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第七百九十五話 算段

 シェスターが大粒の涙を拭いながら葬列参加者の如くとぼとぼと歩いていると、後ろからメノンティウスの独り言が聞こえてきた。


「……ふん。奴め、相変わらず……」


 シェスターが思わず振り返ると、メノンティウスが実に苦々しそうに前方をにらみ据えていた。


 メノンティウスはシェスターの視線に気付いたものの、なにも言わずただひたすらに前方を睨み続けた。


 そのためシェスターが前に向き直って遙か遠くを見やると、ようやく彼らの終着駅がおぼろげながら視界に入ってきたのだった。


「……あれか……」


 するとメノンティウスが低く厳かな声で呼応した。


「そうだ。あの氷山の中に奴はいる」


 前方には、うずたかく氷が積み上がった尖塔の如き氷山が一行を待ち受けていた。


 シェスターはその氷山の中を目を凝らして見るも、まだ彼らの視力では見通せるものではなかった。


「……あの中に……サタンがいるのか……」


 シェスターが独り言とも質問とも受け取れるように呟いた。


 するとメノンティウスがそれを質問と捉えたのか、静かに答えたのだった。


「そうだ。奴は……サタンは、あの氷の中に閉じ込められ続けている……おそらくは未来永劫……な」


 メノンティウスはそう言うと、軽く一つ鼻を鳴らした。


「……サタンには思うところがありそうだな?敵対しているのか?」


「ほう、また質問か。まだ現実から目を逸らすつもりなのか?いい加減……」


 するとシェスターがメノンティウスの言葉を遮って言い放った。


「違う。そうではない。もしもお前とサタンが敵対しているのならば、まだチャンスがあるではないか。サタンを味方に付けることが出来れば、お前たちをも……」


 すると今度はメノンティウスがシェスターの言葉を遮った。


「何故サタンがお前たちの味方に付かなければならないのだ?お前たちの側にサタンが興味を示す何らかの武器なりなんなりがあるというのならばともかく、お前たちには何もないではないか。ならばどうやってサタンを味方に引き入れられるのだ?何も持たぬお前たちを味方にするいわれが、サタンにはまったくないであろう?」


 するとシェスターは苦衷の表情を浮かべた。


「……それはそうだが……しかし別にサタンを味方に出来なかったとしても、お前たちが戦うようなことにでもなれば、どさくさ紛れでも何でも良い。逃げ出すことが可能かもしれんさ」


 するとメノンティウスが呵々と笑い出した。


「なるほどな。面白い。どさくさ紛れに逃げ出す算段とはな。実に面白いぞ、人間」


 するとシェスターが前方を見据えながら、言い放った。


「笑いたければ笑うが良いさ。だがな、人間は生きてさえいれば希望が持てるんだ。だったらなんとしてでも逃れてやるさ!格好なんて気にしてられるものかよ!」

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