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第九百八十話 時の概念

 するとメルバがシェスター同様に難しい顔をして言った。


「……確かにガード魔法はかかっていたはず。それもかなり強力な……」


 するとアジオがこれにすぐさま反応した。


「まさか、この別荘の掃除夫が毎日ガード魔法を解いてはこの大きな別荘内をぜんぶ掃除し、帰り際に改めてガード魔法をかけては帰って行くなんてことが……いや、さすがにそんな馬鹿なことあるはずがないか……」


 メルバはうなずき、アジオに同意した。


「その可能性は完全にゼロではないだろうが、あまりにも無理があるだろう。しかしそうなると……」


「そうですね。他の考えが思いつきません……シェスターさんは何か思いついているんでしょう?教えて下さいよ」


 アジオに改めて話しを振られ、シェスターの重い口がついに開いた。


「……これはあくまで可能性の話しだ。それもかなり荒唐無稽な話しに聞こえるだろう。だが現状考えられるのは唯一これのみだと思う」


 シェスターの発言に合いの手を入れるようにアジオが言った。


「わかりました。どうか教えて下さい。僕らは完全にお手上げ状態なんですからね」


 するとシェスターが重々しくうなずいた。


「もしかするとこの別荘は、時が止まっていたのかもしれないとわたしは思っている」


 すると、さすがにこの考えには皆驚き、これ以上ないというくらいに目を大きく丸くしたのだった。


「……いや、さすがにそれは……時が止まっていたっていわれても……ていうかそもそも時って止まるものなんですかね?……」


 アジオが相当に混乱の面持ちで言った。


 するとシェスターがさもありなんとうなずいた。


「信じられぬのも無理はない。あまりにも荒唐無稽な話しだからな」


「いや、その……信じない訳ではないんですが……いや本当ですよ?他ならぬシェスターさんの言う事ですしね……信じない訳ではないんですが、その……ちょっと理解に苦しむといいますか……」


 混乱の治まらぬアジオに対し、シェスターは落ち着いた声音でもって話かけた。


「ああ、そうだろうな。時というものは常に一定の速度でもって過去から未来に向かって流れ続けるもの……というのが一般的な理解だろうからな。その、時が止まるという概念を持っていないとしても無理からぬことだとわたしも思う。かくいうこのわたしもそんな概念が有り得るのだと理解したのはつい先日の事でな。それまでは君たちと全く同じ概念の持ち主だったというわけなのさ」


「つい先日……ですか?何か心境の変化でも?」


 するとシェスターが再び言い淀んだ。


「うむ……まあ、そんなところだ。それよりも、もし本当にこの別荘の時が止まっていたとすると……いや、待てよ……」


 シェスターは再び何か不吉な事を思いついたのか、それまでよりもさらに凶悪な面相となったのであった。

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