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第八十七話 陸行十日

 1



「お前たち!ずいぶんのそのそと歩いているねえ。もっとちゃっちゃと歩きな!」


 せっかちな性分なのか、だいぶ先を歩いていたカルラが、いらいらした様子で振り返って言った。


 それにガイウスが不貞腐れたような返答をした。


「へ~い」


 するとその途端、カルラのこめかみにビキッと青筋が立った。


 カルラは憤怒の表情となると猛然と道を取って返し、ガイウスに迫った。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!調子に乗りました!ごめんなさい!」


 ガイウスは迫り来るカルラに恐れをなし、速射砲のように良く回る舌で必死に謝り倒した。


 しかしカルラはガイウスの顔面スレスレの所まで顔を近づけると、口角沫(こうかくあわ)を飛ばして怒鳴り散らした。


「今更謝ったってもう遅いんだよ!生意気な口を利きやがって!たった二ヶ月ぽっちでこのあたしに慣れたつもりかい!なめんじゃないよこのクソガキがっ!」


 ガイウスはピンと背筋を伸ばした直立不動の姿勢で、カルラの飛ばすつばで顔面をびしょびしょに濡らしながらも、じっと只ひたすらに降りしきる激烈な罵倒に耐えた。


「どうなんだい!?わかったのかい!?」


「……はい。もう生意気言いません……」


「本当だね!?」


「はい……本当です」


「ふん!なら今回ばかりはゆるしてやるよ!ただし!今度生意気な口を利いたらただじゃおかないよ!地獄の業火で骨まで焼き尽くしてやるからね!」


 カルラは言い終えると満足したのか、すたすたと歩き出し、あっというまに数十(メルクル)先へと行ってしまったのだった。


 残されたガイウスは呆然と立ち尽くし、同じく傍らで固まって動けないでいるロデムルに向かって、小声でぼそっと呟いた。


「……喰われるかと思ったよ……」


「……おいたわしや坊ちゃま……」


 かくしてガイウスの、カルラに対しての思惑は早くも脆く崩れ去ったのであった。



 2



「だいぶ高くつきましたね」


 ロデムルが相当に毛並みの良さそうな良馬に(またが)り、その馬の首の辺りを優しくさすりながら呟いた。


 するとカルラがいつもの仏頂面でにべもなく返した。


「致し方なしってとこだろ。テーベまではまだここからだいぶあるんだ。いくら高くつこうが良馬を買っておくに越したことはないよ」


 するとガイウスが不安そうな面持ちで馬の背に跨りつつ尋ねた。


「あの師匠……テーベまではどれくらいかかるんですか?」


「そうさね。この馬たちなら十日も走ればつくだろうね」


「と、十日!?まだそんなにかかるんですか!?」


「なにいってんのさ!たかが十日ぽっちで!これまで二ヶ月も散々波に揺られてきたんじゃないか!それに較べれば今更十日位どうってことないだろ?」


「い、いや僕は乗馬の練習は前々からしてはいますけど、まだ軽く速歩(はやあし)で走らせることが出来る程度でして、そんな長時間乗ったことなんかないんです。ですから……」


「ごちゃごちゃうるさい!乗馬なんてものはね、馬の背に揺られて尻の皮を何枚もすりむいて上達するもんだ!いい機会じゃないか!一日一枚!十日で十枚!尻の皮を破いて腕を上げな!」


「そ、そんな~」


「問答無用!行くよ!」


 言うやカルラは即座に馬に鞭を入れ、あっというまに駆け出していった。


 ガイウスはそんなカルラを目で追いかけながら、傍らで控えるロデムルに向かって愚痴をこぼした。


「絶対これはいじめだよ……さっき生意気な口を利いたからって酷いと思わない?」


「おいたわしや坊ちゃま……されど乗馬につきましてはカルラ様の仰るとおりでございます。習うより馴れろ。実際に馬に揺られ、感覚を体得するのが習得のなによりの早道でございます。ですので坊ちゃま、いざ参りましょうぞ!はーっ!」


 言うやロデムルまでもが威勢よく掛け声を発して駆け出していってしまった。


 残されたガイウスはまたも呆然とした顔で馬に跨り、一言ポツリと呟くのだった。


「……絶対いじめだって……」

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