第九十七話 氷結瀑布
「こいつも、慌てず戦えば楽勝かなぁ?」
ガイウスは顔を強張らせながら、ロデムルに問いかけた。
「さすがにこれは、どうでしょうか」
冷静沈着で鳴るロデムルも、さすがにこの大蛇には息を呑んだ。
「とりあえず、連係して戦うしかないね」
「では、私が前衛として斬りかかりますので、坊ちゃまは後衛からの援護をお願いいたします」
ロデムルは言い終えるや、素早く隠し刀を抜き放った。
そして腰を落として飛び込むタイミングを見計らう。
見ると大蛇は、怒りのためかシューッという威嚇音を終始立てつつ、そろりそろりとゆっくり近づいてきていた。
そしてついに彼らの手前十Mほどの距離となった時、十五Mほどの高さにもたげた鎌首を、一気に振り下ろして二人に襲い掛かった。
二人はほぼ同時に左右に分かれて跳び、なんとか大蛇の初撃をかわした。
とはいえ、ガイウスの方は身体が小さいこともあり、あまりにもギリギリだったため、完全にバランスを崩してしまった。
大蛇はそのことに気付いたのか、再び素早く鎌首をもたげると、くるっと九十度回転させて倒れこんでいるガイウスを、その視界に捕らえた。
ガイウスもまた首をもたげて仰ぎ見ると、両者の視線が空中で交錯した。
「ちいっ!!」
ガイウスが舌打ちすると同時に大蛇は鎌首を振り下ろし、猛然と襲い掛かった。
途中、大蛇は口をこれ以上ないという位に大きく開け、鋭い牙を覗かせながら、今にも食いちぎらんと迫ったその時、ガイウスの身体は物凄いスピードで宙へと舞い上がった。
大蛇は目標物が急に視界から消えたために、そのままの勢いで地面に激しく激突した。
次の瞬間、猛然としたスピードでロデムルが大蛇目掛けて襲い掛かった。
ロデムルは刀を地面と水平に構え、横に長く裂けた爬虫類独特の大蛇の眼を目掛けて、力の限りに斬り付けた。
大蛇は、痛みと、片方の視力を奪われたことに怒り狂い、激しくのた打ち回っては、近くの柱という柱に激突して粉々に破壊した。
その時、天井付近から紅蓮の炎が、大蛇目掛けて激しく振り注いだ。
地獄の業火さながらの猛威を振るって荒れ狂う炎は、たちまち地面に張られたわずかな量の水をたちどころに蒸発させ、剥き出しとなった地面を黒々と焼き焦がした。
しかし大蛇には、表面が軽く黒ずんだ程度で、まったく効いていなかった。
「坊ちゃま、どうやらこの大蛇は熱には強いようです」
ロデムルの言葉にガイウスは深く頷いた。
「どうもそうみたいだね。ならば!」
ガイウスは中空に浮かびながら両の掌を下に向け、カッと眼を大きく見開いた。
「氷結瀑布!」
ガイウスが魔法名を唱えると、彼の両掌から無数の鋭利に尖った氷塊が現れ、速射砲から発射される弾丸の如く、凄まじい速度で大蛇に向かって大量に降り注がれた。
氷塊は先ほどの紅蓮の炎ではやけど一つ負わなかった大蛇のうろこを、その鋭利な先端で軽々と切り裂いた。
大蛇は、血飛沫を撒き散らしながら、その痛みにのた打ち回る。
だがガイウスはその手を緩めることなく、大蛇の動きが完全に止まるまで氷結瀑布を繰り出し続けた。
そしてついに大蛇は、断末魔の叫びを上げながら目一杯に鎌首をもたげた。そしてゆっくりとスローモーション映像を見ているかの如く、鎌首を倒して横たわった。
ガイウスはそこでようやく魔法を止めて、ゆっくりと降下を開始した。
「ふう、なんとか倒せたみたいだね」
ガイウスは、紅蓮の炎によってカラカラに水が干上がった貯水池の床にすっくと降り立つと、傍らのロデムルにそう話しかけた。
「どうやらそのようです。ですが、この大蛇があの黒柱の正体とは思えません」
「確かにね。じゃあまた改めて探索を開始するとしようか」
ガイウスはそう言うと、再び先陣を切って歩き始めた。




