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どんな道も一歩から

 夕飯を食べ終えた俺とセティアは、今日は取りあえず寝ることにした。俺には着替えなんてある訳がなく、着の身着のままでカーペットの上にゴロンだ。制服のブレザーが皺にならないように上着だけは脱いでいた。

 セティアが貸してくれた毛布にくるまりこれからの事を考える。

(…やっぱり、元の世界に帰る方法を探さないといけないな。)

 俺は何の生活の保障も無い異世界でサバイバルをするつもりは毛頭無い。となると、

(真偽はともかく、魔王を倒せば元の世界に戻れるとか言ってたよな?)

 今の俺にできることなんて魔王のところに行くぐらいしかない。そう結論付けた俺は取りあえず寝ることにした。






 翌日、俺が目を覚ますとセティアはもう起きており、朝飯の準備をしていた。俺が目覚めたことにセティアが気付くと声をかけてきた。

「おはようシューヤ、取りあえず水を汲んできてくれない?」

「りょーかい。」

 外に出るとすぐそばに川があった。手に持った水桶に川の水を掬い入れ、そのまま家の中に戻る。

(この家には水道が通ってないのか、それともこの世界はそういう技術が発達していないのか…?)

 内心疑問は尽きないが、言われた通りのことを唯々諾々とこなしていく。時々超能力を使いつつ仕事をしていき、やっと朝飯にありつけた。…朝飯は玄米ロールパンと目玉焼き、コンソメスープだ。これだけの料理を作るのにかなり時間がかかる。かまどに薪を入れて火を熾し、水を外から組んできて使用するためだ。現代日本ではまずすることはない。

「セティアは毎日一人でこんな重労働をしているのか?」

「…まあね。私には魔法が使えないから仕方ないの。普通の人だったら火の魔法を使ってコンロに火をつけられるし、魔力を供給すれば水道管から水が供給される。私には火をつけてくれたり、水を供給してくれるような家族はいないから。」

「…そうか。」

 迂闊だった。昨日の魔法器具というのはファンタジー系のゲームで言うアイテムではなく、文字通り生活に密着したものだったのだ。俺たちのいた地球で科学が発達したように、この世界では魔法が発展して生活が成り立っているのだ。現代日本で機械音痴が生きにくいのと同じように、いや下手したらそれ以上に、この世界で魔法が使えないというのは生き辛いのかもしれない。

 表情こそ微笑んでいたが、日頃は勝気な性格を表すようなセティアの緋色の瞳に若干陰りが出たような気がした。どうやら魔法関係は触れてはいけない話題だったようだと俺は一人反省した。それからはなんとなく会話する空気にならず、俺たちは終始無言であった。あ、飯はうまかった。






