第八百話 子供
「……して、何用あってここまで来たのだ?」
サタンの思念には、軽い笑い声が入り混じっていた。
それはすなわち、用が無ければアスタロトが来る訳がないとサタンが思っていることを示していた。
だがそれに対してアスタロトはまったく動じることなく正直に応答したのだった。
「はい。それでは用向きを申し上げます」
アスタロトは自身の心情を包み隠さず、単刀直入に言った。
するとサタンがその正直さに対して低い笑い声を上げた。
「くくくく……相変わらずだなアスタロトよ。どうやらお前は本当に歳をとらぬと見えるな……」
するとアスタロトが顔色を変えずにまったくの無表情で答えた。
「わたしの態度が子供のようだと貴方は仰りたいのですね?感情を包み隠さず、本性を露わにするなど子供のようだと……ええ、仰る通りわたしは子供なのです。いくら齢を重ねたところで変わりません。姿形も……その中身もです。全てわたしは昔のままなのです」
「……ふむ。姿だけでなく中身までもか……お前の中では時が止まってでもいるようだが、それはお前の意思によるものなのか?」
するとアスタロトが、それまでの無表情からほんの僅か眉根を寄せた。
「……そうかもしれませんね……」
「ふむ。実に興味深い……お前は昔から……そう、太古の昔から大層変わっていた。他の者らに比べ、明らかに異色であった。その理由が一体奈辺にあったものか、不思議であったが……その辺りがお前の本性なのやも知れぬな……」
「さあ、わたしの本性などわたし自身は興味ありませんので、本題に移らせていただいてもよろしいですか?」
するとサタンがさらに大きな笑い声を上げた。
「どうやらわたしは相当お前に嫌われたようだな?だが、もう少し話しをしたとていいのではないか?久方ぶりに会ったのだからな?……」
するとアスタロトが軽くため息を一つ漏らした。
「……いいでしょう。では何を話しますか?どうぞ仰ってください」
アスタロトは気持ち早口で言った。
するとサタンは苦笑交じりの思念でもって、そんなアスタロトに対して語りかけた。
「そうだな……ならば何故お前はそれ程にわたしを嫌うようになったのかを教えてもらえるかな?」
するとこれにはさすがのアスタロトも少々言葉に詰まった。
「……それは……」
だがすぐに気持ちを持ち直すと、サタンに対して逆に問いかけたのだった。
「……貴方は覚えていないのですか?……貴方がわたしに対してしたことを……」
するとサタンが軽く笑いながら答えた。
「さて、何のことかな?まったく覚えがないのだが?」
サタンは嘲るように言い放った。
するとアスタロトが目に見えて顔色を変えた。
「……そうですか。覚えていませんか……」
そう言うアスタロトの顔は、凶悪な悪魔そのものといっても差し支えないほどの面相へと変わっていたのだった。




