第八百二十五話 レノンへの問い
「……よし、とりあえずこの辺りまでくれば問題ないだろう……」
ドーブは立ち止まり、辺り一面の大氷原を見渡して言った。
「……だがそれにしても、どうなったかな?結果は……」
シェスターがかなり深刻な顔つきでドーブに問うた。
するとドーブも目を細め、険しい表情を作って言ったのだった。
「……こればかりは判らぬ。わたしの実力では、あの方々の力を推し量ることすら出来ないのでな……」
するとシェスターが、一番後ろでしれーっとした顔をしたレノンに気付いた。
「……おい、よくそんな、さも当然といった顔をして付いてこれたものだな?」
だがレノンは特に表情を変えず、落ち着き払った様子で返答したのだった。
「そうですか?わたくしとしては皆様方に付いて参るのが当然だと思うのですが?」
するとこれにシェスターがカチンときたのか、かなり表情を変えてレノンに対してにじり寄った。
「当然だと?それはどんな理屈なんだ?」
だがこれにもレノンは動ぜず、しれーっとした顔のまま応じたのだった。
「人間は悪魔の前では無力ですからね。その悪魔同士の戦いとなれば避難するのは当然だと思うのですが?」
「避難するのは構わない。だがなぜ我らの後を付いてくるんだ?我々は明らかな敵同士のはずだぞ?」
「そうですね。ですが困った時はお互い様と言いますし、ここは一つよしなに……」
するとさすがにシェスターが声を荒らげた。
「よしなになど出来るか!」
するとそこでドーブが仕方ないといった感じで二人の間に割って入った。
「まあ、まてシェスターよ。ここで争ったところでなんにもならんぞ。それにわたしがこの者の同行を許したのには理由があるのだ」
「……理由?」
シェスターが不承不承といった様子で聞き返すと、ドーブは軽くうなずき、言ったのだった。
「……この者に聞きたいことがあるのだ」
するとすかさずシェスターが問うた。
「何を聞くと言うのだ?」
「……なぜガイウス・シュナイダーをダロスの王としたいのか……だ」
「それは、ダロスを欲しいままにしたいからではないのか?」
「……違うだろう。それはシグナスなどはそうかも知れんが、この者はおそらく違うはずだ」
するとシェスターがいぶかしそうな顔となってレノンに問うた。
「そうなのか?レノン、どうなんだ?」
するとレノンが、骸骨に薄皮を貼り付けたような薄気味悪い顔で笑った。
「……さて……どうでしょうか……」
シェスターはさらにカチンと頭にきたのか、さらに一歩前に出ようとするも、その肩を掴んで止めようとする者がいた。
ドーブである。
ドーブはシェスターを押さえると、そのいかつい猪の口をゆっくりと開いて問いかけたのだった。
「……お前は敬虔なゼクス教徒であったな?ならばお前の目的は……ゼクス教による世界統治ということになるのではないかな?」




