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第九百二話 詮索

「……確かに、だいぶ変わりましたね?」


 アジオがコメットを優しげな眼差しで見つめながら言った。


 するとシェスターもアジオ同様にコメットを見つめながら言った。


「思うに、エルバ嬢との出会いが大きいと思う。そしてそれはエルバ嬢も同じだろう。つまりは相互に良い影響を与えたということだ」


 するとアジオが肩をすくめた。


「ま、そういうことになるでしょうね。なにせ他に思い当たる節がないわけですから……」


 アジオが少し悲しげに言った。


 するとシェスターはそれを見逃さず、アジオに対して素早く突っ込んだ。


「ほう、ずいぶんと寂しそうじゃないか?」


 するとアジオが口を尖らせて抗議の声を上げた。


「何を言っているんですか。そんなことはありませんよ」


「そうかね?コメットを成長させたのが自分ではなく、エルバ嬢だったことで寂しさを感じたのではないのかね?」


「ですから別にそんなつもりはありませんって……」


 アジオはシェスターの考えを重ねて否定した。


 だがそれでシェスターの追及が止むようなことはなかった。


「君はエルバ嬢に雇われている身でありながら、彼女に対しては何の忠誠心も見せない代わりに、監視対象であるはずのコメットに対してはずいぶんと思い入れを見せている。ずいぶんと不思議な話しじゃないかね?」


 するとアジオが深い溜息を吐いた。


「またぞろ僕に対しての詮索ですか……困った方ですねえ……これ以上いくら詮索をしたって何も出てきやしませんよ……」


「そうかな?わたしはそうは思っていないが?」


「それならそれで結構ですよ。どうぞご自由に」


 アジオはそう言い捨てると、踵を返した。


 そしてゆっくりとした足取りで心配そうに二人のやり取りを見ていたトランの元へと行ってしまった。


 シェスターはそんなアジオの背中と、トランの不安気な様子を眺め見て思った。


(……やはりまだアジオには秘密がある。そしてそれはどうやらトランも共有しているようだ。ならば、次はトランを攻めてみるか……)


 シェスターは内心で今後の方針を定めた。


 するとそれと時を同じくして、エルバの声が全体に響いた。


「皆、疲れはどうか?所詮は小休止だから大して疲れは取れてはいないと思うが、よければそろそろ出発したいと思う。いくら魔獣の森を抜けたとはいえ、もうほぼ辺りは真っ暗だ。出来るだけ次の町へ早く辿り着き、宿を取って本当の休息としたい。どうか?」


 このエルバの提案に反対する者などいるはずがなかった。


 エルバは満足そうにうなずくと、高らかに号令を発した。


「では騎乗!」


 エルバは言うや、手綱を取って馬の背に乗り込んだ。


 するとすかさず傍らのコメットも馬の背に跨がった。


 そして次々に皆が馬の背に自らを預けると、エルバが再度号令を発したのだった。


「では出発!」


 一行は軽い休息を終えると、今夜の宿を探し求めて、一路街道を進むのであった。

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