Ⅰ誌
彼女の密かな趣味、それは観察だ。昔から観察グセがあった彼女はこの高校に入学して良かったと心から思っている。なにせ、観察しがいのある物語がそこにはあるからだ。
この高校は、俗に言うお金持ち学校である。私立の、どこぞの企業の子息や令嬢が犇めくこの学校にかよう彼女も一応お金持ち。そこいらで、お金持ちトークに興じる人たちでいっぱいである。しかし、彼女はお金持ちらしからぬ生活をする。登校は専らリムジンだったり一目で高級と思える車での人たちが多い中彼女は普段は歩き。時たま、車での登校くらいだ。
そして、今日ものんびりと登校しつついいものを発見した。その視線の先には、美少女と爽やか美男子。転けかけた美少女をすぐさま助けた美男子、あまりにも近いその距離にときめいたようだった。
「ほほう、今日はハプニングイベント!」
鞄からノートを取り出し、せっせと書き記す。
今日もいい1日が始まったとばかりに、僅かに口元に笑みを浮かべた。
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彼女がここが“乙女ゲーム”の世界だと気づいたのは入学式の、生徒会からの挨拶の時だった。演説する生徒会長をみて、彼女は凄まじい量の記憶が頭に一気に押し寄せ一瞬パニックに陥った。しかし、その記憶の波が治まると彼女はすべてを思いだしていた。
物語が始まるのは、ヒロインが二年生に転入してきてから。もうすぐ、ヒロインが現れるのだと心を踊らせた。
「君、手を貸してくれませんか?」
誰かが呼ばれたらしい、そう彼女は認識したが呼ばれたのは自身だと気づいたのは暫くたってからだった。なんども、連呼されれば、イヤでも気づく。しかも、そこには彼女しか立っていないから。
振り向けば、麗しい顔の生徒会長様だった。
彼女はキョロキョロと眼球だけを器用に動かし見てみたがヒロインはいらっしゃらない。仕方なく、彼女は生徒会長様に近づいて行く。
「何をすればいいですか?」
「すみませんが、そこにある資料を取ってください」
生徒会長様は、手に沢山の資料を抱え込みこれ以上持てそうにもない。なぜ、彼はそんなに資料をひとりで持っているのか疑問に思ったが、彼女は言われた資料を抱え「どこに持って行きますか?」と手伝うアピール。「いや、ここに重ねて…「持ちすぎたらバラまいてしまいます」と、返答すればしぶしぶ「生徒会室です」と小さく言った。
彼女は、あぁ関わってしまった。と心で零すも、見捨てる事も出来ないのでまあ、仕方ないと完結させる。
例に漏れず美しい生徒会長様は、紳士王子だ。大抵俺様会長というありがちな設定ではない。
「大丈夫ですか?重くないですか?」と時たま聞いてくるので、はい大丈夫とかえす。
漸くたどり着き言われた場所に、置くとそそくさと去る。
「あ、お茶でも…」と言いかけた会長にぺこりとお辞儀をして、生徒会室を出た。ささっとその場を離れ、とある空き教室に入り込みどこからともなくノートを取り出す。
「まさか、出会ってしまうとは…」しかし、紳士王子の癖を見つけれたことに心を踊らせた。出会ってしまったものは仕方無いあまり印象に残らなければいいのだと心でごち、あれほどの短縮されたお手伝いでは印象に残らないと思った。
「メモ、紳士王子の癖」
*照れると、人差し指を鼻下に置く癖がある。
現に、お茶でも…とあまり女子を誘わないだろう彼は頬をほんのり赤らめそこに人差し指を置いていた。年下に、あれほど照れるとは…まあ、いい。印象に残らなければ。
しかし、彼女は知らない。
*****
「あ、…」
行ってしまった、彼女をそのまま見送ってしまった。伸ばした手を引っ込め、初めてのその態度に何故かときめいた。
素っ気ない女子なんて、初めてでいつもはベタベタと執拗に近づいてくるほかの女子とは違う。
「また、会えますよね」
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