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第九百六十九話 水蒸気

 すると扉は金属の軋む音を立てながら、少しずつこの隙間を開けていった。


 と同時に、部屋の中に立ち込めていた煙のようなものが、またぞろ少しずつ廊下へと出てきた。


 シェスターは手を伸ばしてそれに触れると、指先についた何かを人差し指と親指とで擦り合わすようにしながら凝視したのだった。


「……水か?……ならばこれは水蒸気のようなものか?……」


 シェスターがそう独りごちると、アジオも恐る恐る手を伸ばした。


「……あっ!冷たい……本当だ。どうやらこれはただの冷たい水蒸気みたいですね?」


 すると突然シェスターの視線が鋭くなった。


「うむ。だが念のため気をつけながらやってくれ」


「え~と、それは……」


「念のため気をつけながら思い切りやってくれという意味だ。ここでこれ以上時間をかけるのも何だしな?そろそろひと思いにやろうじゃないか」


「了解。では充分に気をつけながら……」


 アジオはそう言いつつ、そろりそろりと刀を持つ手を伸ばした。


 そして今度は力強く刀で、扉を一突きに叩いた。


 すると扉が勢いよく開き、冷たい水蒸気のようなものが大量に廊下に溢れ出してきた。


 シェスターとアジオは念のため一旦素早く後退するも、水蒸気がそれ以上外に溢れ出てこないことを確認すると、一歩前へと足を踏み出した。


「……どうやら密閉された部屋の中に冷気が溜まっていたということらしいな……」


「ですね。しかし、そんなことどうやって……」


 すると突然後ろからメルバが声を発した。


「おそらくそれも何らかの補助魔法だと思いますよ?」


 するとシェスターが納得といった表情となった。


「なるほど。補助魔法か……やはりさすがに詳しいな?」


 するとメルバが両手を広げて肩をすくめた。


「いえ、わたしの得意系統が補助魔法なものですから……とはいってもそれがどんな補助魔法かまではわからないですけどね」


「いや、それで充分だ。補助魔法ならば攻撃性はないはずだ。ならばとりあえず安心して部屋の中に入れるというものだ」


「ええ、ですがこの冷気は安全でも室内に罠がないとはいえません。どうかお気をつけを……」


 するとシェスターが力強くうなずいた。


「ああ、そうだな。充分に気をつけることとしよう」


 シェスターはそう言うとアジオと顔を見合わせ、両腕を青く輝かせながら一歩、また一歩と歩き出した。


 そして、やおら室内へと足を踏み入れたのであった。


「……水蒸気が立ち込めていて何も見えんな……」


 シェスターは部屋の中が靄がかかったかの如くに染まっていたため、手でそれらを払おうとするも、あまりの量の多さにまったく埒があかなかったのだった。

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