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情けは自分の為にする

 さて、町に着いたのはいいのだが…。


「どうすっかなぁ…?」


 無一文で放り出された俺に金などない。当然といえば当然の話だが、どうやってこれから生活していくのかのプランが全く立っていない。いきなり積んだ。

「GMがいるわけでもないし、ましてや攻略本もない。」

 道行く人々はせわしなく歩いており、俺のことを気にする人間はいない。当たり前だ。

「…もう夕方か。」

 日が傾きつつあるこの時刻、夕飯の支度やらなんやらで人々は忙しいのだろう。ぼんやりと町の公園(らしき広場)のベンチに座りつつ、これからのことに頭を悩ます。


「きゃあ!」


 ぼうっとしていた俺の耳に女の子の声が聞こえた。声の方向を見るとひとりの少女がいた。俺より少し年下だろうか。全体的に地味な印象を受けるが、顔立ちはかわいらしくそこそこ整っている。しかし、

(何も俺の座ってるベンチのすぐそばでもめるなよ…。)

 少女はガラの悪い男たち…ごろつきに囲まれていた。どうでもいいが、俺の座っているベンチから10メートルも離れていない場所でもめないでほしい。


「いててて!…おい嬢ちゃん、今ぶつかったよなぁ?」

「ひっでぇなぁ!アニキに謝れよ!」

「ついでに有り金も全部置いていきな!」

 ごろつきたち…アニキと呼ばれた巨体な男A、ひょろ長い縦長の男B、ちびなサルみたいな男Cが次々に少女をののしっていた。

「何ですか…。ぶつかってきてのはあなたたちの方ですよね!あなたたちが私に謝って有り金を置いていくのが筋なのではありませんか?」

 どうやらごろつきたちは当たり屋のようだ。どんな世界にもいるんだなと感心していたが、少女は意外に気が強いらしくしっかり言い返していた。するとごろつきたちの顔が怒りに染まっていった。…おいおい、単純すぎるぞ。煽られ耐性低すぎだろう。三下臭がプンプンする。

「おいおい、嬢ちゃん………どうやら痛い目見ねえと分からねえらしいな!」

 そういうとごろつきAは手を前に翳して一言叫んだ。

「炎よ!」

 すると男の手の平に手のひらサイズの火の玉が浮かんできた。

「喰らえ!」


 ごろつきAがそう叫んだ瞬間、男は突如『爆風』により吹っ飛んだ。


「「ア、アニキィ!!」」

 ごろつきB・CがうろたえながらごろつきAに走り寄った。

「駄目だ!完全に気を失っている!」

「畜生!誰がこんな真似を!…しっかりしてください、アニキ!」

 ごろつきたちはすでに少女は眼中にないらしく、気絶した男を連れてどこかに行ってしまった。あっけなかったなと思いながら俺は再びこれからのことに思いをはせた。


「…あの、」


 気が付くと少女が俺に近づき声をかけてきた。

「助けてくださりありがとうございました。」

「…何の話?」

「気付かないとでもお思いでしたか?…恥ずかしながら私は魔法が使えません。そしてこの場であの男たちの他にいらっしゃった方はあなただけです。私でないならば消去法であなたが何かをしたと考えるのが自然かと思いまして。」

 わざと愛想悪く少女に答えたが、彼女は気にした様子もなく屈託のない笑顔を浮かべていた。

「…本当は助けなんていらないとも思ったんだけどね。」

「…え?」

「武術を嗜んでいるわ、懐には短剣を隠し持ってるわ……ぶっちゃけ俺が何もしなくてもよかったかなって。」

「…!」

 俺の言葉に少女は驚いたように懐を押さえた。ちょうど短剣の入っている真上だ。種明かしをすると『接触感応』で地面を通して彼女の強さの情報を読み取ったり『透視』で懐を覗いたりしていただけだ。大したことはしていない。

「…あなたは凄い魔法使いですね。私の懐を見抜くなんて『精霊魔法』じゃないですよね。『無系統魔法』ですか?」

「………。」

「詠唱破棄であれだけの威力の魔法を繰り出したのを見ても、あなたは只者ではなさそうです。」

 少女はなおも俺に話しかけてきた。その話に俺がどう返答するか考えあぐねていると、何か勘違いしたらしく勝手に話を進めていた。


 俺は魔法は使えない。ただ、超能力でごろつきの手にあった火の玉を本人の背後に『瞬間移動』で飛ばし『発火能力』で火の玉をさらに大きくして『念動力』の力で男の足元に火の玉を衝突させただけだ。魔法なんて凄そうなものは使っていない。しかし誤解させたままのほうが色々と楽なので訂正はしない。


「…すみません。そんなことを聞いたところで、自分の手の内をさらすことになるのですから答えられるわけないですよね。」

「はあ…。」

「では、私はこれで失礼します。」

 少女は一人で納得し俺の目の前から去ろうとした。…いや待て。

「なあ。」

「はい?」

「俺は終夜。水無瀬終夜。…もし、あんたが少しでも俺に感謝してるっていうのなら、頼みがある。」

「…えっと?」

 俺が呼び止めたことで少女は困惑した表情を浮かべた。しかし俺はここで引くわけにはいかない。


「…しばらく衣食住を俺に提供してほしい。勿論あんたの言うことには従う。この通りだ。」


 俺はそう言って頭を下げた。

 …さすがに人の目がある町中での野宿は避けたい。そのためなら頭の一つや二つ下げるし、なんとなくのノリで助けた少女に一方的に恩を売ることだって俺はしてやる!


「…私はセティア・ヴィーノ。大したおもてなしはできませんが、それでも良ければどうぞついて来てください。」


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