第九百五十五話 父親
ガイウスは一度大きく息を吐き出すと、静かにシェスターの頭の整理が付くのをじっと待った。
すると、シェスターが再び顔をおもむろに上げたのだった。
「……一つだけ確認したいことがある。正直に答えてくれるか?……」
神妙な面持ちのシェスターに対し、ガイウスも口を真一文字に引き結び、これ以上無いというくらい真面目な表情でもってうなずいた。
するとそれを確認してシェスターがゆっくりと唇を動かした。
「……ロンバルド・シュナイダーを、父親として敬愛していたかね?……」
シェスターが一切の感情を押し殺した声音でもってガイウスへ問いを投げかけた。
するとガイウスは、その言葉を目を閉じ何度もうなずきながら噛みしめるように聞いた。
そして実にゆっくりと静かに口を開くのであった。
…………正直言うと、生まれ落ちてすぐの頃は……何とも思っていなかったな。単にこの世での仮そめの庇護者くらいに思っていたんだ。俺の身体が成長するまでの財布ぐらいにね。でも……なんて言ったらいいのか……いつの間にか……そう、いつの間にか自然と変わっていったんだ。それが環境のせいなのか何なのか……俺はいつの間にやらロンバルド・シュナイダーが父親であることを素直に受け入れていたんだ。そこからはもう、たぶん普通の親子関係と大して変わらないものになっていったと思う。まあ、多少は違うけどね。というのも、勿論たまに自分が転生者であることを思い出すからなんだ。そうすると何かやっぱり、親子関係に違和感を感じたりするんだけど……すぐにそういった感覚を忘れて普通の親子関係に戻っていったのを憶えている。何だろうな……慣れなのかな?……そこのところはよくわからないけどね……だから……だから俺は、ロンバルド・シュナイダーを敬愛していたと思う。今思い返してみても不思議な感覚だけどね……でも、間違いなく俺は……ガイウス・シュナイダーは、ロンバルド・シュナイダーを父親として敬愛していた。これは本当の気持ちだ。でも、それを信じるかどうかは貴方が決めるといい。何故なら貴方は親父の……親友だったわけだからね…………
ガイウスはゆったりとした動作で静かに口を閉じると、正対するシェスターの眼をじっと真正面から見据えた。
シェスターはしばらくの間、ガイウスの視線をまんじりともせず受け止めると、静かにそっと口を開くのであった。
「……そうか。よく話してくれた。ありがとう……」
シェスターはそう言って静かに頭を下げた。
ガイウスはにっこりと微笑むと、何かを思いだしたような閃いた顔付きとなった。
…………ああそう。そういう訳で、かなりの部分思い出した訳だけど、やっぱり貴方を殴る気にはならなかったよ、シェスターさん…………
そう言うとガイウスがまたもニンマリと笑った。
すると対するシェスターもまた、それまでの厳しい表情から一変、柔和な暖かみのある笑顔となったのであった。




