「ちょっと!何派手にやらかしてるの!?」

「あーすまん。」

 セティアから非難の声が上がる。モンスターを壁に派手に叩きつけたため大きな音が町に響いてしまった。これはあれだ。敵に自分の居場所を知らせてしまったようなものだ。こっちの世界に来てから自制を忘れてしまっているようだ。これではいけない。

「シューヤ、来るわよ!」

 セティアが叫ぶと同時に、俺たちはたくさんのモンスターに囲まれてしまった。さっきの獣みたいなものから虫みたいなもの、翼を持っており空を飛んでいるものやさらにはスライムのような形状不明のものまでまさにより取り見取りだ。ざっと目算しただけでも百近くはいそうだ。

《グルルルル…。》

《ガルルルル…。》

 たくさんのモンスターの唸り声が反響しているように思えてくる。そんなモンスターたちは少しずつ俺たちとの距離を詰めて近づいて来ている。さて、どうするか…。

「シューヤ、上空のモンスターと大型のモンスターを任せてもいい?」

「え?いやいいけど…。セティアは?」

「下にいるのを片っ端からできる範囲で片付けるわ。」

「大丈夫か?」

 どう贔屓目に見ても地上にいるモンスターの数の方が多い。比率で言えば3:7くらいだ。それを一人で捌くとなると負担が大きいのではないか。さっき家にいた時も防戦しようとしていたみたいだし、正直そんなに強くないのではなかろうか。そんな俺の考えをセティアは見抜いたようで、俺を安心させるように勝気な笑みを浮かべながらこういった。

「大丈夫よ。確かにモンスターと戦うのは初めてだけど、元々全く戦えないわけではないしやばくなったら適当に逃げるし。それにここまで来て今更ビビッてなんていられないわ!」

 最後にウインクのおまけつきだ。中々あざといことをするなぁ。セティアの様子を見ていても言葉に嘘はなさそうだ。まあ最悪、セティアの取りこぼしを俺がフォローすればいいか。

「…無理はするなよ?」

「勿論!」

 そう言うと俺はさっそく『念動力』を使う。空に飛んで俺たちを見下ろしている鷲っぽいモンスターを『念動力』でとらえる。そのままそいつを空中にいる他のモンスターたちにぶつけて攻撃していく。

「そーぉれ!」

《ギャアァァアァァ!》

《ブルギュアァァアァァ!》

 モンスター達は断末魔のようなものを上げながら宝石のようなものになっていく。見ようによっては同士打ちのようにも見えるかもしれない。しかし俺の感覚としては、振り子のようなものをがむしゃらに振り回しているという感じに近い。振り回しているモンスターが宝石のようなものに変わると、また近くにいるモンスターを適当にとらえて同じことの繰り返しだ。勿論その間に地上にいるモンスターは攻撃してくる。それを適当によけたりいなしたりして、俺は確実に空にいるモンスターの数を減らしていく。

「お次はっと…。」

 空を飛んでいるモンスターの数が減ったところで、今度は地上にいる大型(と思われる)モンスターに対して『発火能力』を使い火だるまにする。若干焦げ臭いが、すぐに宝石みたいなものに姿を変えるのでそこまで気にならない。

《ギギャアァァアァァ!》

《グルギャアァァアァァ!》

 火にまかれたモンスターは苦しみながら暴れる。その結果近くにいるモンスターを巻き込んでどんどん自滅していく。


(やっぱり何するか困ったときは、物理的な解決か炎上エンドに持ち込むに限る。)


 色々な物事に対して受け身で淡泊で面倒なことを考えるのが苦手な俺は基本的に脳筋(脳みそ筋肉の略)だ。別に矛盾はしていない。よく勘違いされているが、熱くならないイコール冷静とは限らない。冷静沈着な人間は頭がよくなければならないというのならば、メガネっ子はみんな成績優秀な優等生でなければならないといっているようなもんだ。つまり何が言いたいのかというと、俺はそこそこの馬鹿ということだ。

 そんなこんなで気が付いたとき、俺の周りにはモンスターの一匹もいやしない。どうやら俺のノルマは達成されたらしい。

(…そういえば、セティアはどうなった?)

