第八百十話 貸し借り
「……あ、あるわよ!何言ってんのよ!戦う気満々にきまっているじゃないのよーーー!!」
カリンが気まずさから逆ギレ気味に叫んだ。
するとそれまでそんなカリンと言い争っていたはずのデルキアが、すかさず同調して叫んだ。
「そうだ!やる気満々に決まっているだろうがっ!何を突然訳のわからないことを言い出してるんだ!このくそじじいがっ!!」
するとシグナスがしわくちゃ顔にさらなる深い皺を刻んで苦笑を浮かべた。
「お前たちよりわしの方が若いと思うがな?」
するとすかさずデルキアが勢い込んで反論した。
「見た目の問題だっ!お前はどこからどう見てもくそじじいだが、わたしたちはどこからどう見たってピッチピチに若い絶世の美少女だろうがっ!!わたしはそれを言っているのだ!実際の年齢を言っている訳ではない!どうだっ!わたしは何にも間違ってなどいないぞーーー!!」
するとシグナスがさらに深い皺を刻んで苦笑を漏らした。
「わかった、わかった。では戦う気はあるということなのだな?ならばよい。では再び始めるとしようではないか」
「おう!いつでも来い!今度は油断せんぞ!」
するとカリンが、すかさず冷めた視線をデルキアへと送った。
「あんた、本当でしょうね?今度はしっかりしてもらわないとマジで困るわよ?」
「判っておる!二度はない!」
「ふ~ん、どうだか……」
すると突然、デルキアの表情が瞬時に変わった。
「来るぞっ!!」
姉妹は咄嗟に飛んで、左右に散った。
するとそれまで二人が居た空間を、グラシャ=ラボラスの巨体が凄まじい勢いでもって通り過ぎていったのであった。
「……あ、あっぶなー……」
カリンが思わず安堵の吐息と共に呟いた。
するとデルキアが腰に手を当て、得意満面の笑みを浮かべて大声でカリンに対して叫んだ。
「よっしゃーーーー!!!これで貸し借り無しだな!!」
するとカリンが間髪を入れずに叫び返した。
「な、何言ってんのよ!別に今のはあんたの声が聞こえなくったって避けていたわよっ!!」
「嘘つけっ!お前今、あっぶなーって思わず呟いていたじゃないかっ!!」
「……そ、それは……」
「わたしの地獄耳を舐めるなよー!たとえ何K離れていても、針が地面に落ちた音だって聞こえるんだ!お前もそれは知っているはずだー!」
「……い、いやだからそれは……」
「言い逃れしようったって駄目だ!お前は確かに言った!と言うことは危機一髪だったって事だ!そしてその危機を救ったのは誰だ!?わたしだっ!!このデルキア様だーーーーー!!!」
するとカリンが仕方なくデルキアの言い分を認めた。
「……判ったわよ……じゃあこれで貸し借り無しよっ!」
「おう!五分と五分だ!!」
すると地上から再びシグナスが呆れ返ったような表情を浮かべながら言ったのであった。
「……もういいかね?」




