第九百六十一話 別荘群
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「まあな。だがまあ何にしてもあと数時間後には別荘だ。無論そこで謎解きはせねばならんが、ある程度休むことも出来よう」
「そうですね。かくいう僕もそんなには疲れが取れていないんですよね。それにたぶん皆も。なので別荘へ着いても謎解きは明日に回して、今日のところは休みませんか?」
「ふむ……そうだな。別荘に着く頃には日も暮れるか……よし、ならば後で三兄弟に聞いてみることとしよう。なんといってもこれは彼らの問題だからな。彼らが決めるのが筋というものだろう」
「ま、確かに。では少しコメットにでも根回ししておくとしましょう」
アジオはそう言うや、するすると後退していった。
シェスターはふっと苦笑を漏らすと、目の前に現れる高々とそびえ立つ山へと向かって進んでいくのであった。
2
「……そろそろ見える頃かな?……」
シェスターがいつの間にやら傍らに戻ったアジオに対して語りかけた。
「ええ、そうですね。そろそろ……ああ、見えてきましたね別荘群が……」
「ふむ……さすがに大層立派な建物が建ち並んでいるようだな?」
「まあ、フラン元大司教が買うくらいのところですからね……超のつく高級別荘地だろうとは思っていましたが……正直想像以上ですね。一つ一つの別荘がでかすぎますよ」
「そうだな。ところでアジオ、バルトを呼んできてくれないか?ここから先は彼の道案内が必要なのでな」
「了解です。すぐに呼んで参ります」
アジオは言うや、馬首を返して後退していった。
するとそれに入れ代わるようにエルバがシェスターと肩を並べた。
「結局尾行はなかったみたいね?」
シェスターはうなずき、エルバの顔を見た。
「ふむ。だがどうやらエルバ嬢は、尾行があった方が良かったような口ぶりだな?」
するとエルバがニヤリと笑みを漏らした。
「まあね。だってその方が面白そうだし」
するとシェスターが苦笑した。
「おいおい、これは遊びじゃ無いんだぞ?」
「わかってるわよ。でも退屈な日常と違って毎日が本当に楽しいのよ。どうやらわたしは乱を好む傾向があるみたい」
「乱を好むか……困ったものだな……」
「かもね。でも自分から乱を起こす気は無いわよ?だから心配しないで。きっと変なことにはならないから」
するとちょうどその時、バルトがコメット、アジオと共に近づいてきた。
「あらコメット、どこ行ってたの?なんで後ろの方にいたのよ?」
エルバのちょっと拗ねたような問いかけに、コメットが少し弱り顔となった。
「あ、すみません姉様……先程山の中腹で小休憩を取った際に、メルバさんに呼び止められて……それ以来ずっと話し込んでいたものですから……」
コメットはそう言うと顔を少しうつむかせるのであった。