 と思った瞬間、俺の目の前をリスっぽいモンスター(恐らく体長1メートルちょっと)が吹っ飛んでいくところであった。


「………え。」


 しばし沈黙。吹っ飛ばされたモンスターを確認。ちょうど宝石っぽいものになった。恐る恐る吹っ飛んできた方向を確認。セティアがのんびりと伸びをしているところだった。

「あ、シューヤ!そっちも終わったのね。」

 俺の視線に気付いたセティアが俺の方に向かって歩いてくる。

「お、おう。まあな。そっちも終わったみたいだな?」

「ええ。シューヤ、怪我はない?」

「ああ。セティアは…。」

「全然!」

 …色々と困惑している俺の横でセティアは全く平常通りの様子である。…あれ、さっき家にいた時はモンスターを結構恐れている様子だったのではなかったか?

「セティア、お前、強いんだな。家にいた時の反応ではそんなに強くないのかと思っていたよ。」

「えっ!まさか!私はふつーだって!全然強くないよ!」

「でもモンスターを普通に殲滅しているじゃないか。」

「あー、思っていたよりここにいたモンスターって弱かったみたい。私なんかでも倒せちゃうんだもん。皆が『モンスターはどいつもこいつも凶暴だ』なんていうから怖かったんだけど…。」

 そういうことか。なんで権力者たちがわざわざセティアのところまで押し掛けたのか、分かった気がした。恐らくセティアは意識していないのだろうが(もしかしたら意識させないように周りが細心の注意を払っていたのかもしれない)、相当な戦闘力を持っている。それこそ並の人間―魔法使いなんか目ではないのだろう。この町の人間がなす術もなく蹂躙されるしかなかったモンスターを、あっさりとぼこぼこにする人間は普通なんて言わない。

「…どうしたのシューヤ?よく見たら顔色悪いし、休んだ方がいいんじゃない?」

「そ、そうかな?」

「ええ。取り敢えずモンスターはいないみたいだし、少し休みましょう。」

 セティアが長々と考え事をしていた俺に心配そうな目を向ける。言われてみると確かに少し体が重い気がする。頭の使いすぎか…?

 セティアが適当に置いてあったベンチに俺を誘導する。そのままベンチに座ると一気に体が休憩を欲しがっていたことに気が付いた。

「…シューヤ、大丈夫?」

「何とか。」

 返事をするのも億劫だ。なんでこんなに疲れているんだろう…?






「あら?なんだか話と違うのだけれど?好きに暴れてもいいんじゃなかったの?」


 突然響いた色っぽい女性の声に俺もセティアも驚き、慌てて声の方を見やる。

「あのなあ。ここに来るまでにも、町に向かっていたモンスターを片っ端から殲滅しただろうが!」

「暴れ足りないわ…。あら、人発見!」

「おいこら!人の話を聞け!」

 漫才もどきをしながら一組の男女が俺たちに近づいて来た。女性の方の年は二十代前半くらいか。赤紫色の髪を姫カットにして頭に花の髪飾りをつけ、女性の着物に似たような艶やかな衣装を纏っている。腰には日本刀らしきものを佩いており、靴は頑丈そうなブーツだ。一見したら派手で動きにくそうな衣装だが、きちんと動きやすいようにスリットが入ったり丈がやや短かったり(七分丈っぽい)している。なんか全体的に色っぽい人という印象を受けた。男性の方は女性より少し年上だと思われる。濃い茶色の髪を短く切っており、野生児のような印象が強い。シンプルな開襟シャツに前が空いたタイプの頑丈そうなベスト、ズボンにやっぱり頑丈そうなブーツを履いている。ただ、背中に背負っている大きな斧―ハルバートがなんというか…凄く浮いている。


「ねえ、あなたたち。私たちは冒険者なんだけど、ここの魔法士機関の連中がへまをしちゃったらしくてね。モンスター除けの結界を壊してしまったらしいの。それで結界をを張りなおすまで私たちは町にいるモンスターを討伐してくれと依頼されてね。モンスター討伐の為に冒険者ギルドから派遣されたのだけれど…どうしてここにはモンスターがいないのかしら?」

「おい!さらっと秘密事項を漏らすな!」

「なによ。こんなの秘密でもなんでもないでしょう?魔法士機関のプライドになんか付き合ってらんないわ!」

 二人がもめている中、話しかけられた俺とセティアは思わず顔を見合わせる。


「もしかして面倒なことになってるのか?」

「もしかしなくても面倒なことになっているわよ…。もう冒険者ギルドも魔法士機関も動いていたなんて…。どうしよう…。」


 俺の疑問にセティアは文字通り頭を抱えながら答えてくれた。異世界人の俺にはよくわからないが、なんだかややこしいことになり始めた事態に対して、遅ればせながら俺も危機感を感じ始めた。


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