第九十三話 黒き巨柱
ガイウスは瀟洒な造りのレストランの二階で、この街名物の川魚をパイで包んで焼き上げた料理を、口いっぱいに放り込んだ。
「うん!これはいけるね」
傍らのアベルもまた、白いクリームソースがねっとりと絡んだ熱々の肉の塊を、これ以上ないというくらいに口を開けて詰め込む。
「んむっふっ!美味しい!」
二人の満足げな表情を確認して笑みをこぼしたロデムルだったが、ふと目をやった窓の外で不可思議な光景を目にした。
それは広場のちょうど反対側から伸びる、入り組んだ路地の先の家の屋根から立ち昇る、黒い煙のようなものであった。
「火事か?……いや」
ロデムルの呟きにガイウスが反応した。
「うん?火事?何処?」
ガイウスがきょろきょろと窓の外をうかがい見るのと同時に、先ほどの黒い煙のようなものが爆発的に膨れ上がり、一本の巨大な柱のようにそそり立った。
「なんだあれは!?」
ガイウスの言葉に、夢中で料理にかぶりついていたアベルまでもが反応し、反射的に窓の外を見た。
巨大な柱は、夏の終わりを告げる入道雲を一直線に貫き、天にも昇る勢いであった。
三人は窓の外の驚くべき光景に見入られ、しばしの時が過ぎ去った。
すると黒い巨柱は次第にその色彩を弱め、薄ぼんやりとした灰に近い色に変わったかと思うと、さらに色を弱めて、ついに音もなく消え失せてしまった。
「なんだったんだあれは、もしやカルラが?」
ガイウスの閃きに、ロデムルも同意した。
「おそらくそうかと。あの方角は、カルラ様が向かった先でございます」
ガイウスはうなずくと同時に、傍らのアベルへと視線を移し、優しく語りかけた。
「アベルはここで食べているんだよ。僕らの分も食べていいからね。おとなしくしていて?」
そう言い聞かせると、アベルは黙ってこくっと頷いた。
ガイウスは、ロデムルへと向き直って声をかけた。
「行こう!」
「はっ!」
ガイウスは勢いよく立ち上がると、一階へと通ずる階段めがけて駆け出した。
だが歩幅の違うロデムルは、ガイウスよりも遥かに早く階段へと到達し、瞬く間に階段を駆け下りていった。
ガイウスが小さな身体で必死に走り、ようやく階段へと到達して階下をのぞくと、ロデムルがレストランの店主にお金を渡しているのが見えた。
ガイウスはその光景を見ながら、必死に階段を駆け下りた。
ようやくガイウスが一階へと到着すると、店主と話し終えたロデムルが言った。
「店主に、アベルのことをよく頼んでおきました」
ガイウスはうなずきながらロデムルの横を駆け抜け、出口へとさらに走った。
しかしそんなガイウスをまたも追い抜き、ロデムルは大股で移動して先に出口へと到達するなり、重い扉を勢いよくブワッと空気の流れを起しつつ開け放った。
ガイウスはロデムルの脇を走りぬけ、店の外へと飛び出した。




