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第九百六話 記憶

「なんだと!?」


 奇妙な声の突然の告白に、シェスターが驚きの声を上げた。


「……自分が誰だか判らないのか?……」


 すると奇妙な声が半ばパニック状態となった。



…………だめだっ!思い出せない!俺は…………俺は一体、何者なんだ!?…………



 シェスターは奇妙な声の主を、まずは落ち着かせようと試みた。


「とりあえず落ち着け!興奮して自分の名前を思い出せるならそれでもいいが、そうではなかろう。ならばまずは一旦落ち着くことだ」


 シェスターのアドバイスに、奇妙な声の主が応じた。



…………確かにそうだ…………まずは落ち着こう。だけど…………だめだ。心臓の鼓動が半端ない!…………こんなんじゃ、どうしたって落ち着けるはずが…………



「それでも落ち着くんだ!心臓の鼓動が早いというのならば、その音を良く聞けば良い。どんなに早くたって構わない。集中して心臓の鼓動を聞け。何も考えず、ただひたすら集中して聞くんだ」



…………判った…………



 奇妙な声はそれだけ言うと、しばし沈黙した。


 シェスターも同様に静まりかえり、しばしの間暗闇空間が静寂に包まれた。



…………少し、落ち着いた…………



 奇妙な声は冷静さを取り戻していった。


 シェスターはそれを聞いて軽く息を吐き、ゆっくりとした動作でもってうなずいた。


「よし。では少しづつ思い出していこう。先程お前……いや、君はわたしのことを見たことがあると言ったな?」


 シェスターが探るように問うた。


 すると奇妙な声がゆっくりと答えた。



…………いや、見たことがあるような気がしただけで、ハッキリと見えたってわけじゃない。ていうか、目の前に靄のようなものが掛かっていて、よく見えないんだ…………



「……そうか。では声はどうなのだ?同じ様な感じなのかな?」



…………ああ、ハッキリとしたことは判らない…………逆にあんたはどうだ?確かさっき俺の姿は見えないと言ったが、声は聞こえている訳だろ?俺の声に聞き覚えはないか?…………



 問われてシェスターは眉根を寄せて考えた。


「……実は先程から聞いたことがあるような気がしている。だが……思い出せないのだ……」



…………くそっ!…………俺は一体…………いや、だめだ。落ち着かないと…………



「そうだ。興奮しても意味は無い。質問を続けよう。そうだな……自分の年齢は憶えているか?もしハッキリと憶えていなくとも、大体の年齢はどうか?」



…………憶えていない…………でも、たぶん二十歳くらいかな?…………たぶんだけど…………



「二十歳くらいか……確かにわたしが受ける声の感じもそのくらいだと思う。少年よりかは声が低いが、大人というには若い声だ。少なくとも声変わりはしているようだな……」



…………たぶんそうだと思う。だけど…………それ以外のことは何も思い出せない…………



 奇妙な声はそう言うと、失意のためか再び沈黙するのだった。

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