 朝飯を食い終え後片付けを終えた後、一息ついてから俺はセティアに話しかけた。

「セティア、魔王ってどこにいるか知っているか?」

「はぁ!?何を言い出すの!」

 宇宙人でも見たような目でセティアは俺を見た。まあその反応が普通だよな。しかし俺としてもここで引くわけにはいかない。

「いや、俺、ちょっと魔王に会いに行かなきゃならないんだ。でも魔王の居場所がわからんから困ってて。なんか知ってる?」

「いやいやいや、なんで魔王に会わなきゃなんないの!?大体魔族は生きとし生けるものの天敵なのよ?魔王はそのトップ!出会ったら何されるかわかったもんじゃない!」

 へぇ。生きとし生けるものの天敵なんて、魔族や魔王にそんな中二設定があったなんて驚きだ。

「まあ落ち着けって。俺は別に魔族と戦争しようって言っているわけじゃない。今後について少し話し合いがしたいだけだ。」

「意味が解らない…。」

 だろうな。俺がセティアの立場だったら「ハイハイ、中二乙。」ですでに会話を打ち切っている。

「別に理解して欲しいわけじゃない。あれだ、やらなければならないことがあるんだ。」

「ええ~。…言っとくけど、一般庶民は魔族について知っていることなんてほとんどないわ。魔王なんてもってのほかね。」

「知っていることだけでいい!教えてくれ!」

 セティアが何か教えてくれる空気になった。どんなことでもいい。まずは情報を集めることからだ。そうでなければ何も始まりはしない。

「そ、そうねぇ…。魔王は『世界の果て』と呼ばれる場所にいるとされているわ。そこに配下の魔族と生活しているらしいの。」

「へぇ…。その『世界の果て』とやらはどこにあるんだ?」

「さあ。知らない。」

「えっ!?」

「本当にあるのかどうかもわからないところだし、何度も言うけど一般庶民は魔族について知ってることなんてほとんどないって言ったでしょう?」

 まさかのここで情報ストップか?俺としてはもう少し何か情報が欲しかったのだが、仕方がない。

「それじゃあ、魔王について知っていそうな人はいるか?」

「うーん…。王都にいる偉い学者さんなら知ってるかもね。」

「…王都ってあれか?王女様とかいるところか?」

「勿論。王都の中心にある王城では王女どころか王族がごまんと暮らしているわよ。」

「あー。」

 駄目だ。城には俺を放逐した人間がいる。下手に俺が生きてるなんて知られたら何をされるかわからない、そんな状況で王都に近づくわけにはいかない。…やばい、いきなり積んだかもしれない。

「後は、…冒険者ギルドの中でもトップクラスの実力者ならなにか知っているかもね。」

「…冒険者ギルド?」

 何か重要な単語が出てきた。俺はセティアの方にしっかと向き直り話を聞く体制にする。

「そう。えっと、冒険者ギルドっていうのは冒険者として登録した人たちに仕事を斡旋するところなの。まあ冒険者とは名ばかりで何でも屋っていう方が正しいのかもしれないのだけれど。冒険者の仕事もお使いからモンスター討伐まで多岐にわたっていて中々凄まじいのよ。で、冒険者には下から五等級・四等級・三等級・二等級・一等級と等級があって、さらに一等級冒険者の中のトップクラスの特級冒険者とまでなると魔族と戦うことだってできるのよ!」

「お、おう…。詳しいんだな。」

「!」

 セティアの語りには非常に熱が入っており、俺は驚きつつも詳しいということを指摘した。するとセティアはハッと我に返ったようになり、顔を真っ赤にして俺から視線をそらした。

「お、おい…?」

「…ぃ?」

「えっ、なんて?」

 セティアが何か言ったのだが、囁くような声で聞き取れなんかしない。俺が問い返すとセティアは赤い顔のままぐるりとこちらを振り返り叫んだ。

「冒険者に憧れていて悪い!?私いつか冒険者になって世界を見て回りたいと昔から思っているの!そのために冒険者のことを調べたり、体を鍛えたりしてたわ!なんか文句でもあるの!?」

「お、落ち着けって!…別に何にも悪くない。それがセティアのやりたいことっていうのなら笑ったりしねぇよ。…俺なんて何の目標もないんだ。やりたいことがあってそのために努力できるって、スゲーことだと思う。」

 セティアを落ち着かせるために言った言葉だが、ほとんど本心でもある。俺は何も考えずに生きていたから、こういう目標があるやつは凄いと思う、と同時に少し眩しい。

 セティアも落ち着いたようで最初こそ面食らった表情をしていたが、すぐに笑顔になった。

「ありがとう、シューヤ。…そうだ、この町にも冒険者ギルドがあるの。良ければ案内するわ。」

「本当か?…じゃあ、お言葉に甘えさせて、」

 セティアの提案を受けようとした瞬間、背中を嫌な汗が伝った。俺の第六感が何かを感じたのだ。嫌な予感がした俺は呆気に取られたセティアを横目に、窓に駆け寄りカーテンを力任せに開け放った。


 それと同時に窓の外からー町の方角から大きな爆発音がし、黒い煙がたなびくのが見えた。

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