第八百八十八話 黒装束の男たち
1
「教皇の手の者か?」
シェスターが鋭い眼差しで黒装束の男たちを順々に睨み付けつつ言った。
だが男たちは互いに顔を見合わせながら、戸惑いの表情を浮かべるばかりであった。
すると男たちの中のリーダー格と思われる者が、口と鼻の部分を覆い隠していた布を指でゆっくりと下ろしながら怪訝そうに言ったのだった。
「……キョウコウって何だ?まさか教皇庁にいるあの教皇猊下のことを言っているんじゃないよな?……」
シェスターはアジオと顔を見合わせると、軽めの溜息を一つ漏らした。
「……わたしが見るに、嘘は言っていないように見受けられるが、皆はどう思うか?」
するとすかさずアジオが同意の声を上げた。
「同感ですね。残念ながらわたしもただの雇われ人だと思います」
「左様。わたくしもこの者等は下っ端に過ぎないかと」
アジオに続いてバルトも同意した。
「他の者らはどうか?皆同じ意見ということでいいかな?」
シェスターの問いに皆が一斉にうなずいた。
するとその者たちを掻き分けてエルバがコメットを引き連れ厨房内へと入ってきた。
「お前たちの目的はなんだ!?このわたしの命か!?」
エルバが顔を紅潮させて怒鳴った。
すると黒装束の男たちが一斉に慌てた様子でそれを否定しはじめた。
「違うのか?じゃあ誰だ?誰の命を狙ったのだ!?」
すると先程のリーダー格の男が、怖ず怖ずとした様子でエルバの横を指さした。
「……コメットを?お前たちの目的はコメットなのか!?」
エルバが怒髪天を衝く勢いで怒鳴りながら男たちに詰め寄ろうとした。
だがそんなエルバをすかさずシェスターが片手で制した。
「エルバ嬢、怒るのはいいが、それよりもこの者等の背後関係を探るのが先決だ」
2
襲撃事件より一時間余り、押っ取り刀で駆けつけた警察によって黒装束の男たちは連行されていった。
「随分と時間を食ってしまった。これでは今日の目的地への到着時間は確実に日没後となってしまうな……」
シェスターが溜息交じりに呟くと、同じように溜息を吐きながらアジオが応じた。
「……少し危険ですが……この町には宿といえるものがない以上、出発するしかないのでは?」
「そうだな。しかし結局奴らの背後関係はよく判らなかったな」
「ええ、一応エルバ様付きの者が一人、警察に同行していきましたが、奴らの背後を警察が暴けるとも思えません」
するとエルバが突如として横合いから、シェスターに対して抗議の声を上げた。
「背後関係を探るのが先決と言っておきながら、結局何も判らなかったじゃないか!だったら警察になんか引き渡さず、拷問でも何でもかければ良かったのに!」
エルバのかなり無茶な要求に、シェスターは思わず苦笑を漏らした。
「すまんな。だがさすがに拷問はやり過ぎだと思うぞ。大司教猊下よ」
シェスターはエルバを言い含めるように、軽く笑顔を浮かべながら言ったのだった。




