結界
「結界って、触れるもんなの?」
色々驚きすぎて、私の口からでた言葉はそんな間抜けなものだった。
ぼんやり白く光るこの部屋の中で、だれかいないの?、と思ったら、男が現れた。
しかし
いきなり現れたこの男は、あろうことか私の口に指を突っ込み、そこからキラキラ光る糸を引っ張りだしたのだ。
もう理解を頭が拒否してる。
とりあえず、早くこの場を終わらせたい。
「あぁ、蜘蛛の糸みたいなモンだ。
こうやってくぐったり、絡めて巻き取ったり、違うふうに張り直すことも可能だ。」
但し、元の糸の素材にもよるがな、と云って笑う。
蜘蛛の糸!
私には到底触れそうもないあの生物への例えにぞっとする。
今ひとつ耳には入るが、頭に入らない男の言葉は一緒に来いと言っているようだ。
ぼんやりしているながらに、何処かへ連れて行こうとしているのが解る。
「遠慮します!」
大体こんな軽い流れで人生の長い道のりの方向がぐにゃっと曲がってしまったら大変だ。
なんかこの人、今さらだけど、イキナリ現れたり変すぎる‼
視線をそらして会釈して、きびすをかえす。
助けを求めて、応えた相手にあんまりな態度かも知れないことは頭をよぎったが、恥ずかしさと恐怖が体をつき動かした。
その目の前に手を翳されて、びくっと立ち止まる。
残念だと男の小さなつぶやきを最後に聞いた。