タタ
帝都にある魔術師団付属図書館では銀髪、緑目の男がブツブツつぶやいていた。
机の上にうずたかく置かれた書物は、彼の知りたい情報が容易に手に入るものでは無いことを示している。
「ちっっ、、、これも肝心なことがぬけてやがる」
パタンと開いていた本を閉じ、、頬杖をついて息を漏らす。
「ふぅ、、、どこに落としちゃったんだろな、、」
「何をだい?」
後ろにきていたことに全く気が付かなかった存在に、カイは声を荒げる。
「タタ!
相変わらず気色悪い奴だな、いきなり人の後ろに立つなよ」
「何を落としたんだい?
見ているのは捜し物の術では無い様だが?」
図書室に棲むこいつとは長年の付き合いだが、この登場の間合いのいい加減さなんかが、いつまでたっても慣れやしない。
「お前には、関係ねーよ」
見んな!と開いてた本をたたみ
じゃあな、後、片付けといてくれよ!と立ち上がる。
「ふぅーーん。蚕か。」
タタと呼ばれた青年は、緩く編んで前に垂らした長い金髪の端を指に巻きながら呟く。
資料はどれも蚕に関するものだ。
といっても、その糸の利用法がほとんどで、利便性と機能性の説明に終始している。
OOOOOO
タタ。と、自分が名付けた図書館の精霊(むしろ亡霊か?)のいうところによると、
件の少女の能力「蚕」というのは、自分の為の繭をつくる為にある。
出回っている「蚕糸」は魔道具一般から、ドレスの飾りまで、まさに用途は広い。
そのほとんどは保護機構の管理下にあるが、野蚕の繭を見つけた者は一生暮らすに困らないそうだ。
「繭つくって、何すんだよ」
「変身。身体をつくりかえるのさ。」
虫か?虫なのか?
「繭をつくるのは、蚕にとっても相当な体力と魔力を費やす。だからよっぽどの大けがや、身動きならないほど休息が必要な時しかつくらない。」
「そんな、自己主張激しいピンチってどうだよ?
繭からでてきたって、周り囲まれてちゃ、終いだろ?」
「繭からでてくることは無い」
「からかってんのか」
「繭の中で回復した蚕は、精霊の加護の元へ転移される。蚕が消えた時に繭は破ける」
いやいや、、
「いや、だから、回復する前に繭を破られたりしねーの?
なんで回復するまで待つ訳よ?
そんなおおっぴらにヤバイ状態ですって云ってるわけだろ?」
「繭は中からしか破けない。外から繭を破ったという話は聞かない」
「、、」
「まぁ、実は破ったって話もあるけど、あたり一面巻き込んで、たちまち溶けてしまったっていうね。」
まじかよ
「蚕っていうのは、特に精霊の加護の高い者達だから、さわらぬ神にたたりなし、、さ。」
お前、ほんとに何でも知ってんな、、とあきれ顔で云う俺に、私は知を司る精霊だからねと馬鹿をぬかしたので本を投げつけてやる。
お前はただの亡霊だろーが!
「それで?」
「は?」
「カイ?
何故君は突然蚕に興味をもったわけ?」
云いたくないなら、直接聞くからいいよ?と微笑む。
「い、いや、まて!
話す!
話すから!」
何度されても、頭の中に手を突っ込まれるのは遠慮したい経験だ。
「森にその繭ってのがあったんだよ。
ただの結界だと思って鏡でのぞいたら引き込まれて、そん中に蚕がいたんだよっ」
視線で続きを促される。
「なんか、すげー、いい匂いがしたんだ。
それで、試したら、そいつの口から糸がとれた」
「試して?」
「だ、だから、、その、、口の中に手を突っ込んで、糸を採ったんだよ!」
「、、、、、」
「、、、、、」
「そうか。
まずはお祝いだね、カイ。
君にも突っ込みたい相手が出来たことに。」
OOOOOO
だが、やつは、その先が全く役立たずだった。
なんと探し出す手立ては無いという。
なんでも蚕と呼べるほど精霊に愛されているならば、少女の糸でつくった首輪をつかっても居場所の探求は難しいらしい。
確かに糸から居場所がわかるようじゃ、たちまち狩られてしまうだろう。
蚕を手に入れたい人間はごまんといる。
蚕、体液に魔力が籠もる体質の人間は女しかおらず、それだけでも貴重だが、子も高い魔力を持つというから価値が高い。
保護機構へ莫大な金を払えば子を成す為に借り受けることも可能だが、生まれた子が娘なら、保護機構の所有となる。
そのため、保護機構は例え王族であってもその情報を開示しない。
「まぁ、そう気落ちするな。
会えない時間が愛を育てるっていうじゃないか。」
また、会えるんだろうか、あの少女に。