第八百六十一話 三角柱のホテル
1
「……あれ~?たぶんこの辺りだと思うんですがねえ~」
アジオが辺りをキョロキョロと見回しながら素っ頓狂な声を出した。
シェスターは落ち着いた声音ながらもアジオ同様に周囲をせわしなく見やりながら言った。
「……ふむ。どうも見当たらないな。先程道を教えてくれた少年が我々に嘘をついたとは思えないのだが……」
すると二人の後背から怖ず怖ずといった様子でコメットが言った。
「……あのう……もしかしてあの建物では?……」
二人はコメットの指さす方角を見やった。
するとそこには、先程の少年が教えてくれた特徴と全て合致する建物があった。
「……あー確かに町外れの細長い三角柱で、一階部分が商店になっていますね……ですが……」
「……ああ、建物の色がショッキングピンクとは聞いていないぞ?……」
シェスターが呆れた様子で呟いた。
するとアジオが記憶を辿りながら静かに答えた。
「……いやあ、確かあの少年、建物の色は言ってませんでしたねえ……」
「そうかもしれんが、普通真っ先に言うだろう?あんな毒々しい色だぞ?建物の特徴としてこれ以上のものはないじゃないか」
「まあ、普通はそうなんでしょうけどね。でもまあいいじゃないですか。ホテル、見つかったことですし、さっさと行きましょうよ。僕はもう疲れちゃいましたよ……」
アジオはもうすでに疲労困憊といった顔であった。
シェスターは他の者らの顔も見回し、肩をすくめた。
「そうだな。さっさとホテルで休むとするか」
シェスターの提案に一同ホッとしたため息を吐いた。
かくて一行は、大変刺激的な目に悪そうな色のホテルへと向かったのであった。
2
建物一階の雑多な商店の脇にある細長い階段を昇り、バーカウンターの様に突き出した小さな出っ張り部分に肘をかけてもたれかかる壮年の男にシェスターは声をかけた。
「……ここがフロントでいいのかな?……」
「ああ、何人だい?」
男はぶっきらぼうに聞いた。
「五人だ。出来れば三部屋で頼みたい」
シェスターの注文に男は無愛想に答えた。
「判った。二、二、一だな?二人部屋はツインでいいんだよな?」
「ああ、それで頼む」
男はうなずくと直ぐさま振り返り、棚に置いてある部屋の鍵を三つ取ってシェスターへと手渡した。
「一番上の五階だ。ワンフロアー三部屋しかないんでな。フロアごと貸し切りだ。ちなみに一人部屋は狭いぞ?ウチは外観通りの三角型の建物なんでな。一人部屋は三角形の角部屋になるんだ。もしそれが嫌だってんなら別の部屋を用意するがどうする?当然別フロアのツイン部屋になるが?」
先程までと違い、途端に饒舌となった男に、シェスターはゆっくりと首を横に振った。
「いや、せまくて構わない。五階だな?料金は後払いでいいのか?」
「こんな安宿だぜ?前払いに決まっているさ」
シェスターはうなずき、懐から取り出した財布を開き、料金を支払うのであった。




