Ⅱ誌
「ねぇ、あなた」
ザッという音と共に現れたのは、十数名の女生徒達だった。筆頭は、グルングルンに巻かれた御髪を持つきつめな顔が印象的な少女。整っているため、眼福モノだと彼女樹向は心の中で拝んだ。
「最近、あなた王子達の周りをうろちょろとしていますわね?」と、彼女より身長の高めな筆頭、まるで女王様はつり上がった瞳を僅かに細め見下す。王子達、というのは攻略対象者たちのことだ。相手は上級生、それも十数名もいるのに関わらず彼女は、気丈だった。
「あぁ、気分を害したのでしたら謝りますわ」
ぺこり、淑女の誤り方で頭を下げる。「私、恋愛ドラマが大好きですの!」彼女がそういえば、私たちもよ。と女王様達は口々に言うと、「ですが、うろちょろとするのは意味が分かりませんわ?」女王様がそう問えば、後ろの女子たちは頷く。
「そこに、恋愛ドラマがあると思ったからですの」彼女は、知ってるこれから乙女ゲームとして沢山の恋愛ドラマが現れることを。「王子達は、みんなの王子達ですわ!」怒りで、つり上がりすぎた瞳で見られても、彼女は冷静だった。
「みんなの、王子ですか?それは、違うのではないですか?」彼女は、問いかける。「たった一人の人が必ずしも居るのだと、母に教わりましたわ。生涯、みんなの王子でいられますか?違いますわ」
それに、何故かハッとした十数名の女生徒達。
暴力沙汰にならなくて、良かったとほっとする彼女をよそに彼女の行動は思わぬ方向へと進んでいた。
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「たった一人の人…ねぇ」
真下を見下ろし呟くのは、麗しい青年。サラサラの髪が風に靡き一層魅力が露わになる。
「野園、樹向ちゃん」
君は、いつ気づくのだろう?少し、楽しみだね。
*****
「あなた、お名前は?」何故か女王様に気に入られた彼女は、ある日突如押し掛けてきた彼女に名前を聞かれ「野園、樹向」と言えば驚かれた。
「野園、様……?!」と、上級生に様をつけられると何故か違和感がある。「あの、野園様と気づかず失態を!」
と、土下座の勢いで謝られるとこちらも謝りたくなる。「…いいですの、私…ただ娘として生まれたにすぎませんもの」と微笑を浮かべ言う。
彼女の家は、世界屈指の名家である。その昔、どこぞのお国の王妃として嫁いだ人もいる。企業レベルも世界でも高くその企業の名前は知らない人もいないくらいの大企業である。しかし、彼女の家がそれだと知るのは数名しかいない。なぜ、女王様が気づいたのかは彼女の家と野園が提携してるからだろう。
「私、春間麗香ですの。樹向様っとよんでも?」
「様は、いいですわ。麗香様」「いえ!私こそ、いりませんわ!」
数分の攻防のすえ、「麗香さん」「樹向さん」となりました。
あら、気づいたらヒロインのおっかけが出来ていないと気づいた彼女は心底落ち込んだのだった。
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