病は気から
トーコさまの髪は黒い。
瞳は黒いような碧いような不思議な色だ。
肌は象牙。
白いのに輝くような。
風貌からするに、ドゥランタ周辺とは少し異なる、移民か混血なのかも知れない。
「ドゥランタから、問い合わせなど、無かったか?」
医師を迎えに行った先、宰相の執務室で問うた。
もちろん少女に関しての問い合わせだ。
「何も」
お互い主語はなくとも通じる。
先方から連絡がないということは、やはり、トーコさまは拐かしや人身売買のルートで後宮へ入られたのだろうか。
柔らかい物腰で、医者であろう女性をエスコートしながら短い返事がある。
そのポチャな見た目に、何故頬を染めるんだ女医さん!!
間違ってるぞ!
「あー、私がトゥロゥだ。
今日は閣下が養女に迎えられた異国の少女を診てもらいたい。」
いかにも地味でひょろりと背の高い女医は、こちらをみてしっかり頷く。
「心労のせいか、不安定になっておられる。
閣下がとても心配されてな。」
「おいたわしい」
つぶやいた女医の表情は、憂いを含み、意外と柔らかでつい見とれてしまった。
OOOOOO
「閣下」
タロさんがムス顔です。
ギュう。
「、、、閣下」
お医者さん(?)は哀しい顔です。
ギュムう。
ここは雰囲気を読んだ私がなんとかするしかありません。
この「お父様」が、私を心配していることは確かだし、私も心細いし。
「あのう」
みんなの視線を受けて一瞬ひるむ。
「あの、先生。お父様に、一緒にここにいて頂いてもいいでしょうか?」
「それはっ」
何故タロさんが朱くなるの?
「ええ、トーコ様が良いようになさってください」
お医者さんは思いのほか優しい声で、あっさり許可してくれ、閣下からの気配も緩む。
お父様というのは、歯が浮くけれど、お父様と呼ばずに閣下と呼んでみたら、猛獣の折に後ろ向きに入ったような気持ちになったから二度と間違わない!
「いいのですかっ」
だから何故今度は青ざめてるのタロさんが?
そして何故かベッドの上、閣下(お父様)の膝の上に抱き抱えられ、タロさんもそばに居座っての診察?が始まった。
「トーコさま、慣れたあたりが体調を崩しやすいのですよ。
ですから、少しお話をさせて下さいね。
先ず、ドゥランタでの暮らしについてお尋ねしますね?」
「はい」
緊張してうわずった私の腕を閣下(お父様)が包み込むようにさすってくれる。
むくつけき大男だだ、優しいのだ、たぶん。
お医者さんは私の目をみて微笑みながら続ける。
地味顔だけど、いい人そう。
「あちらは何か美味しい食べ物はございましたか?」
「エッと、ハイ、果物が美味しかったです!」
そうですか、と、ニコリとして、お医者さんは世間話を続ける。
笑顔がなかなか素敵だ。
ドゥランタについて聞かれても、正直何もわからないのでヒヤヒヤしたけど、お医者さんは話し上手で、困るような質問はなく、なかなか楽しい。
「トーコ様は、何かお仕事やお手伝いをされてましたか?」
「いいえ、、
何かお手伝いしたかったのですが」
少し悲しい気分になった私に、すかさず自分が医者見習いであったときの話をふってくれ、しばし、お医者さんの仕事について話が盛り上がる。
「ドゥランタでは、皆様から何と呼ばれていましたか?」
「、、ヒメサマ、、、トーゴネス?」
、、沈黙。
うわっ
恥ずかしい
トーゴネスは無いわぁ
でもヒメサマも無いわぁ、痛い子痛い子とんでいけーってなるわぁ
後も世間話をして、口の中、舌、掌と脈をみて、体調についての問診があり、診察?は終わり、何故か私の心は元気になった。
不思議だな。
病は気からっていうけど、本当にそうだ!
お医者さんがニコニコだと、大丈夫って感じがする!
そもそも病気じゃないしね!