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第八百五十話 最後の一人

「……そうなのか……しかしそれでは……」


 シェスターは入れ墨の秘密を知り、この後の事を考え暗澹たる思いとなった。


 するとアジオがそんなシェスターの胸中を代弁するかのように言った。


「……となると厳しいですね?他の庶子たちに背中の入れ墨見せてくれなんて、言いづらいですからね」


「……うむ……相手の領地に入った途端、話し合うまでもなく背中の入れ墨を奪われるだろうな」


「殺して……ですか?」


 アジオが恐ろしいことを平然とした顔で言った。


 するとコメットが直ぐさま恐怖をその顔色に滲ませた。


 そのためシェスターは軽く肩をすくめると、後ろで怖がるコメットを安心させるように優しげに言った。


「それはまず大丈夫だろう。とは言ってもそれはアジオのこれまでの話しを信用すればだがね?」


「これはこれは、僕の話はほとんど信用に足るものですよ?全部がって言わないところを含めてね」


 するとこれにはシェスターも思わず吹き出した。


「正直だな?いやしかし、本当のところは信用しているよ。そう、何と言ったかな?長兄の……」


 するとアジオがすかさず答えた。


「メルバですね」


「ああ、そうメルバ。ルーボスの二束三文のやせ細った土地を、原産地農法により肥沃な土地に生まれ変わらせた俊英。大変裕福で、鷹揚な人物だったな?たしか年齢は五十過ぎだったか?」


「ええ、その通りです」


「ありがたいことにエルバ嬢もフラン元大司教の地位を受け継いだため、通常の遺産を受け取り裕福なはずだ。となればこの二人はとりあえずは安心だろう」


「……つまり、残りの一人が問題だと?……」


 アジオが今まで聞いたことがないような低い声でシェスターに問うた。


 シェスターはいぶかしみながらも、その問いに答えた。


「それについてはわたしは判らない。なぜならこれまでその人物の話題が出たことが一度も無かったのでな?どうなのだアジオ?最後の一人は一体どういった人物なのだ?」


 するとこれにアジオが肩をすくめた。


「……残念ですがね……最後の一人は謎なんですよ……」


「謎?それはどういう意味だ?」


「文字通りですよ。誰が最後の一人か判らないもんで……」


「そうなのか?バルト、どうだ?」


 シェスターは視線をバルトに移した。


 だがバルトはゆっくりとした動作で、首を横に振るのであった。


「残念ながらわたしも、その者の情報は何一つ持ってはおりません……」


 するとシェスターが驚き呆れたような声を出した。


「ちょっと待ってくれ。判らないってどういうことだ?情報がまったくないというのなら、何故最後の一人がいると判るのだ?」


 するとアジオが、大きなため息を吐きつつ答えたのであった。


「……フラン元大司教が死ぬ間際に漏らしたのですよ……エルバ、メルバ、コメットの他にもう一人いるとね……」

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