序
くすり、彼女は密かに笑ってカチカチっとシャープペンシルを扱う。どこからか取り出したノートを広げて、せっせと何かを書き記す。
「ほほう、そうきたか!」
と独り言をこぼしつつ、チラチラッと周囲を見つつ書き記す。「………わんこルートぉ」
書き終わった彼女は、満足げにノートを閉じその場を後にした。
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とある教室、とある席に例の彼女は座っていた。
「野園、せんせー呼んでる」フツメン男子が彼女にそう告げると彼女は「へーい」と返事すると立ち上がり教室をでた。
彼女に用件を言ったフツメン男子を含め、数名の男子たちは彼女の事を話題にした。「野園って、ぱっと見地味だけどさ可愛いよな」「確かに、気取ってないし」「だなー近くの花?」
野園 樹向、高校一年生。地味に見えるが可愛い容姿の女子生徒である。しかし彼女は時たまに奇行に走るところが少しキズかもしれない。
「ふふん、ふふん、ふふーんふん」
なにやら、発見したらしい彼女はキラリと瞳を輝かせた。「おほほほほ」素晴らしいものを見つけたとばかりに愛用のシャープペンシルをにぎりしめその光景を忘れないようにと凝視した。その視線の先には、とある男女。
ふわふわの髪と、ぱっちり二重。ぷっくりとした唇にほんのり色づいた頬をもつ美少女と、たれ目の愛らしい少年だ。
少年の髪色はあかるいブラウンで少し左右が跳ねておりまるでたれ耳のよう。彼女は彼のことを、わんこと密かに呼ぶ。となりの美少女を、ヒロインとも。
彼女がせっせと書き記すそのノートの題名には、『モブログ』と書かれている。
そう、彼女はこの“世界”のことを“乙女ゲーム”だといい自身のことを“モブ”だという。モブの彼女が書き記すその記録だから、モブログなのだ。
「さてと、そろそろライバルイベント発生だぁー」
彼女は、ぽつり呟いた。
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一応恋愛にしてみた。きっと彼女は知らぬ間に自身もその記に巻き込まれてゆく……