第八百九十八話 屈託ない笑顔
1
殿で起きた突然の爆発音に、シェスターが驚き後ろを振り返ると、青い光が四方八方に飛び散りながら魔獣たちを蹴散らしていた。
「……やはりか……アジオ……」
シェスターはそう呟くと再び前方に向き直り、氷結瀑布を打ち続けた。
(……アジオはやはり魔法士か。以前から睨んでいた通りだ。あいつはどうも俺と同じ匂いがするからな。しかも、どうやら氷結魔法が得意なようだ。そんなところも俺と同じか……それにしてもこれで戦力的にはだいぶ助かる。まだ当分この森は続きそうだが、これならなんとか抜けられるだろう……)
シェスターはそう心の中で独りごちると、遙か前方を睨み据えた。
だが依然として街道は遙か先まで周囲を森に囲まれており、シェスターの予測通り当分道が開ける事はなさそうだった。
「……まあ、こうなったら気長にやるさ……」
シェスターは、アジオの存在のおかげで森を抜ける算段がついたため、にやりと口角を上げて笑うのであった。
2
「……アジオ?……今のはアジオなのかな?……」
中段に位置するコメットが後ろで起こった爆発音に驚き、傍らのトランに尋ねた。
するとトランは、右の森から絶え間なく襲いかかる魔獣たちを軽く切り伏せながらぶっきらぼうに答えた。
「ああ、そうだ。殿は上からだけじゃなく、後ろからも追いかけられるからな。そろそろ魔法でも使わないと逃げ切れないと踏んだんじゃないか?」
「いや、そういうことじゃなくて……アジオって魔法使えたの?」
「……ああ、そうだな。使えるよ。あまり強くはないが、魔獣たちを蹴散らすくらいはな……」
するとコメットが目を丸くして驚いた。
「……知らなかった……アジオが魔法を使えたなんて……」
「そうか。知らなかったのか」
「うん。まったく……そうかあ、魔法を使えたのか……」
するとコメットが自らの左側を伴走するエルバに対して尋ねた。
「姉様はご存じだったんですか?アジオが魔法を使えること」
するとエルバがキョトンとした顔をして言った。
「さあ、知らないわ。だってほとんど話したこともないもの」
「……でも部下なんですよね?」
コメットにさらに問われ、エルバが少し考えた。
「ん~、ま、そうね。でも……よく知らないわ」
エルバは屈託のない笑顔をして言った。
それを見たコメットは、困ったように少々顔を引きつらせた。
「……ああ、そ、そうですよね……」
「うん。あんまり部下のこと気にしてないのよね……でもそれって……良くない傾向よね?」
「はい。部下は大事にしないといけないかと……」
「そうよね。うん。今後はそうするわ」
エルバはあくまで明るく屈託なく言うのであった。




