第九百十五話 城塞町チキス
「つまりですね、メルバ殿はルーボスの町を守るというこの一点のためにこのチキスや他の五つの衛星町、転じて城塞町を新たに築き上げたというわけでございます」
すると、アジオの説明を聞き終えたエルバの表情が、さらに険しさを増した。
「何か事が起こった際とは一体どういう意味?まさか世界最強として鳴る我がローエングリンが戦乱に巻き込まれると想定しているということじゃないでしょうね?」
するとこれにシェスターが割り込んだ。
「面白いな。ルーボスはローエングリンの内陸も内陸。他国との国境線が近くにあるわけでもない。にもかかわらず衛星町をわざわざ新しく築き上げるとは……どうやらメルバという男は相当に面白い男のようだな?」
するとアジオが腕を組んで、考え込んだ。
「う~ん、まあそうですかね~。でも一応メルバは外国との戦争を想起してのことではなく、万が一内乱などがあった際を考えて作ったと教皇庁には報告しているようですがね」
アジオが信じているのか、それとも信じていないのか、どちらとも取れる微妙な表情をして言った。
するとシェスターが、ふんと一つ鼻息を鳴らした。
「内乱にしては随分と大袈裟ではないか?このチキスの町以外にも五つ衛星町はあるのだろう?」
「そうですねえ~僕も直接この目で見た訳ではありませんが、他の五つの衛星町の規模も同じくらいと聞いていますから、全体としては相当なものだと思いますねえ~」
「うむ。エルバ嬢は先程チキスを新しいけど小さいと表現したが、それは新興都市ルーボスだと思ったからであって、その衛星町だと考えたとしたらかなりのものだといえるだろう」
「ええ、しかも基本的に城塞町としての機能最優先ですからね。それでいてこの大きさだとすると……やはり相当な規模だといえるでしょうね……」
するとしばしの間、蚊帳の外にされていたエルバが二人の会話に割って入った。
「それはどういう意味?城塞町としての機能最優先っていうのはどこら辺なのかしら?」
するとこれにアジオがかしこまって言った。
「はい。通常、町というのは経済活動を最優先した町造りを行うものです。町民それぞれが商売をしやすいように町を形作っていくのです。そのため防衛という観点に立ちますと、無駄な部分が多くなるのです」
するとエルバが可愛らしい顔をしかめ面にして考えた。
「う~ん。それは……つまり無駄に町が大きくなるってことかしら?」
「はい。その通りです。町を守ろうとするならば出来るだけコンパクトにした方が小回りが効きます。ですが経済活動最優先の町ですと、無駄に大きいものですから守りにくくなるのです。ですがこのチキスの町などは防衛最優先ですから、無駄な部分がなくコンパクトな町造りをしておりますので、守りに易く攻めるに難い町になるという訳でございます」
アジオの説明にエルバは感心して大きくうなずくのであった。




