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第九百十六話 小高い丘

「ふ~ん。なるほどね~……でも敵が素通りしたらどうなるの?攻めるに難いなら、ここを無視して素通りしちゃって、直接ルーボスへ攻め込んじゃえばいいんじゃないかしら?」


 このエルバの率直な意見には、アジオに代わってシェスターが答えた。


「それは実際には難しいな。というのも相当な規模の大軍勢ならばここを無視してルーボスへ直接攻め込むことも可能であろうが、そうでなければチキスから打って出た軍勢と、ルーボスの軍勢とに挟み込まれてしまうだろう。そうなれば袋のネズミだ。ただでは済むまい」


「ふ~ん。なるほどね。てことは大軍勢でない限りこの町を落とさないことには先へは進めないってことね?」


「そういうことだ。だがここから見る限り、城塞町を謳うだけあってかなり堅固な造りのようだ。なのでここを落とすとしたら少なく見積もっても万単位の軍勢が必要となろう。そうなるとやはり内乱の際の備えという説明は、だいぶ無理があるといえるな……」


 シェスターは小高い丘の上からチキスの町を目を細めながら見下ろした。


 すると同じ様にチキスを見下ろすエルバが呟くように言った。


「……もし仮にあの町を攻めるとしたら……やっぱりこの丘の上に陣取るのがいいのかしら?……」


 するとシェスターが首を巡らして周囲を見回した。


「いや、この丘はチキスを見下ろせはするが、頂上部分の面積が狭い。とてもではないが精々数百しか兵はとどまれまい。とすれば本陣はここにおくとしても……いや、それが狙いか……」


 シェスターは後ろを振り返り、この丘に連なるような形の、細く長い幾筋もの森を睨み付けた。


「どうしたの?狙いってなに?」


 エルバがいぶかしそうに問うと、シェスターは細い森を指で指し示した。


「あの森を見てくれ。細長い森が四筋、この丘の麓まで伸びている。そしてその先で四つの森は合流し、相当に広大な森が広がっている」


 するとエルバがハッとした表情となった。


「そうか!あの広大な森に軍勢を忍ばせて置くのね?そして機を見てあの四本の細い森のどれかを通って一気にこの丘を駆け上がれば……本陣にいる大将首を取れるって寸法ね?」


 するとシェスターが満足気にうなずいた。


「その通りだ。あの森は伏兵には持ってこいだ。しかもこの丘の麓まで続いているとなれば、攻め込む直前まで敵に気付かれることもないわけだからな」


「なるほどね~上手い手だわ。でも……あの四筋の森に逆に攻め込む側が伏兵を忍ばせて置いたらどうかしら?」


「うむ。その場合、防衛側の奇襲攻撃は難しくなろうな。だがそのためには攻撃側も相当な数の伏兵を置いておかねばなるまい。何せ丘の上には数百しか兵を置けないのだし、万が一抜かれてしまったらひとたまりもない。だとしたら万が一などあり得ないくらいの伏兵を置かねばならなくなる。となればそれだけで防衛側は有利となろう。戦わずして敵の数を大きく減らすことに成功する訳だからな」


 シェスターの説明にエルバは大きくうなずいたのだった。

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