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第七百九十四話 非情な宣告

「……それよりも、どうやらそろそろ到着のようだぞ?」


 メノンティウスが目を細めて遠くを見やりながら、落ち着いた声音でもって言った。


 シェスターは素早く前に向き直り、これ以上ないという位に目を細めて遙か前方を見やった。


「……何も見えん……延々と氷河が続いているようにしか見えないが……」


 シェスターの呟きに、メノンティウスが静かに答えた。


「先程と一緒だな。どうやらまだお前たちの視力では見えていないようだが、わたしの目にははっきりと見えているぞ?奴の捕らわれし檻がな……」


「檻?……檻に入れられているのか?」


 するとメノンティウスが軽く笑い声を上げた。


「……いや、そうではない。奴は氷に(とら)まえられているのでな?そう表現したまでだ……」


「……ふむ。詩人だな?」


「それほどでもあるまい。それよりも……よいのか?もう間もなく別れの時が迫っているぞ?」


 するとシェスターの顔が目に見えて曇った。


 それを見てメノンティウスが追い打ちをかけるように言った。


「……先程からお前はわざとそのことを忘れるために、他の事柄について考えていたようだが、時間というものは確実に過ぎていく。無為に時を過ごそうと、いたずらに他のことにかまけようとな……」


 図星を突かれたシェスターの顔には、より一層の影が落とされた。


「……判っているさ。そんなことはな……」


「それはそうであろう。お前はあくまでわざと他の事柄に注意を持っていっていたのだからな。これから確実に行われることを忘れるために……な」


 メノンティウスの無情な言葉にシェスターの顔がこれ以上ないくらいに歪んだ。


「……なんとかならないのか?なんとか……」


 だがそんなシェスターの懇願はメノンティウスには届かなかった。


「だめだ。これは必然なのでな。それに、当の本人は既に覚悟を決めているようだぞ?」


 メノンティウスの言葉通り、ロンバルドの顔はスッキリとした表情となっていた。


「……副長官……」


 シェスターが思わず呟いた。


 するとメノンティウスがそれを遮って冷たく言い放った。


「お前もいい加減に諦めよ。もはや運命は決したのだ。お前たち人間が束になっても我ら悪魔には敵わんことくらい判っているはずだ」


「……そんなことは判っている。だから聞きたい。他の方法はないのか?ガイウス君を呼び戻す他の方法はないのか?……」


 だがメノンティウスの言葉はシェスターの希望を完膚なきまでに打ち砕くものだった。


「無い。そのようなものは全く無い。故に諦めよ、人間」


 メノンティウスの非情な宣告に、シェスターは思わず顔をクシャクシャにして、大粒の涙を零すのであった。

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